目次

  1. 部長の役割は「責任者」となること
    1. 部署のトップとして「経営者」視点が大切
    2. プレイヤーを兼務することも
    3. 業務の拡大と改善
  2. 部長と課長の違いとは
    1. 部長の役割
    2. 課長の役割
  3. 部長の主な仕事内容
    1. 部署の戦略立案
    2. 部署の管理業務
    3. 部署内の環境整備
    4. 部下の育成
  4. 部長に求められるスキル
    1. 業務遂行スキル
    2. 人材育成スキル
    3. リスクマネジメントスキル
    4. 覚悟と決断力
  5. 部長に向いている人の特徴
    1. ヒューマンスキルが高い
    2. リーダーシップを発揮できる
    3. プレイングマネージャーとして活躍できる
    4. 人に任せることができる
  6. 部長が陥りやすい問題
    1. 部下の人材育成が最適化できていない
    2. 人手不足に対応できていない
    3. 一人で問題を抱え込む
  7. 部長の役割を把握して組織の成長につなげよう

 部長の役割は、部署内のあらゆる事情に対して、最終的な判断を下し、その責任を負うことです。「部長」は文字通り部門の責任者であるものの、「課長」よりも広い範囲で大きな責任が生じるところが特徴だといえます。 

 部長に求められる責任には、次のようなものが挙げられます。

・部署内の意思決定
・部署のリスクマネジメント
・部署内の人事(採用と評価)
・部署の職場環境の構築

 自身の業務だけでなく、部署内の業務やプロジェクトの進捗状況、人間関係などを的確に把握し、円滑に遂行できるようマネジメントする力が求められます。

 部長は、部署を一つの会社とみなして運営するための経営者視点を持つべきです。役割として、経営マネジメントスキルを活用しながら社長の経営判断をサポートし、会社の目標達成に寄与することも求められます。

 そのため、部長は経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の現状を的確に把握し、これら経営資源の活用方法を部下に指示する必要があります。

 経営者視点が重要であると同時に、プレイヤー視点も忘れてはなりません。すべての企業で、部長が指示や管理だけを行うわけではなく、プレイヤーを兼務しているケースも多くあります。特に、中小企業など、部門内の人数が少ない企業ではその傾向が顕著です。

 2022年に産業能率大学が行った研究「上場企業の部長に関する実態調査」によると、9割以上の部長がプレイヤーとマネージャーを兼務する「プレイングマネージャー」として活動していると分かりました。また、業務の4割以上がプレイヤーとしての仕事である、ということが明らかになっています。この研究は上場企業を対象としたものではあるものの、未上場の中小企業でも同じ状況であるといえるでしょう。

 このように、部長の悩みの一つとして、マネジメントに専念できないことが挙げられるのが現状です。

 部長の役割として、新しい仕事を作り、それに挑戦することも必要です。そうしなければ、業務の拡大を図ることは難しいでしょう。また、現行業務の改善を行い、効率を向上させることも必要です。

 こうした新しいことや業務改善を進める際は、リスクを負いながら部下の行動を見守る、重要な事項に対して適切な判断を下すなど、責任者としての役割が求められます。

 管理職には「課長」も存在します。部長と課長はどちらも、同じ組織の長という役割を持っていますが、違いは何でしょうか?

 部長は部署の「戦略」を立てる役割を担います。経営層が打ち出した企業の経営方針や目標に従い、自部門が担う役割を認識する。そして、部門としてどのような方針や目標を立てるか検討する。このシナリオを策定するのが部長です。

 例えば、営業部であれば「今期は◯◯という商品を主軸に、◯億円の売上を目指そう」というような目標を立てます。さらに、課長を通じて部署内のメンバーに必要な事項を伝達し、進捗状況を把握しながらその都度戦略を見直していきます。

 課長は部長からの戦略を受け、具体的にどのように行動していくかの「戦術」を立てる役割を担います。部長からの指示を受け、「◯◯という商品をどのように宣伝していくか」「◯億円を目指すためにはどの顧客層をターゲットにするか」など、細かい行動を考え、部下に指示を出します。

