リテンションとは?注目されている理由とメリット、利用方法を解説
昨今、新規顧客の獲得競争が激化し、既存顧客の維持と関係の深化が重要課題となっています。そこで注目されるのが「リテンションマーケティング」という手法です。この記事では、メリットとデメリット、具体的な戦略や実例などを、専門家として現場で培った経験をもとに解説します。
昨今、新規顧客の獲得競争が激化し、既存顧客の維持と関係の深化が重要課題となっています。そこで注目されるのが「リテンションマーケティング」という手法です。この記事では、メリットとデメリット、具体的な戦略や実例などを、専門家として現場で培った経験をもとに解説します。
商品やサービスだけの差別化が図りにくくなった現在は、企業が顧客のニーズや状況を把握するとともに、顧客満足度を向上させるために顧客とのつながりを作ることが重要視されています。
リテンションとは「維持」や「保全」を意味する言葉であり、マーケティングでは「顧客リテンション」として使われています。顧客リテンションは、既存顧客との関係を強化し、顧客と長期的な関係を維持するための戦略や手法を指します。リテンションという言葉は、人事業界のなかで「人材が長く働いてもらうための施策」を考える際にも用いられていますが、この記事ではマーケティングに絞ってご説明します。
マーケティングにおいてリテンションが使われるとき、合わせてよく出てくるのが既存顧客の維持率を表す「リテンション率」です。新規顧客が継続(1回以上の購入)して商品やサービスを利用しているかを計る値であり、継続型のビジネスにおいて重要視されています。
リテンション率は、「リテンション率(%)= 継続顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100」で算出されます。
例えば、初めて購入する100人の顧客のうち、翌月末の時点で30人が2回以上購入したとします。
その場合のリテンション率は、30人÷100人×100=30%となります。
翌々月に2回目を購入した場合も計算は同様です。翌々月に2回以上購入した件数が、25件の場合は25%となります。
翌々月に計測する場合は、購入回数が2回と3回の顧客がいるため、何回目の購入かも確認できるようにしておくと良いでしょう。
リテンションマーケティングとは、企業が既存顧客との関係を強化し、継続的な売上と顧客のロイヤルティを促進するためのマーケティング手法です。顧客との継続的な関わりや購買行動を通じて、顧客との絆が深まり、競争力を高められます。
リテンションマーケティングが注目されている理由は次の3つです。
順にご紹介します。
既存顧客の重要性を認識し、顧客満足度の向上がビジネスの成功に直結するという考えが広まっています。このような考え方は、広告費や販促費などの新規顧客に対する投資を適性に抑えたいということから広まっています。
顧客は企業の持続的な成長と利益に大きな影響を与える存在であり、リテンションマーケティングはその関係性の強化を図る手法です。
現代の消費者は、個別化された体験やサービス(タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスが優れたもの)を求める傾向があります。リテンションマーケティングは、顧客セグメントごとに個別化されたコミュニケーションや提案をおこなうことで、ニーズや要望に合わせたカスタマイズを実現します。個別化は顧客満足度の向上につながり、競争力のある市場での差別化を可能にします。
リテンションマーケティングのメリットを3つご紹介します。
リテンションマーケティングは、既存顧客との関係性を強化できるため、安定した売上につなげられます。さらに、既存顧客との取引は、新規顧客獲得と比較してコストを抑えられるため、安定したビジネス運営を可能にします。
リテンションマーケティングは顧客のロイヤルティを高められるため、長期的な関係を築くことが可能です。自社に対する愛着心や信頼の高い顧客は、競合他社に乗り換えるリスクが低くなります。
その結果、リピートする顧客が増え、顧客が自社にもたらす収益の予測する「LTV(Life Time Value)」が向上します。LTVを計算する方法はいくつかありますが、代表的な計算式は以下の2つです。
新規顧客を獲得するには、既存顧客の5倍のコストがかかるとされています。これを「1:5の法則」といいます。既存顧客維持の方がコストを抑えられ、利益率を向上できるため、既存顧客の継続は重要視されています。
高い満足度を得た顧客は、周りの人に口コミをおこなう確率が高くなります。自然と行われる口コミはプロモーション効果を生み出し、新規顧客獲得にも貢献します。
リテンションマーケティングのデメリットを3つご紹介します。
リテンションマーケティングは、顧客に合わせたアプローチが求められるため、一人ひとりの顧客に対して手間と時間を要します。
例えば、「Aさんの購入実績から、新商品の告知を他の顧客よりも早くすることで購入を促そう」と仕掛けるとします。
その際、Aさんと似た購入実績のある顧客を集めることで販促効果を高めることが期待できます。しかし、データベースから購入実績などの情報を抜き出す手間が発生します。
リテンションマーケティングでは、顧客に合わせたコミュニケーションを設定する必要があるため、オペレーションリスクが増加します。
