傾聴力とは? 経営者に求められる理由や高い人の特徴、鍛え方を解説
ビジネスでもプライベートでも、聞き上手な人は慕われ、信頼されやすいものです。なかでも相手の話に深く耳を傾ける「傾聴力」は、経営者・管理職者が組織を導くうえで欠かせないスキルといえるでしょう。そこでこの記事では、傾聴力とはどのようなものか、どのように傾聴スキルを高めていくかについて解説します。
ビジネスでもプライベートでも、聞き上手な人は慕われ、信頼されやすいものです。なかでも相手の話に深く耳を傾ける「傾聴力」は、経営者・管理職者が組織を導くうえで欠かせないスキルといえるでしょう。そこでこの記事では、傾聴力とはどのようなものか、どのように傾聴スキルを高めていくかについて解説します。
目次
傾聴力とは、相手の話に深く耳を傾ける力のことです。ビジネスシーンでは「従業員の考えを深く理解するために聞く」「課題解決のヒントを見出すために、現在の仕事の進め方について深く聞く」といったことを指します。
互いに思っていることを言い合う「会話」とは異なり、片方がよく話して片方がよく聞くという関係性も、傾聴の特徴といえます。
「傾聴」を辞書で調べると「真剣に聞くこと(参照:大辞林第4版)」「耳を傾けて熱心に聞くこと(参照:デジタル大辞泉)」と出てきます。ビジネスシーンにおける傾聴の定義はさまざまですが、この記事においては「相手を深く理解するため、よく聞くこと」とします。
昨今、ビジネスシーンにおける傾聴力への関心が高まっています。その背景には1on1ミーティングの普及があるでしょう。加えて、ここ数年でリモートワークが増加したこともきっかけの一つだと筆者は捉えています。
密なコミュニケーションを取る機会が減少し「従業員と腹を割って話す機会が減った」「部下が何を考えているのか理解しづらくなった」と頭を悩ませる経営者や管理職者も多いのではないでしょうか。その解決策の一つになるのも、傾聴力なのです。
傾聴力は、経営者が身に付けるべきスキルの一つといえます。ここでは、その理由を三つ解説します。
傾聴力が高いと、周囲から相談されやすくなります。例えばあなたが人に悩みを打ち明けるとき、話を親身になって聞いてくれる人とあまり聞かずに自分の話ばかりする人、どちらに声をかけるでしょうか。きっと、親身になって聞いてくれる人を選ぶでしょう。
傾聴力が備わっている経営者は、従業員やクライアントから「困ったら◯◯さんに相談しよう」「言いにくいことも△△さんになら話せる」と思われます。それにより、悩み相談だけでなく、本音を打ち明けやすい存在にもなりえます。クライアントから相談しやすいと思われれば、そこから新たなビジネスチャンスにつながることも期待できます。
傾聴力は、顕在化されにくい物事を見出す際にも役立ちます。相手の話に深く耳を傾けることで、表面的な会話では気づけなかったことに気づけるからです。
トヨタ自動車の「5回のなぜ」という考え方をご存じでしょうか。問題の発生原因を探るとき、一度や二度の「なぜ」では表面的な原因しかわからないが、三度・四度・五度と「なぜ」を繰り返すことで、はじめて真因にたどりつけるという考えです(参照:『トヨタ式「すぐやる人」になれる8つのすごい! 仕事術』p.70、71)。
「5回のなぜ」は傾聴とは異なります。ですがこの考え方から、物事の真因を理解して解決策を見出すのは簡単ではないことや、掘り下げが大切であることがわかります。傾聴も相手の話を深く掘り下げて聞くことのため、物事の本質や真因にたどりつくきっかけになります。
傾聴は従業員のパフォーマンス向上にもつながります。なぜなら、傾聴により従業員の課題や悩みを把握し、的確なアドバイスをしやすくなるからです。
また、話をよく聞いてくれる経営者や上司のもとで働くと、従業員は「何かあったら◯◯さんに相談しよう」と思うようになります。その思いを持つことで安心して業務に取り組むことができ、挑戦もしやすくなるでしょう。