 課長には、現場とのコミュニケーションを図りながら、部署内のメンバーをどのように動かすか具体的に考えていく役割もあります。

 部長の仕事内容は非常に多岐にわたります。以下に、主な部長の仕事内容について具体的に解説します。

 部長の大きな仕事の一つとして、経営層が打ち出した企業の方針に基づき、部署内の戦略やシナリオを立案することが挙げられます。これは部長が一人で行うものではなく、他の経営層と話し合い、調整しながら進めます。

 また会議では、企業の状況に応じた戦略の見直しなども話し合います。

 部署内で発生する主な管理業務として、下記4つが挙げられます。

・目標達成管理
・リスクマネジメント
・関係先との交渉
・コンプライアンスの徹底

 部署内の業務が円滑に進むよう、これらを適切に管理することが大切です。

①目標達成管理

 部門として掲げた目標に対して、現状はどうか、達成の見通しはどうかを常に把握し、目標達成を目指します。また、メンバーのモチベーションを向上させる工夫も大切です。

②リスクマネジメント

 部署内で発生し得るミスやトラブルを未然に防ぐために必要な対策を講じます。体制を整えたり、新たな規則を制定したりすることも業務の一部です。

 ミスやトラブルが発生してしまった際には、迅速な対処はもちろん、再発防止のために部署内の指導も行います。

③関係先との交渉

 部署内の最終決裁者として、関連部門や取引先などとの交渉を行うのも部長の管理業務の一つです。そのため、プレイングマネージャーとして日頃から関係先との関係を構築しておくだけでなく、部署内の状況を把握し、部下からの提案内容を理解しておく必要があります。

④コンプライアンスの徹底

 コンプライアンスを徹底させることも部長の管理業務の一つです。法的な遵守はもちろんのこと、ハラスメントが発生しないように啓発を行います。また、万が一問題が発生した場合は、事態を鎮静させるなど速やかに対応することも重要です。

 部署内のメンバーが働きやすい環境を整備することも部長の仕事です。これには、職場の環境整備といったハード面と、残業の削減や業務の平準化、さらにはメンバーのメンタルケアといったソフト面があります。

 このような環境整備を進めるためには、日頃からメンバーとの関係性を良好に保つことが重要です。

 部長の仕事として意外に大きな割合を占めるのが「人材育成」です。部下のキャリアプランを考慮した適切な教育を提供するなど、中長期的に人を育てることも重要です。そのためには、部下の能力を見極めつつ、必要に応じて他部署とのジョブローテーションを計画することも有効です。さらに、その中から次世代の幹部候補を見出すことも役割の一つです。

 人が育てば企業も成長します。そのため、部長が担う人材育成の役割は、企業の未来を左右するものといえるでしょう。

 部長には以下のようなスキルが求められます。どのスキルも部長には不可欠なため、部長候補となる人材にバランスよく備わっているか見極めることも大切です。

 組織として掲げた目標を達成するために、どのように業務を遂行するか、プロセスやスケジュールを明確にする業務遂行スキルが必要です。またPDCAサイクルを意識して、状況確認やスケジュールの再設定を迅速に行い、計画通りに進めるための軌道修正も部長に求められます。

 さらに、プレイングマネージャーとしての活動が求められる場合には、自分に課せられた業務を確実にこなす必要があります。自分自身の業務をきちんとこなすことで、部下の士気を上げることにもつながるためです。

 部下という人材資源を最大限に活かすために、適材適所の配置や能力向上を促すスキルも部長に求められます。部下を育てるには、その人の現状を把握することが重要です。そのため、部長自身がコミュニケーションスキルを高め、部署内の一人ひとりの能力を把握する力が求められます。

 さらに、直属の部下である課長を、次期幹部候補に育てることも重要です。直属の部下を育成することで人を育てる風土を創り、部署内を育成しやすい環境に整えましょう。

 職場ではいつ、どのようなトラブルが発生するかわかりません。そのため、想定されるトラブルによるリスクを把握し、事前に対策を講じることが必要です。

 また、トラブルが発生した際に迅速に解決できるよう、問題解決能力を事前に高めておくことも重要です。このように、リスク防止と対策の学習を行い、リスクマネジメントスキルを高めることも部長に求められています。

