社長の柚山精一さん(49)は、「魔法の道具ではない。『急ぎ』『少ない』『特殊な形状』といったものづくりでないと使う意味がない」という。プラスチックや金属の加工は、工作機械や金型が長く使われ、精度が高く、コストも安い。そこに3Dプリンターを持ち込んでも太刀打ちできない。

 真価を発揮したのが、2021年夏の東京五輪の表彰台の仕事だった。台の側面に組み込むエンブレムを模した立体的な市松模様のプラスチック部材を、1カ月で7千個作らなければならなかった。部材の大きさは20センチ四方、厚さ5センチ。同社の3Dプリンターは、プラスチックを押し出すノズルの穴が大きく、造形が速い。同時に12個作るようにし、24時間動かした。「他の作り方では間に合わなかった」と振り返る。

高さ、幅、奥行きとも最大3mまで造形できる大型3Dプリンター「茶室」で、黒いタンクを造形中。柚山精一社長が手をかけているのはプリンターで作ったいす

 「チョコレートでも、コンクリートでも造形でき、家を建てることにも応用できる」と柚山さん。大型化や造形に使う素材の多様化を進めている。2021年、世界最大級の3Dプリンター「茶室」を出した。価格は約4千万円。高さ、幅、奥行き3メートルのプラスチック製の立体を作製でき、いすなどの家具や、遊具などの生産に使える。

 素材の面では、コンクリートを塗り重ねて壁を作るタイプを開発中だ。住宅メーカーなどと組んで実用化を目指す。人手不足の建設業界ではニーズがあるとみる。さらには、機械や自動車の部品に広く使われる金属やセラミックスにも取り組む。これらの素材を細かく砕いてプラスチックと混ぜる技術を持つ第一セラモ(滋賀県東近江市)と、電気炉を手がける島津産機システムズ(大津市)などとの共同研究に加わり、得意な技術を持ち寄る。

金属を造形できる3Dプリンターの実用化に向け共同研究を始めたエス.ラボの柚山精一社長(左)と島津産機システムズの幹部ら

 この狙いは、日本メーカーが使いやすい3Dプリンターでの加工法を見いだすことだ。柚山さんは「いろんな金属を加工する技術を確立し、私たちも成長したい」と話す。(2022年3月26日朝日新聞地域面掲載)

エス.ラボ

 柚山精一社長が2005年に起業。プラスチック製品を作る工程の一つで、粒状のプラスチックを熱で溶かす機械を製作していた。13年から、その技術を生かして3Dプリンター製造を始めた。金属を削って加工する工作機械も手がける。従業員11人。