目次

  1. ヒューマンエラーとは
    1. ヒューマンエラーの定義
    2. ヒューマンエラーの種類
  2. ヒューマンエラーの原因
    1. 手順書やマニュアル、仕組みなどによる原因(S:Software)
    2. 設備・機械などによる原因(H:Hardware)
    3. 環境による原因(E:Environment)
    4. 周りの人による原因(L:Liveware)
    5. 本人による原因(L:Liveware)
  3. ヒューマンエラーの対策方法
    1. 作業マニュアルなどの見直し
    2. 機械や設備の保守の徹底と工夫
    3. 作業環境改善
    4. チームのコミュニケーション強化
    5. 作業員本人の対策
  4. ヒューマンエラーの対策事例
    1. 動画マニュアルでヒューマンエラー対策
    2. 5S活動でヒューマンエラー対策
  5. ヒューマンエラー対策でより良い会社へ

 ヒューマンエラーとは言葉の通り、人間が引き起こすミスなどを指します。

 ヒューマンエラーは、企業にとって大きなリスクである一方、現場では日常的に起こっているのが現状です。

 人間はもともとミスを起こしやすい動物であり、例えばエビングハウス錯視のような目の錯覚によって思い込みや勘違いなどが起こることは周知の事実でしょう。そう考えると、ミスをした人を責めるのではなく、どんなミスが起きたのか把握し、なぜそれが起きたのか確認したうえで対処する、という方が今後の対策として有効です。

 そのためにも、まずはヒューマンエラーの定義や原因を理解することが重要となります。

エビングハウス錯視
エビングハウス錯視・筆者作成

 ヒューマンエラーについて、ジェームズ・リーズンという心理学者は「計画されて実行された一連の人間の精神的・身体的活動が、意図した結果に至らなかったもので、その失敗が他の偶発的事象の介在に原因するものでない全ての場合」と定義しています。

 また、JIS Z8115:2019では「人間が実施する又は省略する行為と、意図される又は要求される行為との相違」と定義されています(引用:Z 8115:2019丨kikakurui.com)。JIS規格(日本産業規格:日本の国家規格として産業に関連するさまざまな事柄を規定している)で定められているほど、仕事をしているなかで当たり前に起こりうる事象と言えます。

 このほか、ヒューマンエラーは日本語では「人為的ミス」、近い言葉では「ケアレスミス」や「ポカミス」とも表現されます。

 ヒューマンエラーの種類には、以下2つに分けることができます(参照:生産性&効率アップ必勝マニュアル p.2|厚生労働省)。

  • 意図的でないヒューマンエラー
  • 意図的なヒューマンエラー

➀意図的でないヒューマンエラー

 意図的でないヒューマンエラーは、「うっかりミス」といったイメージです。ミスをした本人にはまったくもって意図していない出来事であるため、「次は気を付けて」の一言で片づけられることが多々あります。

 この意図的でないヒューマンエラーのなかにも分類があります。

 作業中、人は「記憶し、認知し、判断し、行動する」ことを繰り返しています。このような流れのなかで、意図的でないヒューマンエラーにより問題が発生しています。

  • 記憶:作業そのものや確認を忘れる
  • 認知:見間違えや勘違いを起こす
  • 判断:思い込みや過信により間違いを起こす
  • 行動:行動に間違いが起こる

➁意図的なヒューマンエラー

 意図的なヒューマンエラーとは、本人が「楽をしよう」などの意図をもって作業を変えた結果、引き起こされる事象です。

 具体的には、「ルールを守らない」「横着する」「手抜きをする」といった行動が挙げられるでしょう。

ヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーとは(デザイン:浦和ゆうすけ)

 ヒューマンエラーの原因を、「SHELLモデル」と呼ばれる5つの要素に基づいて解説していきます。

 SHELLモデルとは、原因究明をしていくうえで有効なフレームワークであり、下記の頭文字を取って、そう呼ばれています。

  • S(Software):手順書やマニュアル、仕組みなど
  • H(Hardware):設備や機械など
  • E(Environment):環境
  • L(Liveware):周りの人
  • L(Liveware):本人

 SHELLモデルは、KLMオランダ空港の機長である、フランク・H・ホーキンズが提唱したもので、ヒューマンエラーを引き起こすヒューマンファクターの構成図となります。

