目次

  1. カリギュラ効果とは
    1. カリギュラ効果の語源と心理的メカニズム
    2. 心理的リアクタンスとの関係
  2. カリギュラ効果をビジネスで活用する方法
    1. ターゲットの行動を禁止する
    2. 対象を限定する
    3. 期間や数量を限定する
    4. あなただけ感を演出する
  3. カリギュラ効果をビジネスに活用する際の注意点
    1. 禁止する理由をはっきりさせる
    2. やろうと思えば乗り越えられる制限にする
    3. 発信してもよい人が発信する
  4. カリギュラ効果の事例
    1. ドモホルンリンクル
    2. モンスト
    3. コンサルタントやセミナー講師
  5. カリギュラ効果は戦略に組み込むことで効力を発揮する

 カリギュラ効果とは、人がある事柄について禁止や制限をされると、逆に興味が湧いて行動したくなる傾向があるという心理効果のことです。

 ビジネスでの活用例は次のようなものがあります。

  • テレビのCM前に「ピー」音を入れてCM明けの内容を一部隠した放映
  • ホラー映画での「心臓の弱い人は決して観ないでください」というキャッチコピー
  • 会員登録者限定での情報公開

 また、「鶴の恩返し」「浦島太郎」など多くの昔話でも、禁止することで逆に興味が湧くという心理を活用しています。昔から語り継がれている物語にも、「そうそう、そんなこともあるよね」と共感することが盛り込まれているものが多いといえます。

 これらをつくった作者たちは、カリギュラ効果という言葉は知らなくても、「人は禁止されると興味が湧いてしまう」ことを知っていたのかもしれません。

 カリギュラ効果は、アメリカで上映された映画「カリギュラ」に由来しています。過激なシーンが多かったためボストンでは上映禁止になりました。それがかえって興味を湧かせる結果となり、ボストン近郊の映画館に人が詰めかけ映画が大ヒットしました。

 このような禁止や制限が逆に興味につながる心理効果を、この映画にちなんでカリギュラ効果と呼ぶようになりました。

 カリギュラ効果の心理的メカニズムは、以下のように説明できます。

人は本来自分自身が自由に決められるはずの行動を禁止・制限されるとフラストレーションが溜まる傾向にある。それを解消し、自己効力感(行動を選択し、かつ遂行するための能力を自らが持っていると感じること)を維持するために、禁止・制限されている行動を実行してしまう。

 カリギュラ効果は日常生活でもよくみられますが、今回はビジネスシーンでの活用方法について、経営戦略の視点も踏まえて解説します。

 カリギュラ効果に関連する用語として、心理的リアクタンスがあります。

 心理的リアクタンスとは、強制や一方的な命令などによって選択の自由を奪われたときに、反発的な言動をとろうとする心理効果のことです。

 人は、自尊心から行動や選択の自由を確保しようとします。そのため、自分が選択する自由を脅かされたと感じると無意識下で反発してしまいます。自尊心を守るための言動であるため、たとえ強制されたことが自分にとってプラスになる場合であっても、反発的な言動をとろうとする傾向があります。

 カリギュラ効果は行動を禁止・制限されることで逆にやってみたくなるという心理効果なので、心理的リアクタンスの一種といえます。

 禁止・制限には、行動を起こしたくなるというカリギュラ効果以外にも、次のような効果があります。

  • 商品・サービスに対して希少性や一種のステータスを感じ、消費者が認識する価値が高まりやすい
  • 禁止・制限は、勧誘・説明などに比べて強い言葉なので注目が集まりやすい

 ここではこれらも踏まえて、カリギュラ効果のビジネスシーンでの活用法をご紹介します。

 ターゲットの行動を禁止するのは、カリギュラ効果の代表的な活用法です。スマホゲームの「モンスターストライク」で、「モンストやるなよ」とダチョウ倶楽部の故・上島竜兵さんが叫ぶというCMが大成功して話題になりました。

 これは、禁止することで逆に興味が湧いて行動したくなる、というわかりやすい事例です。

 「会員限定」「一見さんお断り」などで対象を限定することも、カリギュラ効果の活用法です。対象を制限すると、興味が高まるとともに、商品・サービスに希少性やステータスを加えることになり、より一層ターゲットを引き付ける効果が見込めます。

 また、「〇〇に興味のない方はクリックしないでください」というキャッチコピーも同様です。これは、実は対象を限定していない場合が多いものの、ターゲットに「対象が限定されている」と思わせることができます。それによってターゲットの興味を引き、クリック数が増えるケースはよくあります。

 期間や数量を限定することで顧客が簡単に買えない状況を作りだすことも、カリギュラ効果の活用法です。例えば、「先着〇名様限定」「今だけ」「締め切り間近」などは、よく使われる方法です。

 いつでも買える自由が制限されると、フラストレーションが多少溜まります。しかし、期間や数量の限定は、「禁止」や「対象の限定」に比べ、限定理由を明確かつ簡単に提示できます。はっきりとした理由があると反発心が薄れ、逆に希少性が強く認識されることが多いため、期間や数量の限定は比較的よく用いられています。

 バーナム効果という心理現象があります。これは、ほとんどの人に当てはまるのに「自分のことを言われている」と感じてしまうことです。バーナム効果とカリギュラ効果を組み合わせると、禁止・制限している行動に一層強く興味を示してもらいやすくなります。

