ビジネスへの障害者参加、なぜ大切?機関投資家が注目するインクルージョン
インクルージョンとは、組織のなかで個性や価値観を認め合い、一体感をもって働ける状態のことです。機関投資家として、企業の障害者インクルージョン施策をどうみるのか、日興アセットマネジメントの河野大介コーポレート・サステナビリティ部長に聞きました。
インクルージョンとは、組織のなかで個性や価値観を認め合い、一体感をもって働ける状態のことです。機関投資家として、企業の障害者インクルージョン施策をどうみるのか、日興アセットマネジメントの河野大介コーポレート・サステナビリティ部長に聞きました。
ビジネスにおける障害者インクルージョンを推進し、インクルーシブな社会づくりを目指すムーブメント「The Valuable 500」(V500。リンク先は支援する日本財団のホームページ)。
2019年にアイルランド出身の起業家キャロライン・ケーシーさんが提唱し、世界中で多くの企業が参加しています。
企業経営を分析し、株式や社債を売買する機関投資家は、各社の障害者インクルージョン施策をどう見ているのでしょうか。
なぜ障害者インクルージョンが重要なのか、自社の取り組みは――。
日興アセットマネジメントでコーポレート・サステナビリティ部長を務める河野大介さんにお話をうかがいました。
――東京パラリンピックが終わりました。車いすラグビーで銅メダルを獲得した日本代表チームの主将、池透暢(ゆきのぶ)選手は日興アセットマネジメントの社員だそうですね。
はい。
当社には「アスリート雇用」があり、障害を持つアスリートが複数名在籍しています。
池選手もその1人です。
――障害者雇用を含め、自社の多様性を高めるためにどんな取り組みをしていますか。
2018年にコーポレート・サステナビリティ部ができました。
3つある重点領域の1つがDiversity & Inclusion(多様性と包摂、D&I)です。
社内には任意参加のワーキンググループ(WG)が9つあり、海外拠点も含め60人以上、全社員の7~8%が参加しています。
活動の一例を挙げると、女性活躍に関するWGの提案がきっかけで、会社として女性管理職比率の目標を定めました。
障害者WGでは、中古の子ども用車いすを新興国に贈るNPOで整備会に参加させてもらったり、手話セミナーを開いたりしています。
D&Iには性別や障害の有無だけでなく、性的指向、宗教、国籍など様々な要素が含まれます。
――なぜD&I施策に力を入れるのですか。
ダイバーシティとインクルージョンが、創造性やイノベーションの源泉だからです。
我々は工場を持っているわけでも、形のある物を作っているわけでもありません。
資本と言えば人間、つまり社員だけで、そこに対する投資です。
よりイノベーティブな商品やサービスを提供しないと、競争についていけません。
その意味でD&Iは会社の経営戦略上、重要です。
障害者インクルージョンもD&Iに含まれます。
――機関投資家という立場から、投資先のD&I施策をどう見ていますか。
D&Iに積極的な企業は企業価値が上がりやすい、つまり株価が上がりやすいとされています。
我々の運用プロセスの中にも、そんな要素を組み入れています。
――具体的に聞かせて下さい。
国内株の運用の中に、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)という評価基準を組み込んでいます。
ハーバード大学の経営学者マイケル・ポーター氏が提唱した理論で、「社会的課題を解決する取り組みを通じて、企業の経済価値は向上する」というものです。
つまり企業のD&I施策は我々の投資判断に影響を与えます。
――例えば「障害者インクルージョンに消極的な企業には投資しない」という判断はありうるのですか。
「障害者雇用率が何%以下なら投資しない」など、特定の数値で決めるわけではありません。
例えば障害者雇用率について言えば、雇用戦略がどうかを見たいんです。
なぜかというと、雇用戦略はどの企業にとっても重要で、うまくいけば企業価値向上につながるからです。
もしそこに課題があるなら、その企業との対話の中で問題提起をします。
結果として企業価値が上がり、ウィンウィンの関係を作る、というのが我々のスタンスです。
もちろん広く雇用戦略を見る中で、障害者が活躍できているかどうかは大事な要素です。
――障害者雇用に積極的なことは、投資を判断する際にポジティブな要素になりますか。
イノベーションを生み出しやすい、独創性を保ちやすいということにつながるので、加点要素です。
ただ、その企業と突っ込んで対話してみないと分からないこともあります。
法定雇用率があるから義務としてやっているのか、それとも本当にダイバーシティ推進のためにやっているのか、見極めなければいけません。
数字だけでは分からないものもあるんです。
――障害者インクルージョンに対する企業側の姿勢の変化は感じますか。
はい。
外部環境が変わってきている、ある意味ではプレッシャーが高まっていますから、以前より耳を傾ける経営者が増えてきたと思います。
当然、会社や業種によって温度差はあります。
ただ、環境問題などと同じように、世界的な潮流があり、外部環境が変わることで、着実に前に進んでいると思います。
――障害者雇用に関する課題は何でしょうか。
「義務で雇用している」という段階から、「適材適所で、障害者も含めた人材プールから採用する」という段階へのマインドセットの転換は、まだ完全にはできていないと思います。
経営者層だけでなく、現場もです。
そのバリアをいかにして崩していくか、ではないでしょうか。
――企業にとって、障害者インクルージョンが経営戦略の中に占める比重は増していると言えますか。
機運は高まっていると思います。
ただ、D&Iの要素の中でも、「障害者」の部分はまだこれからです。
他の要素で言えば、例えば「女性」は(管理職や国会議員に占める割合など)これだけ話題になっています。
昨年あったBlack Lives Matter(アメリカで黒人男性が警察官に殺害された事件をきっかけに起きた抗議の動き)の影響もあり、「人種」も世界で一気に注目されています。
それに比べると、「障害者」はまだこれからです。
だからこそV500のようなムーブメントがあるのだと思います。
――障害者雇用の社会的な位置づけは今後どう変わっていきますか。
女性の地位向上や人種平等の流れを見ると、同じ方向に進むと思います。
経済的な側面から見ても、障害者雇用の領域は大きな潜在価値を持っています。
日本では13人に1人が何らかの障害を抱えているとされます。
その方々がスキルだけで評価される状況にないことは経済的損失です。
その人のdisability(障害)ではなくability(能力、できること)を見て、雇用の人材プールに加わってもらうのが理想の社会だと思います。
(朝日新聞社はV500に関する特設ページを公開しました)
(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年9月17日に公開した記事を転載しました)
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