3定の意味・目的とは?企業が取り入れるメリットと具体的な事例を解説
モノが整頓されていないと、「どこにあるかわからない」「決められた場所にない」と探すムダが発生します。モノを探す時間が増えると生産性が低下するだけでなく、ミスやリスクにもつながります。この記事では、整頓を定着させる「3定」について、製造業に精通している専門家が解説します。
モノが整頓されていないと、「どこにあるかわからない」「決められた場所にない」と探すムダが発生します。モノを探す時間が増えると生産性が低下するだけでなく、ミスやリスクにもつながります。この記事では、整頓を定着させる「3定」について、製造業に精通している専門家が解説します。
目次
3定とは、「定位」「定品」「定量」からなる3つの「定」を指す言葉です。職場環境の整理整頓の基本的な考え方であり、5Sの中の「整頓」に位置づけられています。
3定 | 意味 | 目的 |
---|---|---|
定位 | 置き場所を定めること | 置き場所を定めることでモノを見つけやすくし、探す時間のムダをなくす |
定品 | 定められたモノを置くこと | モノの置き場所が決め、モノがどこにあるかを明確にする |
定量 | 定められた量を置くこと | モノの数をわかりやすくし、必要以上に増えることや不足することを防ぐ |
3定を実践することで、誰が見ても一目で必要なモノの種類・保管場所・数量がわかるようになります。3定とは「誰が見てもわかりやすい」整頓を実現するための基本だといえます。
3定で大切なのは、「誰が見てもわかりやすい」状態にすることです。そのため、モノを置くスペースは、ベテランや新人、誰でも出し入れしやすい環境に整備します。
また、置き場所にそれぞれ置くモノの名前を表示することも有効です。たとえば、細かいモノの場合は収納ケースを準備したり、ケースを透明にしたり、ケースを色分けしたりするとよいでしょう。
3定の目的は、現場の作業効率や生産性を向上させることです。モノをすぐに見つけて次の動作に移れることは、ムダの削減とストレス低減につながります。結果として、作業のパフォーマンスが上がり、生産性の向上も期待できるでしょう。
3定は、その場所に行けば必ずモノがあるという状態が基本です。社内一体となり、モノが定位置にある状態を維持するよう心がけましょう。
3定は、5Sの中の「整頓」に特に関連する概念です。5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」からなる5つのSを指しています。
整頓は決められたモノを決められた場所に置き、いつでも取り出せる状態にしておくという意味です。
現場で3定管理を導入するには、定位・定品・定量の3つの「定」を順番に決めていくなど4つのステップが重要です。
1.置く位置(場所)を決める (定位)
2.置くモノを定める (定品)
3.置く量を定める (定量)
4.従業員が3定管理の実行を徹底する (管理の実行)
「誰でもわかりやすいか?」「モノを使う人の作業効率が上がるか?」などを確認しながら進めていきましょう。
最初に、倉庫や工場の見取り図およびエリアマップを基に、モノを置く場所を決めます。
モノを置く場所を選ぶ際は、作業プロセスやアクセスのしやすさなど、効率的に運用できる場所を選びましょう。現場を実際に確認して、作業現場までの動線や歩数をチェックするのも有効です。
次に、置くモノを定めます。モノを格納しやすく、かつ取り出しやすいようにスペース整理します。置き場所に品名や数量も表示する工夫を施しておくとよいでしょう。
このとき、置き場所が誰でも判別できるようにします。金具やテープ、スポンジをくり抜いた型などを活用し、置き方のルールを定めます。
置き方のルールの一つとして、使用頻度の高い道具は、優先的に取り出しやすい位置に置くことも有効です。どこに置くか、何を優先するかなど、担当する作業者の意見に耳を傾けながら選定しましょう。モノが取り出しやすいか否かを確認しながら決めることで、その後の3定管理の定着につながります。
置き場所とモノを決めたら続いて、置く量を定めます。作業者が1つずつ使用する道具であれば、担当する人の数が必要数になります。しかし、作業者が同時に使用する頻度が低い場合は必ずしも人数分は必要ありません。このように、使用する人数や頻度を加味しながら必要量を調整します。
どのようなモノが、どれだけの量があるのか、その量が正常なのかについては、量を素早く確認できるパネルなどを作成して、見やすい位置に表示する工夫も大切です。
「定位」「定品」「定量」をそれぞれ決めたら、3定が計画通りに機能しているか管理します。
監督・管理者はまず、作業者に3定の意味と効果を説明することが大切です。続いて、作業者の動き、効率のデータ化、ヒアリング等を実施しながら、改善点を抽出します。
現場の意見が的確な場合は、配置や在庫量などを見直します。また、3定を変更した場合は、作業者に必ず伝達しましょう。そして、使い勝手がどのように変化したかを確認します。
改善に終わりはありません。適宜、見直しと改良を加えることで3定管理を徹底させていきます。
3定管理を導入することで、次のような効果が見込まれます。
・作業効率を向上させる
・紛失などの異常にすぐに気づける
