目次

  1. SOP(Standard Operating Procedures)とは
  2. SOPとマニュアルの違い
  3. SOPとGMPの違い
  4. SOPを作成するメリット
    1. 作業の属人化防止
    2. リスク管理と品質保証の強化
    3. 効率性の向上とコスト削減
    4. 新しく採用した従業員のトレーニング効率向上
    5. 外部からの信頼性向上
  5. SOPの作成手順
    1. SOPを作成する業務プロセスの特定
    2. SOPを作成する目的の明確化
    3. フォーマットを決めて作成
    4. SOPレビューの実施とフィードバックの収集
    5. 最終版の作成と承認
  6. SOPを作成する際のポイントや注意点
    1. 簡潔な表現や図表を使用する
    2. 柔軟性のあるフォーマットを使用する
    3. 法規制や業界標準を遵守する
    4. 継続的にトレーニングと評価・改善をおこなう
  7. SOPを作成して生産性向上と安全確保を目指そう

 SOP(エスオーピー:Standard Operating Procedures)とは、企業の業務を効率的かつ効果的に実行するために、手順やプロセスを標準化してまとめた書類です。標準作業手順書とも呼ばれます。

 SOPを活用する目的は、手順の一貫性を保って業務品質を維持したり、従業員が業務を理解しやすくしたりすることです。SOPは作業員のトレーニング・品質管理・リスク管理に必要不可欠で、製造業やサービス業などで広く使用されています。

 中小企業では、SOPを採用することでヒューマンエラーの削減や新規従業員の研修が容易になります。そうして作業の効率化を図れば、ビジネスの安定性と成長を促進できます。

 SOPとマニュアルの主な違いは、その焦点と使用方法にあります。

 SOPは、特定の作業をどのようにおこなうかに着目して作成される文書です。手順が具体的かつ詳細に記述されていることから、業務品質と効率性の確保に使用されます。

 一方、マニュアルは業務の全体的な枠組みを記載したものです。業務の手順だけでなく、「目標」「品質基準」「その業務がなぜ重要なのか」「必要性」についても説明します。マニュアルがあることで、従業員は背景を理解したうえで業務に取り組めます。また、実務のなかでの判断基準や蓄積された暗黙知の言語化・共有の手段として活用されるのもマニュアルの特徴です。

 このように、SOPとマニュアルはそれぞれ異なる目的で作成・活用されます。

 SOPと同様に製造現場で使用されるものに、GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)があります。両者はともに品質や製造過程の一貫性を保証するために用いられますが、それぞれの内容は大きく異なります。

 SOPは組織内の具体的な作業手順やタスク、プロセスに焦点を当てていますが、GMPは製品の安全性と品質を確保するための広範な規範を記しています。

 一方、GMPは製品の安全性と品質を保証するための規制ガイドラインのことで、主に製薬や食品産業などで使用されます。GMPは製造過程全体の品質管理システムを確立し、製品の安定した品質を保つための基準を設ける際に作成されます。

 目的は同じでも、SOPとGMPでは内容や用途が異なることを把握しておきましょう。

 SOPを作成して業務手順を明確にし、実際に現場で活用することで、従業員と企業の両者にとってメリットがもたらされます。主に挙げられるのは、以下の五つです。

  • 作業の属人化防止
  • リスク管理と品質保証の強化
  • 効率性の向上とコスト削減
  • 新しく採用した従業員のトレーニング効率向上
  • 外部からの信頼性向上

 順に詳しく紹介します。

 SOPは、重要な作業や知識が特定の個人に依存する「属人化」や、ノウハウを個人が秘匿してしまう「ブラックボックス化」を防ぎます。SOPを作成することで、特定の従業員だけが知っている作業方法やノウハウを文書化できるためです。

