辞められたら困る社員を引き留めるには 経営者が取るべき対策を解説
会社の財産である社員の離職は、経営者にとって非常に頭の痛い問題でしょう。どうすれば辞められたら困る社員の離職におびえずに済むでしょうか。コンサルティング会社識学でシニアコンサルタントを務める岩澤雅裕さんが、離職の少ない組織を築くためのポイントを解説します。
会社の財産である社員の離職は、経営者にとって非常に頭の痛い問題でしょう。どうすれば辞められたら困る社員の離職におびえずに済むでしょうか。コンサルティング会社識学でシニアコンサルタントを務める岩澤雅裕さんが、離職の少ない組織を築くためのポイントを解説します。
「離職者が相次いでいるけれども原因が分からない」
「社員の離職が怖くて言いたいことを言えない」
「期待の逸材に突然離職を切り出されて困り果てている」
こうした悩みを抱えている経営者は少なくないはずです。仕事が特別過酷なわけではないし、給与は同業他社と比べて同じかそれ以上。パワーハラスメントが蔓延している可能性も低い……。にもかかわらず、社員がなかなか定着しない会社があります。それは、なぜでしょうか。
その可能性を考えてみるに、社員が将来に対する明るい展望を描けずにいるのかもしれません。給与やポジションが上がっていく道筋が見えなかったり、成長の実感を抱けなかったりする会社だと、社員が「居続けたい」とは思えないのです。
年齢層のばらつきも大事です。20~60代までの社員が満遍なくいる会社であれば、「この年齢になると、このくらいの役職に就いて、こういう仕事を任されるのだろう」というイメージを一人ひとりが抱きやすいでしょう。
しかし、社員の平均年齢が50代を超え、もっとも若い社員の年齢が30代後半の会社では、将来を想像するのは難しいです。これについては、短期的な対処法はありません。毎年1~2人継続して若手を採用する計画を立ててください。
社員の定着率を高めるには、組織の継続的な成長が不可欠です。組織が拡大を続け、成果に見合った報酬を社員に支払う。新たな社員を雇い、その分、新しいポジションがつくられていくという形が理想と言えます。現状維持は衰退と一緒で、いずれ限界がきます。したがって、儲かるビジネスをしなければなりません。
↓ここから続き
そのためには、単価を上げるか販売量を増やすか。これは、事業内容や経営者の意向によって自由に決めるべきものであり、経営者の腕の見せどころでもあります。
離職者が多い業種の一つである飲食店を例に挙げると、お通しで客単価を上げる、熟練の料理人を必要としなくても済むようセントラルキッチンを活用して料理の質をキープしながら調理の手間を軽減する、などが考えられるでしょう。
儲かれば賃金を引き上げられますし、人を雇って社員の休みを確保できるようになります。
ファミリービジネスだと、経営のバトンが父親から若い息子や娘に渡った際、前社長の側近だった古参社員と新社長の間にハレーションが起きてしまいやすいです。自分のやり方を突き通そうとする新社長に、古参社員たちが反発するということが考えられます。
これは、古参社員たちに変わってもらうべきでしょう。社長は全ての責任を負う代わりに最も大きな権限を持つ存在ですから。
社長の指示に従えない古参社員の離職は致し方ありません。とはいえ、経営者側もどのように変わってほしいのかを示し、古参社員たちに変化を促していく姿勢が大切です。
若い経営者が古参社員におもねるような態度を取ることだけはしてはいけません。業績が芳しくなかったとき、「古参社員が自分の言うことを聞かないからだ」と責任逃れに走り、現状の不足に正しく向き合おうとしなくなるからです。
筆者がコンサルティングをすることになった会社の経営者から、「離職者が多くて困っている」という相談を受けたときは、まず離職者の属性を見極めます。
任せた仕事を途中で放り出す、ルールを守らない、社風が合わなかったなど離職しても仕方がないような人が辞めているのか、それとも会社にとって欠かせない人材が去ったのかを確認しなければなりません。
前者であれば、採用の仕方に問題がある可能性が高いです。昨今は採用市場が売り手優位のため、会社側が妥協して社員を採用した結果、その人が活躍しないまま退職していったという失敗がよくあります。それは、人事担当者たちが行った母集団形成や合格ラインの設定に問題があるので、是正しなければなりません。
