「ホワイト過ぎて辞める」はなぜ起こる? 成長を実感できる職場のつくり方
「社員に優しく寄り添った、ホワイトな職場を築いたはずなのに離職が止まらない」。そんな悩みを抱える経営者はいませんか。もしかすると、経営者の“勘違い”が社員の離職を助長しているかもしれません。組織コンサルティング会社識学のシニアコンサルタント岡根谷真介さんが、「ホワイト過ぎる職場」で社員が辞める理由や、成長を実感できる職場の作り方について、離職を減らしたスーパーの組織改善を交えながら解説します。
「社員に優しく寄り添った、ホワイトな職場を築いたはずなのに離職が止まらない」。そんな悩みを抱える経営者はいませんか。もしかすると、経営者の“勘違い”が社員の離職を助長しているかもしれません。組織コンサルティング会社識学のシニアコンサルタント岡根谷真介さんが、「ホワイト過ぎる職場」で社員が辞める理由や、成長を実感できる職場の作り方について、離職を減らしたスーパーの組織改善を交えながら解説します。
ミスをしても叱責されない、成績が振るわずとも優しく励ましてもらえる。そんな「ホワイト過ぎる」会社では、社員が成長の実感を得られないという問題点があります。
成長とは「できなかったことができるようになること」です。しかし、できないままでよしとされる環境だと、社員は自分に何が足りないか認識できず、成長に向けたスタートラインに立てません。
人間の仕事がどんどんAIに置き換わるなか、若いビジネスパーソンほど、自分なりの武器がなければ生き残れないという危機感を抱いています。そんな若い世代は、将来を真剣に考えているからこそ、成長の実感が得られない職場にはいられないのです。
このような職場が生まれてしまう原因は、経営者にあります。昨今、職場のハラスメント問題が大きく取りざたされるようになった結果、社員をどう指導していけばよいか分からず、やむを得ず優しくするようなマネジメントを採用しているケースが目立ちます。叱れないし、注意もできない。そんな“エセホワイト”な企業が増えているわけです。
ただ、最近の若手は失敗を極端に嫌いますから、それも仕方がない面があります。若い社員に一言注意しただけで、次の日から出社しなくなったという経験をした管理職もいるのではないでしょうか。
経営者が築くべきは、表面的な優しさがある職場ではなく、社員が成長し続けられる環境です。もちろん、かつての日本で当たり前だった「モーレツ」な働き方を推進するべきだと言うつもりはありません。では、経営者はどんなアプローチをすればいいのでしょうか。
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大切なのは、しっかり指導すべき点とそうでない点を分けることです。それさえ間違えなければ、パワハラも防げます。
まず、しっかり指導すべきことはルール違反です。あいさつや身だしなみといった、能力に関係なく誰もが守れるルールを破る社員には、そのルールを守らせるまで、直属の上司に指摘させ続けてください。
ただし、そのときも上司に感情を出させるのは厳禁です。淡々と「ルールですから守ってください」と言わせるだけ。この指摘は上司の最低限の役割だと、経営者が社内に周知しましょう。
一方、社員が懸命に努力した結果の失敗については、何の指導も要りません。叱責などもっての外です。失敗は成長につながるのですから、経営者は社員にどんどん挑戦をさせるべきでしょう。
例えば、「1週間で100万円を売り上げる」という目標を掲げた社員が、80万円しか売れなかったとします。こんなときは、直属の上司が「じゃあ、どうする?」と聞くだけで十分です。もちろん、感情を表に出さず、あくまでも淡々とです。
「なぜできなかったの?」と尋ねるのもやめさせましょう。過去は変えられまぜん。理由をほじくると叱責にもつながりかねません。
「じゃあ、どうする」と尋ねられた部下が、自分なりの改善策を考え、それを行動に移した結果、目標を達成すれば、確実に成長を遂げたことになります。
注意すべきは、上司と部下との間で感情的なやり取りを控えるようになると、部下の方は「話しかけづらい」と遠慮し、上司に必要な報告を怠る恐れがあることです。
