目次

  1. 証書貸付とは 契約書を交わす貸付のこと
    1. 証書貸付と手形貸付の違い
    2. それ以外の貸付
  2. 証書貸付で取り決める主な項目
    1. 返済期間・据置期間
    2. 利率
    3. 返済方法
    4. 担保または保証
  3. 証書貸付のメリット 3つを紹介
    1. 長期間の融資を受けられる
    2. 多額の融資を受けられる
    3. 契約内容に柔軟性を持たせられる
  4. 証書貸付のデメリット 3つを紹介
    1. 融資の決定まで時間がかかる
    2. 書面の契約書では印紙税が発生する
    3. 手続きに手間がかかる
  5. 証書貸付を利用する流れ
    1. 金融機関の窓口に行く
    2. 必要書類の用意と申込書の記載
    3. 金銭消費貸借契約書の記入
    4. 融資額の返済開始
  6. 証書貸付のメリットを生かすには

 証書貸付とは、貸付先と金融機関が契約書を交わして、契約書で合意した融資を受ける貸付のことをいいます。契約書は「金銭消費貸借契約書」が一般的で、貸付1回ごとに契約を結びます。

 証書貸付は、金融機関から融資を受けるときの一般的な方法で、両者の合意で融資額や返済方法などを決定できるため、融資内容に柔軟性をもたらすことが可能です。

証書貸付のメリットとデメリット
証書貸付のメリットとデメリット(デザイン:浦和ゆうすけ)

 証書貸付と比較される貸付方法として手形貸付が挙げられます。これらには、以下のような違いがあります。

証書貸付 手形貸付
用途 ・事業の運転資金
・多額の設備投資など
・決済資金
・短期のつなぎ資金など
期間 1年以上の複数年、長期で利用されることが多い 1年以内の短期間
返済方法 分割で返済することが多い 手形の期日に一括返済する
利率 利率は低くなる傾向がある 利率は高くなる傾向がある
融資額 多額の融資が可能 多くて数百万円程度
担保 必要になることが多い 不要

 手形貸付は少額の資金がすぐに必要で、返済期間を短くしても問題ない場合に選択されやすいです。利率は高くなる傾向にありますが、短期で返済が終わるため、支払う金額はそこまで多額になりません。

 証書貸付、手形貸付のほかに、「当座貸越」「手形割引」「契約者貸付」の貸付があります。

①当座貸越

 当座貸越とは、銀行が設定した一定額の貸付を受けられる方法で、この一定額を「極度額」といいます。極度額の範囲内であれば借入申込書を銀行に提出することで、いつでも融資を受けられ、返済は余剰資金があるときなど好きなときに返済が行えます。

 なお、当座貸越には、「専用当座貸越」と「一般当座貸越」の2つの方法があります。専用当座貸越は、当座預金口座を保有している人向けに提供され、一般当座貸越は当座口座を保有していない人でも利用できます。

②手形割引

 手形割引とは、取引先などから回収した手形を、支払い期日前に金融機関へ持ち込み、買い取ってもらうことで資金調達を行う貸付です。買取価格は、利子分を差し引いた割引価格になり、通常の手形として回収できる金額よりも少なくなります。

 例えば、金融機関に100万円の手形を持ち込んだ場合、利子を差し引いた95万円で買い取られるということになります。金融機関への返済は、手形を振り出した取引先などが期日に手形の金額を支払うことで完了します。しかし、手形を振り出した先が支払えなかった場合、金融機関から返済を求められます。

③契約者貸付

 契約者貸付とは、保険会社や農協などと契約中の保険に解約返戻金がある場合、その解約返戻金の範囲内で貸付を受けることです。受けた貸付額の返済と利子を支払う必要があり、利子は金融機関で融資を受けるよりは高くなりますが、ノンバンクやカードローンと比較すれば低くなります。

 契約者貸付の特徴は、保険契約を解約しなくても資金調達ができる点です。ただし、返済できないと保険契約が解約になることもあります。

 証書貸付を利用する際、「金銭消費貸借契約書」で取り決める項目にはさまざまなものがあります。ここでは、金銭面にかかわる項目を中心に紹介します。

 融資を受ける際に重要なのは、返済期間と据置期間です。返済期間は、融資の内容によって異なりますが、運転資金は10年以内、設備投資資金は20年以内に返済するのが一般的です。ただし、融資を受ける側の事業年数、業績によっても変わるため、個別に金融機関と決めることなります。

 据置期間とは、融資が実行されてから返済開始になるまでの期間のことをいいます。例えば資金繰りが悪い場合などに、据置期間を長くし、返済開始を遅らせることも可能です。ただし、元金の返済はありせんが、据置期間の利子は支払いが生じます。

 融資に対する利率も契約書に記載します。利率は金融機関や商品ごとに標準利率が設定されておりますが、契約者の財務状況や信用状況によって変動することがあります。なお、金融機関での利率は、一般的に年利0.8~2.5%前後になることが多くあります。

 また、返済期間によって利率も変わります。返済期間が長い場合、全額回収するまでの期間が長くなり、返済できなくなるリスクが高くなるため、利率は高くなる傾向があります。

 融資の返済方法は、主に「元金均等返済」、「元利均等返済」のどちらかになります。

 元金均等返済とは、融資の返済額(元金)を毎回同額にし、残高に対する利子分が変動する返済方法です。例えば、元金返済額が毎月10,000円だとしたら、実際の返済額は次のように10,000円+利子となります(利子は必ずしもこの金額とは限りません)。

  • 1カ月目:元金10,000円、利子50円 合計10,050円
  • 2カ月目:元金10,000円、利子49円 合計10,049円
  • 3カ月目:元金10,000円、利子48円 合計10,048円