何より、傾聴とは相手にたくさん話してもらうことです。言葉にすることで自身の思考が整理され、自分で課題解決の糸口を見つけることもあります。自分で解決策にたどり着けた経験が自信に代わり、その自信がパフォーマンスをさらに高めてくれるかもしれません。
なお、ジェイックがおこなった「リーダーシップとコミュニケーション能力の強化に関するアンケート」によると、幹部・経営層や管理職層が「人材育成を通じて強化すべきコミュニケーション能力」として、傾聴力が上位に挙がっていることもわかりました。人を育てる点からも、傾聴力の重要性が高まっていることがうかがえます。
以上のことから、傾聴力は、経営者に必須のスキルといえます。
傾聴力が高い人には、いくつかの共通する特徴があります。ここでは四つの例を挙げます。ぜひ従業員とのコミュニケーションの際に取り入れてみてください。
傾聴力のある人は、相手の話を安易にジャッジせず、最後まで聞こうとします。
話を聞きながら「それはこういうことでしょ」「そういうときはこうするといい」など言いたくなることもあると思います。しかし、もし話の途中で口を挟んだら、相手が「まだ話は終わってないのに、遮られてしまった」と思い、それ以上話すことを諦めるかもしれません。それにより、相手の本音や最も伝えたいことにたどり着けなくなってしまいます。
早い段階でジャッジをしないこと、最後までできるかぎりフラットな気持ちで聞くことが、傾聴力の高い人の共通項です。
傾聴力が高い人は、話しやすい雰囲気作りが上手です。例えば、話を聞くときの相づち・目線・表情・声のトーン・間の取り方を工夫しています。また、相手の発言の肯定も上手です。
話しやすい雰囲気については、「傾聴力を高める三つの鍛え方」にて後述していますので、ぜひ参考にしてみてください。
傾聴力の高さと観察力の高さはセットと言っても過言ではありません。なぜなら、傾聴とは相手の言葉だけでなく、表情や声のトーン、間の取り方など非言語情報も含めて聞くことだからです。
例えば、相手が話しているとき、ほんの一瞬目が泳ぐとします。傾聴力が高い人は、それを見逃しません。一瞬の目の泳ぎからも「何かほかにも気になることがあるのかな?」などと相手のメッセージを理解しようとします。
さらに、傾聴力が高い人は普段から相手を観察し、それを傾聴の場面に役立てています。例えば「Aさんの趣味は旅行だと言っていたな。それなら、今度の1on1で旅行の話も聞いてみよう」「Bさんは、いつも午前中に忙しくしている。話をじっくり聞くなら午後が良いだろう」など、相手に合わせた話題選びが上手なのです。
傾聴力がある人は、普段からこまめにコミュニケーションを取っています。普段からコミュニケーションを取らない相手と、いきなり踏み込んだ話をするのは簡単ではないからです。
どんなに聞き方を工夫しても「この人になら話せる」と思われないことには、相手の本音や悩みを引き出せません。傾聴スキルが高い人は、普段から積極的にコンタクトを取り、話しやすい関係性を築いています。
ここまで、傾聴力が高い人の特徴をご紹介しました。では、傾聴力がないと、ビジネスにおいてはどのような問題が起こりえるのでしょうか?考えられることを三つ挙げます。
人の話をよく聞かずに自分ばかり話していると、「この人は話を聞いてくれない」と思われ、小さな悩みや些細な疑問も打ち明けられなくなってしまいます。「聞いてほしいけれど我慢する」「言いたいことがあるけれど言えずに溜め込む」といったコミュニケーションが常態化すると、しだいに相手が心を開かなくなります。
自分で問題解決をするなど「自己完結」の習慣が根付いてしまう可能性もあるでしょう。言いたいことを言えない環境でストレスもたまり、従業員のモチベーション低下やパフォーマンス低下にもつながりかねません。