 例えば、「今の自分に満足している方の参加はご遠慮願います」「私たちは、自分を成長させたいと強く願っている方のお力になりたいと考えているからです」というメッセージを伝えるとします。

 今の自分に”完全に”満足している人は少ないはずなので、自分のことを言われていると感じるでしょう。

 このように、カリギュラ効果とバーナム効果を組み合わせることで、これはまさに自分のことだと強く感じ行動につながりやすくなります。

 カリギュラ効果は、興味を引き集客力を高めたり購買行動を促したりするためのテクニックとして活用できます。しかし、禁止や制限というマイナスのメッセージを使用するため、不満や反発によって逆効果にならないように配慮が必要です。

 また、あくまでも”仕掛け”ですので、ターゲットに実行してほしい行動を起こしてもらうために、いくつかおさえておかなければならない注意点があります。

 単純に禁止・制限されるだけだと人は理由が気になり、理由がわからなければ不満が溜まり、悪い印象だけが残る可能性があります。

 「手作りで生産しているため、数に限りがあります」「この時期にしか採取できないので期間限定です」など、しっかりと理由を提示することが重要です。理由を理解できれば、フラストレーションが希少性などと相まって興味につながる可能性が高くなります。

 カリギュラ効果を活用するのは、禁止・制限を乗り越えて行動してもらうためです。行動を起こしてもらうには、少しの努力で乗り越えられる程度の制限にするなど工夫をする必要があります。

 例えば、「続きは番組の最後で」よりも「続きはCMの後で」のほうが視聴者は乗り越えやすいでしょう。また、「対象を限定する」方法の例として挙げた「◯◯に興味のない方はクリックしないでください」などのキャッチコピーも、ほとんどの人が乗り越えられる制限だと感じるはずです。

 「発信してもよい人」というのは「その人が発信するなら聞いてもいいかな」と聞き手に受け入れてもらえる、ある種の信頼感のある人です。

 例えば、ブドウの生産者が「この時期にしか採取できないので期間限定です」と発言すれば説得力があり、信頼感を持ってもらえるでしょう。

 また、ドモホルンリンクルの「初めての方にはお売りできませんと」いうフレーズは、納得してから買ってもらうことを重視している会社という認識を持ってもらえると信頼感につながります。

 このように顧客に信頼感を持ってもらえるように意識しながら発信することで、カリギュラ効果はより効力を発揮します。

 カリギュラ効果は、経営戦略の流れの一環として企業で活用されて効果を上げています。最後に、経営戦略との関連がある事例について解説します。

 ドモホルンリンクルの「初めての方にはお売りできません」というフレーズは、自社の経営戦略を見据えたうえで、しっかりと練られたカリギュラ効果の活用事例といえます。

 ドモホルンリンクルは、顧客との信頼関係を構築するため、「無料お試しセット」によって効果を実感した人に販売する戦略をとっています。

 自社の姿勢を明確にするのであれば、「初めての方には無料お試しセットをおすすめしています」でも伝わるかもしれませんが、あえて禁止の言葉を選択しています。これは、最も重視している自社の姿勢を強調し、共感する人の行動を促すためだと考えられます。

 自社の経営姿勢や強みに共感した顧客をファン化するという戦略の一部として、カリギュラ効果を活用している事例です。

 「カリギュラ効果をビジネスで活用する方法」でモンストの具体例を紹介しました。この事例についても、経営戦略の視点で解説します。

 モンストの当時の主な収益源は、ゲームを有利に進められるアイテムの販売です。収益を拡大するためにターゲットに促したい行動は、ゲームをダウンロードして遊んでもらうことです。しかし、すでにスマホゲームは多数あり、選んでもらうにはインパクトのあるCMが必要でした。

 そして、インパクトを与える方法として上島さんによる「モンストやるなよ」というCMが考えられました。「押すなよ」で認知度の高かった上島さんが「やるなよ」と叫んでも違和感がなかったことで、ターゲットの興味を喚起する効果があったと考えています。

 このように、カリギュラ効果として単純に見える事例でも経営戦略は検討されており、そのうえで活用されています。

 筆者は、知識の獲得や情報の収集のため、セミナーや講座などに参加することがあります。そのため、興味のある講師のメルマガに登録しています。登録しているメルマガでは、カリギュラ効果を使った以下のような文章が書かれています。

  • セミナーの説明会を少ない定員で設定する
  • 「今回で最後」や「1年に1回のみ」などの制限を加える
  • 申し込み期限まであと何日と表示する
  • 説明会の参加者限定や期間限定の無料プレゼントを用意して参加などを促す
  • 講座受講者限定のコミュニティを運営する

 これらは、読者に制限を設けることで興味を喚起し行動につなげるというカリギュラ効果で説明できる事例です。

 講師は数十万円以上のセミナーや講座を継続して何度も開催しています。このことを踏まえると経営戦略の一部として、カリギュラ効果が集客や購買行動の促進の役割を果たしているといえるでしょう。

 カリギュラ効果は、ある事柄について行動を禁止・制限されると、人は逆に興味が湧いて行動したくなる傾向があるという心理効果です。この心理効果を活用すれば、集客や購買行動の促進を図ることができます。

 ただし、やみくもに禁止や制限をすればよいというものではありません。注意点を踏まえ、経営戦略との整合性を図ったうえで実施することが重要です。

 自社の経営戦略の一部として設計することで、カリギュラ効果がより効力を発揮します。