SHELLモデル
SHELLモデル・筆者作成

 組織内にある作業の手順書や仕組み、規則などの管理が甘いと、意図的でないヒューマンエラーを引き起こしやすくなります。

 具体的には、作業方法に変更があったにもかかわらず、手順書が改定されていないことで、作業員は変更前の作業方法を実施し、ミスが発生してしまう事例があります。

 作業の設備・機械などの保守や見直しができていなければ、意図的でないヒューマンエラーを引き起こすことがあります。

 具体的には、使用する機械や検査器の精度を信頼しすぎて、機能に異常をきたしていることに気付かず作動を続けて、問題が発生するなどです。

 機械によっては重大事故を引き起こす恐れがあるため、機械や設備の安全対策も定期的に実施するようにしましょう。

 作業環境の温度・湿度・明るさ・騒音などが原因で、作業員の集中を阻害してミスを引き起こすことがあります。

 暑い・寒い状況では、身体的な不調が出てきやすくなったり、作業場が暗いことで、目がかすんだりするなどの影響がみられます。また、騒音は耳からの情報量が多く、気が散ってしまうでしょう。

 このように、環境は人の五感に影響を及ぼすため、ヒューマンエラーの原因となることが多くあります。

 周りの作業員との情報共有ができていないことで、ヒューマンエラーを引き起こしやすくなります。

 特に納期や仕様変更を伝え忘れると、間違えが生じてお客様からのクレームにつながるため、情報共有の方法には注意が必要です。

 また、周りの人との関係性は、メンタル面に影響を与え、ヒューマンエラーの原因となることがあります。

 具体的には過度なプレッシャーをかける上司や同僚の影響で、「失敗してはいけない」と思えば思うほど、判断ミスなどを起こしてしまう状況です。

 他にもミスを軽視する風潮が同僚の間にあると、安全意識が欠如し、作業が適当になってしまうことも想定されます。

 最後に本人の問題で起こるヒューマンエラーがあります。

 プライベートで気分が落ち込んでいる状況や、飲酒のしすぎ、寝不足など、心身が不健全であると作業に集中できず、ミスを引き起こしやすくなります。

 このようなヒューマンエラーの原因に対して、対策方法を解説します。

 作業マニュアルの見直しをおこない、標準化を徹底することが重要です。

 また、動画マニュアルの活用もヒューマンエラー対策に有効でしょう。ヒューマンエラーの多い作業は、作業マニュアルが改定されていなかったり、内容がわかりにくかったり、作業者が自分のやり方に変えていたりすることが多くみられます。

 作業マニュアル通りにおこなっているのに、ヒューマンエラーがなくならない場合は、作業に人間(作業員)が合わせており、実施しにくい状態やムダな集中が必要となっている場合があります。

 重要なのは、人が実施しやすい作業をつくることです。そのため、実際の作業員の意見を取り入れた作業マニュアルにブラッシュアップしていくことが求められます。

 特に新人の育成においては、新人にとってわかりやすい注意点の記載や写真の掲載などで、ヒューマンエラーを極力避けられるような配慮が必要となるでしょう。

 機械や設備は、保守や校正をしっかりおこない、精度を保つようにしましょう。そのためには、保守や校正のルールをつくり、定期点検を徹底することが重要です。

 そのうえで、機械や設備のボタンにシールなどで情報を追加するなどの工夫により、間違いを減らしていく取り組みも求められます。

 作業環境改善は、作業者の集中力を保つことにつながります。自分の周りがモノで散乱していると、気が散って集中しにくい場合があります。 

 まずは、身の回りの整理・整頓から始めるべきでしょう。

 また、暑い・寒いといった状況に対応し、服装などを工夫したり、冷暖房を調整・強化したりして、体調管理がしやすい環境をつくることが重要です。

 チームのコミュニケーションを活発化させることで、情報共有を徹底していきましょう。

 チャットツールの活用などによる伝達方法の見直しや、クラウドファイルでの共有なども有効な方法です。

 チームの雰囲気づくりは、会社全体で取り組むべきですが、気持ちの良い朝の挨拶を心がけたり、同僚との会話の機会を増やすために交流の場を設けたりしていくことも効果的です。

 作業員本人の対策では、体調管理や仕事への取り組み方への心構えなど、心身にアプローチする必要があります。

 自分に過度なプレッシャーをかけずに「焦らずに急ぐ」といった考え方も重要です。

 また、自分は不器用だと感じる人は、作業時の手の動きなどが毎回異なることがよくあります。自分自身の動作を統一して身体に覚え込ませると、作業ミスを減らすことにつながります。