 例えば、特定の従業員のみがおこなっていた機械のメンテナンス作業をSOPにすることで、ほかの従業員も同じ品質で作業できるようになります。全社員が同様に作業手順を把握できるため、従業員が退職したり長期休暇を取ったりした場合でも円滑な引継ぎが可能になります。

 SOPに手順とガイドラインが明記されていれば、作業中のミスや事故が減り、結果として製品やサービスの品質が安定します。

 例えば化学工場での危険物取扱い作業では、安全な操作方法を明確にし、事故リスクを減少させたり製品品質を保持したりするために、SOPが重要な役割を担っています。

 SOPは単に手順を示すだけではなく、リスク管理や品質保証の強化に役立ちます。

 SOPによって作業手順が標準化されると、時間の浪費やリソースの無駄遣いがなくなり、業務の効率性向上やコスト削減へとつながります。

 工程が複雑で作業者の能力が歩留まりに依存しやすい場合でも、SOPを作成することで手順や作業のポイントや注意点などが明確になっていれば、生産性が向上します。

 SOPには詳細な作業手順が文書化されているため、誰でも迅速かつ効率的に業務を学べます。よって、新しく採用した従業員のトレーニング期間の短縮と早期の業務適応が可能です。

 SOPに適切な業務手順を示しておけば、法的規制や業界基準に準拠した業務を確実に遂行できます。これにより、中小企業はコンプライアンスを保ち、外部からの信頼性を高められます。

 また、ISO監査や規制機関の検査の際に、適切な製造プロセスが確立されていることを証明する書類として、SOPを用いることもできます。

 SOPを社内で効果的に活用するためには、適切な手順で作成することが大切です。ここでは、SOP作成の手順をステップ別に紹介します。

 SOPを作成する最初のステップでは、業務の重要性・リスクの度合い・頻繁に発生する問題点などを考慮に入れ、どの業務や作業にSOPが必要かを決定します。

 例えば、製造業であれば製品の組み立てライン、サービス業であれば顧客対応のプロセスなど、一貫性が求められる業務はSOPの対象となり得ます。この段階では業務の各ステップを明確にし、関連するリスクやボトルネック(生産性を下げている箇所)を特定します。

 また、SOP作成の優先順位を決定し、リソースを効率的に割り当てましょう。

 次に、SOPの目的と使用する場面を明確にします。どのような結果を期待するのか、また、どのような状況や条件下で適用するのかを具体的に決めましょう。

 例えば、SOPを作成することで組立工程の歩留まり改善によりコスト削減を目指す、ヒヤリハットが多い作業の危険ポイントをまとめて作業員の安全を確保するなど、自社の状況に合わせたさまざまな目的があるでしょう。

 SOPの使用効果を高めるためには、テンプレートやフォーマットの選定が重要です。適切なテンプレートやフォーマットを使うことで、文書の見やすさや理解のしやすさ、組織内での統一性を確保できます。

 テンプレートには、SOPのタイトル・目的・手順の詳細・必要なツールや材料・安全面での注意点などを記載します。フォーマットに決まりはありませんが、ステップ図やフローチャート図などを用いることで、使用者の理解度がより高まりやすくなります。

SOPのテンプレート・ステップ式
SOPのテンプレート・ステップ式(著者作成)
SOPのテンプレート・フローチャート式
SOPのテンプレート・フローチャート式(著者作成)

 SOP作成時には、作業現場の従業員の意見やフィードバックを取り入れることが大切です。現場の経験や知見を反映させることで、より実用的なSOPを作成できます。

 SOPの草案が完成したら、関連するスタッフや管理者とのレビュー会議をおこない、フィードバックを収集します。このステップでは、実際に業務に携わる従業員からの意見を積極的に取り入れることが重要です。

 SOPを用いながら実際に作業をおこない、各関係部署から作業の流れや安全性などについてチェックを受け、フィードバックをもらいましょう。

 ここでは、収集したフィードバックを反映し、文書の明瞭性と正確性を最終確認します。最終版は経営者や上級管理者など、関係作業の責任者レベルの人が内容を確認し、承認しましょう。