こうした事態を防ぐには、「社員は何か分からないことがあれば、いつでも上司に相談できる。上司は必ずそれに答える」というルールを、経営者が設けるといいでしょう。
ルール違反に対する指導はするが、努力した結果の失敗は一切責めず、どんどん挑戦をさせる。そして、失敗したらどうするかを部下自身に考えさせ、上司は感情を出さずに接する。
こうしたことを、経営者が社内に徹底すれば、社員は継続して成長できますし、パワハラも起きにくくなるはずです。
その上で、経営者が社員の成長を促すために用意すべき仕組みが二つあります。
一つ目はスキルマップです。例えば、同時に複数の社員が入社し、ある1人だけ飛び抜けて優秀だと、他の社員が普通でも出来が悪く思えてしまい、指導する側もされる側も焦ってしまいがちです。
一方、全員がいま一つのときは、会社側が改善するために手を打つべきなのですが、「みんな同じだし、こんなものか」と思い込みがちです。
このとき、社員にどんな能力があるかを可視化するスキルマップを用意し、指導するための基準を設定すれば、それぞれに異なる経験やスキルを持つ社員が、いつ入社してきても正しく導いてあげられます。
もう一つが評価制度です。いつまでに何をすれば収入が増えていくのかを明確にし、仕事に向かう社員の集中力を引き上げましょう。
ポイントは、マイナス評価を入れることです。つまり、会社側が求める結果を残さなければ、給与が下がる仕組みにするわけです。
成績が悪くても給与が変わらないままだと、社員は「別に頑張らなくてもいい」という気持ちを抱いてしまいますが、給与が下がるとなれば話は別です。その恐怖があれば、嫌でも努力しようとするでしょう。我々はこれを「必要な恐怖」と呼んでいます。
それでは実際にあった、あるスーパーマーケットの話を紹介します。
そのスーパーは、アルバイトやパート従業員が入っては辞めることを繰り返している店舗でした。スタッフを尊重するべく、店長が積極的に声を掛け、意見を取り入れようとしてもまるでダメ。給与を引き上げたり、休みを増やしたり、福利厚生を見直したりしても、効果はありませんでした。
確かに、待遇はホワイトかもしれません。しかし、その会社では店長が交代するたびに指導の内容が変わるという、大きな問題がありました。
役割やルールを定めず、自主性を重んじた方が働きやすいだろうという経営者の勘違いが原因です。
店長が代わるたび、「なぜそんなこと言われないといけないのでしょうか」、「前の店長の方がよかった」と言った不満が、スタッフの間から漏れ、店長との関係がぎくしゃくしていました。さらに、不満を持ったスタッフが店長を飛び越して部長や社長に直訴し、店長の離職まで起きていたのです。
そこで、そのスーパーでは、ルールや各スタッフの役割を決め、誰が店長になってもうまくいくよう、スタッフに対して発言するべき内容を統一させました。
スキルマップと評価制度も整え、どうすれば給与が増えるのかを明確にした結果、離職率は激減。売上高も前期比110%増を達成したのです。
もちろん、スタッフが何かあればすぐに店長へ尋ねられる仕組みはこれまで通りです。スタッフの方々からも「働きやすくなった」という声を頂きました。
社員が成長を続けられ、それに伴って給与が増える。そして、ルールをしっかり守れば感情的に怒られる心配がない。
それこそが、本当の意味でホワイトな職場ではないでしょうか。
“エセホワイト”な職場では、優秀な若手が辞めてしまい、そのせいで業績を伸ばせません。優秀な若手に「ここで働き続けたい」と思わせるためには、経営者が先頭に立って社内体制を整えるしかありません。本記事がその一助になれば幸いです。
識学 シニアコンサルタント 営業部
上智大学経済学部卒業後、大手広告会社、外資系金融機関、イベント企画制作会社役員から現職。テレビ広告、番組制作、社内社外広報、フルコミッションでのセールス・マネジメント(採用、育成、管理)、イベント企画・運営、会社役員を経験。
(※構成・平沢元嗣)
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