後者であれば、特定の部署で離職者が続出しているのか、会社全体の問題かを把握します。ある部署に限った話であれば、その部署の上司をはじめマネジメント上の問題が発生しているわけです。
もし「パワーハラスメントをされました」という証言があったなら、まずは当事者に事実確認をしてください。パワハラが社内の基準と照らし合わせて該当する事象であるとすれば、社内規則に基づいて対処することが必要です。一方、社内に基準がない場合は外部の専門家などと協議し、社内に基準を作ることも必要でしょう。
社員からパワハラの訴えはなくても「なぜかこの人の部下になった社員は辞めていく」という状況もあり得るでしょう。これも事実確認が肝です。上司のマネジメントに問題がある可能性はありますが、偶然が重なっただけかもしれないからです。
パワハラ対策は二つあります。一つは、加害者に知られない形で被害者の社員が第三者に相談できるホットラインをあらかじめ用意しておくこと、もう一つはポジションのローテーションです。ずっと同じ上司の下で働くのではなく、定期的に管理者が変わることでパワハラによる離職の可能性を軽減させます。
社員が離職の意思を伝えてきたら、まずはその理由を聞き出します。「新しく挑戦したいことがある」といったポジティブな理由で離職をするなら、背中を押してあげてください。
もし、本人がしたい挑戦が自社に在籍したままでもできそうなら、きちんと伝えるべきでしょう。例えば、営業職の社員が「広報に転身したいから辞めたい」と告げてきたときは、当該ポジションが空いているなど、自社にメリットがある形で広報職としての選択肢が検討できる場合、異動を打診してみましょう。
一方、その社員が「バーテンダーになりたい」と退職届を持ってきたら、慰留はできないと諦めるしかありません。
社員が会社や社員に対する不平不満といったネガティブな理由をぶつけてきたときは、それが組織として取り除くべきものなら真摯に受け止め、改善を約束します。これで社員が離職を踏みとどまってくれたら御の字でしょう。仮に「不明確な給与制度」が退職理由ならば、一緒に作ってもいいくらいです。
ただし、どうしても辞められたら困る社員を引き留めたいがために、会社のルールをねじ曲げるようなまねは厳禁です。ルールが形骸化し、組織が瓦解していく恐れがあります。
社員の離職の意思を翻意させるのは簡単ではありません。それゆえ、離職の芽は早めに摘んでおきたいところです。
ただ、経営者に「この社員は辞めるかもしれない」という予感が働いたとしても、中間管理職からは普段通りにしか見えないケースがよくあります。そういうとき、経営者は「なんで気が付かないんだ。よく社員を観察しろよ」などと中間管理職にきつく当たってしまいがちではないでしょうか。
これは、適切な指導とは言い難いものです。その中間管理職に悪気はなく、経験の差によって経営者の持つアンテナを備えていなかったに過ぎません。
だからといって中間管理職の存在を無視し、社員一人ひとりに経営者自らが目を配ろうとすると、経営者の負担が増え過ぎますし、中間管理職のいる意味がなくなり、今度は中間管理職が離職してしまいます。
この問題には、仕組みをつくって対処しましょう。識学では定期的に社員アンケートを実施し、「過重労働がないか」や「ポジションを変えたいか」などを尋ねるようにしています。社員が本音を明かせるように、アンケートの内容は役員と労務担当しか見ません。
「役職を変えたい」という申し出は、ポジションが空いているならば受け入れてもいいでしょう。ただし、その社員のために新しい仕事を用意するのは、無駄な仕事が増えるためお勧めしません。適材適所ではなく「適所適材」の考えで社員を配置してください。
識学シニアコンサルタント
一橋大学経済学部を卒業後、金融機関で法人融資業務などを担当。その後、中堅中小企業向けのコンサルティング会社で役員として従事し、資金調達や資金繰り支援、事業計画策定支援などを手がける。2018年1月に識学に入社し、これまで90社超、延べ600人ほどのトレーニングに携わる。
(※構成・平沢元嗣)
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。