 例えば、IT企業におけるソフトウェア開発プロセスのSOPでは、最新の技術標準やセキュリティ規制に準拠していることを確認し、上層部の承認を得ます。

 SOPを作成しても、作業工程や安全面で配慮するポイントがわかりづらければ活用する意味がありません。以下で紹介するポイントや注意点を意識しながら、初心者でも理解できるSOPを作成しましょう。

作成する際のポイントや注意点
簡潔な表現や図表を使用する ・業務手順をシンプルな言葉で説明し、必要に応じて図や表を用いる
・複雑な機械操作を説明するなどの場合は、ステップ図形式がおすすめ
柔軟性のあるフォーマットを使用する ・迅速に更新できるように極力シンプルな構成にする
・エクセルなど、誰もが使える基本的なツールで作るのもポイント
法規制や業界標準を遵守する ・最新の法的要件に準拠しているか定期的に確認し、していなければ迅速に改訂
継続的にトレーニングと評価・改善をおこなう ・従業員がSOPを正しく理解して実践できるようにするために実施
・効果を高めるには、実践的な演習を取り入れることが大切

 SOPを作成する際は、指示内容が明確かつ簡潔であることが重要です。不明瞭な表現や余計な情報があると、使用する側の混乱を招きます。

 業務手順をシンプルな言葉で説明し、必要に応じて図や表を用いて視覚的に理解しやすくするといいでしょう。例えば、複雑な機械操作を説明する際には、作業手順を一つずつ段階的に記載するステップ図形式を用いるのがおすすめです。

 SOPを作成する際は、柔軟性のあるフォーマットを使用し、時とともに変化する業務環境や技術の進歩に適応できるように備えましょう。フォーマットに柔軟性を持たせることで、従業員が常に最新の手順に従って作業できるようになれば、結果として全体の効率性と安全性が高まります。

 迅速にSOPを更新できるように極力シンプルな構成にしつつ、作成に使用するツールも誰もが使える基本的なものを使用します。

 例えば、エクセル形式でテンプレートを準備しておけば、テキストの追加や削除、図の更新が簡単にでき、最新の業務フローを正確に反映した内容を保てます。

 SOP作成時には、関連する法規制や業界標準を遵守することが必須です。規制に違反する内容を含めないように注意し、常に最新の法的要件に準拠していることを確認するようにしましょう。

 実際の作業では、業界の標準品質や危険物の使用に関する法改正などを定期的にチェックし、SOPが最新の規制に準拠していなければ迅速に改訂をおこないます。

 例えば、製薬メーカーで作成するSOPならば、規制当局の最新のガイドラインに沿った定期的な見直しと更新が必要です。

 SOPを効果的に機能させるためには、従業員に対する継続的なトレーニングとSOPの実施状況の評価が不可欠です。

 従業員がSOPを正しく理解して実践できているか、定期的に遵守状況をチェックします。また、繰り返しトレーニングセッションを実施し、必要に応じて改善を図りましょう。

 トレーニングセッションの効果を高めるには、実践的な演習を取り入れることが大切です。例えば、顧客対応のSOPトレーニングでは、実際の対応シナリオを使ったロールプレイをおこなうことで、従業員の理解度を高められます。SOPを現場でどのように適用すべきかを具体的に理解させましょう。

 SOPの策定と運用は、業務の効率化や従業員の安全性の向上にも欠かせません。また、従業員が一貫した方法で業務を遂行することで、エラーの減少や品質の担保が実現でき、自社の信頼性向上にもつながります。

 まずは、重要性やリスクレベル、トラブルの発生頻度などを基準に自社で実施している業務を優先順位付けして、ひな形となるSOPを一つ作成してみてください。

 そのうえで、SOPのブラッシュアップを続け、自社ノウハウの蓄積に役立てていきましょう。