 ヒューマンエラーの対策の成功事例を紹介します。

 ヒューマンエラーを完全になくすことはできませんが、対策によって原因が取り除かれれば、必ず減少していきます。

 対策事例を参考に、自社にあった対策を講じていきましょう。

 旅館業のA社は、動画マニュアルを採用して、大浴場業務のヒューマンエラーを減らすことに成功しました。

 これにより、お客様満足度が下がるリスクを低減したため、少ない人数で業務をおこなえるようになったのです。

ヒューマンエラーの原因
繁閑差が激しくバイトを一時的に増やす必要があったが、新人のバイトによるヒューマンエラーが頻繁に起きていた。原因として、作業マニュアルのわかりにくさや、教育方法が適切ではないことを特定した
ヒューマンエラーの影響
・特に大きな問題として、ボイラーを始動・停止させる際にボタンを押す順番を間違えると、上手く動作せず、不完全燃焼やボイラーの不調につながっていた
・効率的に清潔を保つための掃除の手順がなかなか守られず、ベテラン社員が最後の仕上げをしなければならなかった
ヒューマンエラーへの対策
動画マニュアルを作成。動画の共有はYouTubeでおこない、もし手順を忘れてもいつでも見直しができる状態とした。作業手順や注意点などを洗い出し、複数のベテラン社員と一緒に台本を作るなかで改善点が見つかり、機械のスイッチに番号のシールをつけるなどの対策も新たに実行した
動画マニュアルでわかりやすく
動画マニュアルでわかりやすく・筆者作成
ヒューマンエラー対策への効果

・頻繁に起こっていたヒューマンエラーが月に1回程度に減少。清掃の仕上げなどもほとんど不要に
・動画マニュアルは、作業前に確認する人が多く、新人でもすぐにイメージができ、理解しやすくなったことが効果を発揮した理由だと考えられる。また、教える人によるバラツキがなくなり、作業が標準化されたことで、さらに良くしていこうとする改善意識も高まった

 ドリルなどで加工する金属加工のB社では、5S活動を推進したことで、ヒューマンエラーによる不良が減ったため、生産性が向上しています。

 5S活動とは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」であり、頭文字のSをとった用語です。

ヒューマンエラーの原因
・ドリルのサイズを0.1mm単位で使い分けていたが、ドリルのサイズ間違えによるミスが多発
・ドリルのサイズを把握できていないことで、誤発注やムダ買いなどが多発
ヒューマンエラーの影響
・間違った穴を開けたり、サイズを間違えたときのムダ作業が発生したりしていた。加工する前にドリルの径を計測していたが、手間がかかるうえに測り方次第で0.1mmの違いを見逃すケースが多く、サイズが小さいものは違いが見分けられなかった
・誤発注やムダ買いなどによりモノが増えて、さらに工具が探しにくくなる悪いスパイラルに入っていた。作業効率が低く、消耗品費も増えているため、生産性は低いと言える
ヒューマンエラーへの対策

・「3定管理」と呼ばれる手法により、整頓の強化を実施。3定管理とは、定位置(決められた位置)、定品(決められたモノ)、定量(決められた量)という3つの定を守るという5Sの整頓を効果的にする管理手法
・具体的には、サイズ表記が目立つ箱に少量で整頓をして、箱と箱の間も隙間を空けて、誤って違う箱に入ることを防止した
・大きいサイズのドリルは金額が高いため、一つを共有しやすいように使用者の名前の入ったマグネットを置き場に残すルールも作成

3定管理
3定管理・筆者作成
ヒューマンエラー対策への効果
ドリルの穴開けの間違いやムダな発注などが減り、生産性が向上。ドリルを探す時間も減ったため、効率的に。他の作業員がドリルを適当な場所に置くことが減り、さらにヒューマンエラーを減らす効果も確認できた。少しずつ他の工具でも3定管理を導入して改善を続けている

 ヒューマンエラーを起こしてしまったら、作業員を責めるのではなく、作業改善のヒントをくれたという気持ちで、会社をより良くすることを考えていきましょう。

 サービス業では、お客様の声を集めることでサービスの改善をおこなっています。同じようにヒューマンエラーは改善のきっかけとなり、その効果は非常に高いものとなります。

 改善をおこなううえでは、問題を認識し、必ず原因を究明してから対策をしていくことが重要です。ヒューマンエラーに着目した改善により、作業の効率化、事故の減少、クレームの減少につながります。

 この記事を参考に、原因に対して一つひとつ対策を講じていけば、ヒューマンエラーの発生を抑えられます。

 ヒューマンエラーをなくして、会社をより良い会社へ改善していきましょう。