 残高に対する利子が毎月異なるため、毎月の支払額は利子分変動します。なお、返済初期の頃は、残高が多いため利子が増え、毎月の支払額が多くなります。

 その代わり、元金は一定額で返済し続けるため、元金の残高は早く減り、利子の支払総額が少なくなるのが特徴です。

 元利均等返済とは、融資の返済の元金と利子の合計額が、毎回同額になる返済方法です。そのため、例えば毎月の返済額が10,000円なら、元金は次のように10,000円-利子となります(利子は必ずしもこの金額とは限りません)。

  • 1カ月目:元金9,930円、利子70円 合計10,000円
  • 2カ月目:元金9,931円、利子69円 合計10,000円
  • 3カ月目:元金9,932円、利子68円 合計10,000円

 毎月の返済額は同じですが、内訳が異なります。毎月の支払額が一定のため、返済の負担は少ないですが、初期の頃は元金がなかなか減らず、結果として利子の支払総額が多くなります。そのため、返済総額は、元利均等返済の方が多額になります。

 万が一に返済できなくなった場合に備えて、担保や保証を設定します。担保は、事業で使用している土地や本社ビルなどの不動産に対して設定する場合が多く、保証は、経営者が保証人になる場合や、信用保証協会などの外部から保証を受ける場合がしばしばあります。

 無担保、無保証で融資を受けられるときもありますが、金融機関との関係が良好で、業績も好調の場合に限られます。

 証書貸付のメリットを3つ紹介します。

 証書貸付は、5年から20年など長期の融資を受けられるのが利点です。融資期間が長くなると、1回あたりの返済額も減るため、資金繰りの観点からで有利になります。融資を受けている期間中に事業を大きくできれば、融資の目的を果たしたと言えるでしょう。

 証書貸付は長期間の融資が可能なことから、融資額も多額にできます。ほかの貸付方法は、貸付額が少額で、融資期間も短くなりますが、証書貸付では数十万円から数十億円まで幅広い金額で証書貸付が採用されます。

 証書貸付は、融資を受ける側と金融機関側での二者間契約のため、契約内容に柔軟性を持たせられます。

 証書貸付では、提供されている融資商品の商品設計のもとで契約内容を決めるのが一般的です。しかし、金融機関によっては、担当者との交渉で、返済期間や方法、利率などを柔軟に設計をしてくれる場合があります。

 証書貸付のデメリットを3つ紹介します。

 証書貸付は、金融機関の担当者とのやり取りが複数回必要ですが、金融機関との信頼関係がないときほど、その回数が多くなります。融資の稟議もなかなか承認されず、融資の決定までに1カ月程度かかることもあります。

 融資決定までの時間を短縮するには、金融機関との信頼関係の構築が必要であり、そのためには、例えば以前受けた融資の返済を完了させ、決算内容も都度報告をしておくことなどが重要です。

 証書貸付を書面の契約書で締結した場合、印紙税法上の課税文書に該当するため印紙税が発生します。

 印紙税は、融資額が500万円超1,000万円以下の場合は1万円、1,000万円超5,000万円以下の場合は2万円……と、融資額が上がるごとに印紙税の金額も増えていきます(参照:No.7140 印紙税額の一覧表〈その1〉第1号文書から第4号文書まで|国税庁)。

 ただし、書面契約ではなく、一定の要件を満たした電子契約書は課税文書にあたらないため、印紙税は不要です(参照:印紙税に関する質問に対する答弁書|参議院)。

 証書貸付は融資の都度、手続きに手間がかかるのもデメリットです。

 例えば、以前に証書貸付を受けた金融機関であっても、証書貸付を契約する度に、登記簿や印鑑証明書などの必要書類の用意が必要です。

 また、これまでの証書貸付の際に連帯保証人になってくれていた人が、再度同じ融資先の人の連帯保証人になる場合も、融資の度契約書に署名をする必要があります。

 証書貸付を利用する際の一般的な流れは以下のとおりです。

  1. 金融機関の窓口に行く
  2. 必要書類の用意と申込書の記載
  3. 金銭消費貸借契約書の記入
  4. 融資額の返済開始

 証書貸付を受ける際は、金融機関の担当者に融資の相談をします。融資を受けたい旨を伝えると、用途などについてヒアリングされ、希望に合う商品の提案を受けます。

 金融機関の窓口はオンラインなどでの事前予約制であることが多いため、相談に行く前には必ずその金融機関のホームページを確認しておきましょう。

 通常、初回の面談の際に担当者から融資に必要な書類の用意をお願いされるため、次回以降にその書類を用意して持参します。初めての融資の申し込みであれば、会社の紹介資料や経営計画などが必要になることが多いですが、2回目以降の必要書類はこれまでの融資実績などで変わります。

 用意した必要書類を提出する際には、証書貸付に関する申込書の記載が求められます。融資を申し込まれた金融機関は、申込書と必要書類を稟議にかけて、貸付の可否を決定します。

 金融機関内で稟議の結果、証書貸付が承認されたら、「金銭消費貸借契約書」を締結します。この契約書が締結されると、その後短期間で融資が入金されます。

 参考までに、広島銀行の無担保ローンで利用されている金銭消費賃借契約書を紹介いたしますので、ご覧ください。

 金融機関と金銭消費貸借契約書で締結した、「利率」や「返済方法」をもとに、融資額の返済を開始します。返済が滞ると、担保の差し押さえや保証人に返済の請求がいく可能性があるので気をつけましょう。

 証書貸付は、金融機関から融資を受けるときに一番メジャーな方法になります。多額の融資を受けられるうえに返済期間を長くすることができ、ほかの融資方法と比較しても利率が低いなどメリットが多くあります。

 事業を伸ばすときに、融資は非常に強力な武器になるため、融資を検討している企業は証書貸付も検討してください。