活用するコミュニケーションチャネルはメールやDM、LINEなどさまざまな種類があります。さらに、配信するタイミングや配信回数など、方法や条件が多岐にわたるため、ミスが生じやすくなります。
例えば、ある商品のキャンペーン情報を告知する際、「すでに商品を購入したAさんは告知対象のリストから除外する」はずが、オペレーションミスによって告知してしまった、というケースがあります。
リテンションマーケティングが、顧客に受け入れられなければ、競合他社に乗り換えられる可能性があります。
特に、新たに取引を続けていく顧客は、これから信頼感やロイヤルティの向上が必要になるため、リテンションマーケティングが顧客の意図に沿わなかった場合、安定した売上が見込めなくなります。
リテンションマーケティングをおこなう方法を3ステップでご紹介します。
まずは、顧客を深く理解し、適切にセグメント化することが重要です。顧客から受けている評価を知るために、アンケートやヒアリングをおこない、データを収集しましょう。
手順 | 内容 | 目的 |
---|---|---|
①データの収集と分析 |
・未顧客(市場)、現顧客、過去顧客などすべての顧客が対象 |
・デジタル化されたデータを活用し、顧客の傾向やニーズを明らかにするため |
②セグメントの作成 | 収集したデータに基づいて顧客を異なるセグメントに分類する | 共通の特徴やニーズを持つ顧客グループを特定し、それぞれに適切なマーケティング戦略を展開するため |
それぞれの顧客にパーソナライズされたコミュニケーション戦略を構築し、リテンションマーケティングのシナリオを作成します。
顧客へのアプローチは、CRMツール(顧客関係管理)を導入するのが一般的になっています。CRMツールは、セグメント別にメールマガジンやステップメールを配信できるため、こまやかなアプローチに活用できます。
手順 | 内容 | 目的 |
---|---|---|
①メッセージのカスタマイズ | 各セグメント(顧客グループ)に合わせて伝えたいメッセージを作成する | 顧客の関心やニーズに合致する情報を提供することで、顧客の関与を促進するため |
②マルチチャネルの活用 | 複数のコミュニケーションチャネルを活用し顧客にアプローチする |
顧客が利用するチャネルに合わせてメッセージを送る |
実施した結果は期間限定であれば終了後に、継続して実施している場合には月次や週次単位で振り返ります。自社の強みと弱みを見つめなおすために、「反応した顧客はどういった顧客だったか」「どの顧客セグメントから反応が多かったのか」ということを評価します。
手順 | 内容 | 対象・目的 |
---|---|---|
①成果の追跡 | 成果を定量的および定性的な指標で追跡 | 顧客の継続率や購買頻度、顧客満足度など |
②改善の実施 | 顧客のニーズに合わせた、改善のアクションプランを立てる | 商品の価格や品質、ラインナップ、コミュニケーション戦略の微調整、顧客サービスの向上など |
③改善策に対する再評価 | 改善に取り組んだ結果を顧客がどう評価したかを確認する |
・目的はステップ①データの収集と分析と同じ |
リテンションマーケティングの実例を4つご紹介します。
会員登録時に収集した「生年月日」をもとに、クーポンや商品特典などを添えてメールやDMなどを配信する、もっとも王道と言われる方法です。
さらに、利用回数や利用金額が多い顧客には別の特典を追加することで、効果を高めることが期待できます。
購入金額に応じたポイントを付与し、そのポイントを特典や割引と交換する方法です。集めたポイントで特典などが受けられるため、継続的に購入する動機付けが生まれ、顧客との関係の強化が期待できます。
店舗ビジネスでは、会員登録の必要がない「スタンプカード」などでも代用できるため、導入がしやすいという利点があります。
また、最近では「LINEショップカード」というツールを活用すれば、紙のスタンプカードの代わりにLINE上でスタンプカードを管理できます。
一定期間または一定回数の購入後、期間が空いている顧客に対して再購入を促す方法です。
単に「また購入しませんか?」という投げかけではなく、商品改良時や新商品発売時におすすめするのが良いでしょう。
また、数回購入した後、購入がない顧客はなにか理由があるかもしれません。購入回数が少ない顧客にアンケートで状況を確認することで、再購入がなかった理由と対策の手がかりが掴めるでしょう。
顧客の意見やフィードバックを積極的に収集し、改善に活かす取り組みもリテンションマーケティングの一環です。
顧客満足度調査やフィードバックプログラムを通じて、顧客の声に耳を傾け、サービスや製品の品質向上に取り組むことで顧客との関係を強化し維持できます。
リテンションマーケティングを実践しないのは、自社の状況から目をそらしているといえます。
リテンションマーケティングの一連の取り組みは、顧客から見られている状態を映し出す鏡のような役割があると筆者は考えます。顧客が自社をどう見ているのかを改めて把握し、常に顧客から継続的に求められる企業になることを願っています。
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