 部長へは、決まりきったことを行うだけでなく、新しいことに挑戦する姿勢が求められます。その際に、責任を負うための覚悟と業務に挑むための決断力が必要です。

 もちろん、ただ覚悟を決めて決断するのではなく、しっかりとした調査や分析を行い、部下に自分の決断を論理的に伝えることも求められます。

 部長には多くの役割やスキルが求められます。業務や役割を滞りなく遂行するためにも、部長に向いている人の特徴を理解しておきましょう。

 部長には、他者や組織と良好な関係を構築・維持するための対人関係能力、すなわちヒューマンスキルが高い人が向いているといえます。なぜなら、部下だけでなく、経営層とも深くコミュニケーションを取る必要があるためです。また、他部署や取引先など外部の人と良好な関係を築くことも重要です。

 ヒューマンスキルには「見聞きする能力」と「伝える能力」の2つがあり、これらを習得し、訓練して高めることが求められます。

 部長は、一度に多くの人数を動かす必要があります。そのために、組織のビジョンを明確に示し、メンバーを動機づけることが求められます。部下をいかにして動かすか、これがリーダーシップです。

 部長には、プレイングマネージャーとして活動している人が多くいます。プレイヤーとして率先して現場で業務を遂行する姿勢は、部下たちからの信頼を得ます。

 また、現場でのOJT指導やトラブル発生時の迅速な指示などを行うことができる人ほど、部長に向いているといえるでしょう。

 管理職として、やってはいけないことの一つは「部下に仕事を任せず自分でやってしまう」ことです。自分でやったほうが早いから、あるいは部下には任せられないからといって、自分で全てを行うのは管理職失格です。

 特に部長は多くの仕事を抱えるため、部下や周囲の人に仕事を任せることができる人が向いているでしょう。

 部長という仕事は誰にでも務まるものではありません。スキルや向いている特徴を持ち合わせていても、問題に直面することはあります。ここでは、部長が陥りやすい問題について具体例を挙げて解説します。

 部長の仕事に追われ、部下の人材育成に目を向ける余裕がなくなることがあります。その結果、人材育成が最適化できないという問題が発生する恐れがあります。

 部下とのコミュニケーションが減り一人ひとりの現状を把握できなくなると、適材適所の配置や指示ができなくなり、問題を放置してしまう可能性があります。これを防ぐためには、忙しさを理由にせずに部下とのコミュニケーションを図り、適切な人材育成計画を立てることが大切です。また、誰のどのような能力を伸ばすのかを、課長など関係者と協議しておくとよいでしょう。

 少子高齢化の影響で、どの業界も人手不足に陥っています。これを解決するために単純に人を採用しようと考えるのは、部長が陥りやすい問題の一つです。

 人手不足に対応するには、単に人を増やすのではなく、現在いるメンバーでどのように業務を遂行するか、業務をいかに効率化するかを考えることも重要です。例えば、業務の一部にAIを取り入れたり、効率化を図れるソフトを導入したりする工夫が必要です。

 役職が上がると、徐々に相談できる相手が少なくなる傾向があります。そのため、問題やトラブルが発生した際に、すべての責任を自分で解決しようと一人で抱え込んでしまうことがあります。

 部長としての責任は重要ですが、すべてを一人で抱え込む必要はありません。上司や同じ部長に相談することが大切です。また、普段から信頼できる人とコミュニケーションを取り、悩みを話すだけでも心の負担が軽くなります。悩み事は一人で抱えず、周りの力を借りることを意識しましょう。

 部長の役割は多岐にわたり、かつどの業務も企業経営には重要なものばかりです。負担も大きく、大変な役割ですが、部長としての役割や必要なスキルを把握し、周囲の協力を得ることで、組織の中核としてその成長に貢献できます。

 部長を任命したい人材に候補者がいる場合、その人が自社の求めるスキルを持ち合わせているか確認してみましょう。自信を持って部長業務に取り組んでくれる人を輩出し、組織の成長につなげてください。