傾聴の機会を設けず表面的なコミュニケーションに留まると、顕在化していないトラブルや問題にも気づきにくくなります。トラブルが起こった後に「もっと相手の話をしっかり聞いていれば良かった」と思った経験は多くの人にあるでしょう。傾聴はトラブルを未然に、または最小限に防ぐためにも欠かせないスキルなのです。
傾聴力はチームワークにも影響を与えます。なぜなら、従業員の一人ひとりの声に耳を傾けることで、モチベーションにばらつきが無いか、チーム全体が同じ方向を向いているか、といったことが見えてくるからです。
もし傾聴の機会を持たず、相手を深く理解できずにいると、モチベーションや目指す方向にばらつきが生じていることに気づけず、チームワークの低下につながりかねません。それを防ぐためにも、傾聴力は重要なスキルといえます。
傾聴力は決して特別なスキルではなく、誰しもが鍛えることのできる力です。ここでは、傾聴力を高めるための具体的な鍛え方を三つ紹介します。傾聴力を高め、経営者としてのスキルを高めましょう。
傾聴力を高めるコツは、簡単にわかったつもりにならずに聞くことです。私たちは、自分が思う以上に相手の話を聞けていません。理解した「つもり」になっていることも多いものです。まずはそのことを自覚する必要があります。
子どものころ、伝言ゲームで遊んだことはありますか?グループ内でAさんがBさんに伝言し、Bさんはその内容をCさんに伝言し、Cさんも同じ内容をDさんへ伝言し…と、同じメッセージを次から次へと伝えていくゲームです。不思議なことに、Aさんが伝えたメッセージが最後の人にまで正確に伝わることはほとんどありません。このゲームは、私たちがいかに人の話を正確に聞けないかを表しています。
傾聴力が高い人は、「聞けていない」ことを自覚しています。だからこそ相手をもっと知りたい・わかりたいと思い、話を途中で遮ることなく、相手の言葉に深く耳を傾けます。
傾聴上手になるには、傾聴される経験を積むのも効果的です。どのような相づちやリアクションをされると話しやすいのか、どのような聞き方をされると話しにくくなるのか。話を聞いてもらうことで良い聞き手の特徴がわかり、自分に生かしやすくなります。
買い物をする際の接客も、良い学びの機会になります。お店の人がどのように声をかけ、どのようにヒアリングをするかに注目し、良いと思った点は自分でも取り入れてみましょう。
自分の聞き方はどのような雰囲気か、どのような癖があるかを把握している人は少ないでしょう。先述したように、傾聴力が高い人は話しやすい雰囲気作りが上手です。ぜひ一度、録画して確認してみてください。話しやすい雰囲気作りのための手がかりが見つかるかもしれません。
ここでは、録画するときのチェックポイントを三つ挙げます。
【相槌・リアクション】 相手の話を聞いていることが伝わるように、わかりやすくハッキリと相槌を打っているか、食い気味の相づちになっていないか、不安をあおるような大げさなリアクションを取っていないか、「はいはいはいはい」「ふんふん」など軽いものになっていないか、相手の発言を肯定できているか |
【目線】 相手の顔を見て話を聞いているか、目をしっかり開いているか(目がしっかり開いていないと、疲れているように見えたりします。相手の話を楽しそうに聞く人は、目がぱっと開いている人が多いと思いませんか?) |
【表情】 硬くなっていないか、真剣な話を聞いているのに薄ら笑いになっていないか |
最後に傾聴力を磨く方法も紹介しましたが、傾聴において最も大事なことは、相手を深く理解したいという気持ちです。小手先のテクニックは、すぐに伝わってしまいます。
「聴く」という漢字には、目、耳、そして心という字が含まれていますが、頭ではなく心を相手に寄せることで、相手はあなたに心を開くはずです。その心を持ったうえで、ほんの少しの技術があれば、きっとあなたの傾聴力はさらに磨かれます。この記事が、少しでも傾聴力向上のヒントになれば幸いです。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。