・取引先の信頼を得やすくなる
3定管理の導入により、現場の働きやすさの向上につなげましょう。
3定管理を導入するメリットの一つに、作業効率を向上させることが挙げられます。3定管理ができていると、確認する時間やモノを探す時間がなくなり、時間のムダが削減できるためです。
作業員が工具や備品を探している場合、3定管理はできていません。モノを置く位置や量を把握できていないことで、工具や在庫、備品を使用中なのか、あるいは紛失したのかの判断ができないためです。
このような探す時間、余分な在庫のムダを無くすことにより、同じ備品や工具を何度も発注するなど経費の支出も避けられます。作業効率の向上と併せて、業績向上にもつなげられるでしょう。
3定管理の徹底により、「誰が工具を使用中なのか」「備品は使い切ってしまったのか」などの判断が容易です。万が一工具を紛失してしまった場合でも異常にすぐ気づけるようになるため、捜索などの次のアクションを起こせます。
在庫や備品を使いきってしまった場合も同様で、補充や発注につなげやすくなります。3定管理がさらに定着すれば「そろそろ発注しないと」と、モノを切らさない行動も自然に身につくでしょう。
3定管理ができていないと、誰かが紛失してしまったり、備品を使いっぱなしにしたりしていてもわからず、探すムダが発生します。周囲の作業を止めて探してもらう、最後に使用した可能性のある人を追求するなど職場の人間関係の悪化を招く原因にもなりかねません。
3定管理ができていると、異常にすぐ気づけるだけでなく、作業員同士の負担や揉めごとの回避にもつながるでしょう。
取引先は工場や倉庫を視察する際、その企業の5Sレベルを確認していることもしばしばあります。5Sや3定が適切に実施されているかどうかは、その企業の実力を評価する要素の一つとして重要視しているためです。
取引先は、高い品質と適正なコストを継続して維持できる企業との取引を求めています。これらができていることで、取引先からの信頼も得やすくなるでしょう。
3定管理が適切に実施できていないと、さまざまな非効率が発生する可能性があります。ここでは、3定管理を実施したほうがよいケースを3つ説明します。
現場で使用する在庫や備品の整理ができていない場合は、3定管理を実施すべきです。
<在庫の場合> |
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受注後に在庫からピッキングする場合、必要なモノを速やかに探して出荷準備する必要があります。 物流の2024年問題といわれる対策として、運送会社は集荷時間の繰り上げとリードタイムの延長の施策を採っています。そのため集荷時間までにすべての出荷準備を終えていないと、取引先との配達日時の約束が守れなくなります。 |
<備品の場合> |
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切削工具などの部品を交換する場合、交換品がどこにあるかわからない、または在庫がないということが起こると、切削工具を使う仕事がその日はできなくなる可能性があります。 こういった状況は、後工程の作業も含めた遅れの発生につながり、結果として、取引先に納期で迷惑をかけることになりかねません。 |
どちらも管理が行き届いていないために、配達や納期の遅延を起こすリスクを持っています。これらの問題を解決するには、3定管理でムダを省く必要があるでしょう。
倉庫の通路をふさぐように多くのモノを乱雑に置いているケースでは、3定管理の実施がおすすめです。この状況では、必要なモノがどこに置いてあるかわからず、探し出すまでに時間を要してしまいます。
3定管理により倉庫の通路を整頓し、いつでも人が通りやすく、モノを見つけやすい状態を維持することが大切です。
作業に不慣れな人が多い環境では、3定管理を実施するとよいでしょう。たとえ定位置や定量を決めていたとしても表示がなければ、慣れない人はモノがどこにあるのかわからず、あちらこちらを探すことになります。場合によっては、時間をかけても見つけられないかもしれません。
これらの時間のムダは、定位にわかりやすい表示をつけることで防げるでしょう。
3定管理によるメリットを享受するには、作業者の習慣を定着させることが重要です。最初に作業者にしくみと効果を理解してもらい、それが作業標準として定着するように指導していきましょう。最初はなじみがなくとも、毎日のように実行することで習慣となり、いつしかそれが当たり前になります。
モノを置く場所は、わかりやすくすることが重要です。わかりやすくするには、使用頻度が高いものは取り出しやすい位置に置く、誰が見てもわかる表示をつけるといった工夫ができるでしょう。
たとえば、台車のように大きくて棚に格納できないものは、床に養生テープなどを貼って置くスペースを表示し、名前を記載しておく方法があります。また、ちりとりなど壁にフックをつけて格納する場合も、ここはちりとりをかけるフックだとわかるように表示をします。
ほかにも、置き場所をモノの形に合わせて形どる「姿置き」「形跡整頓」という方法もあります。治工具などの整頓方法の一種で、「間違った場所に置いたときにすぐに気づく」「紛失にすぐに気づく」効果があります。
置き場所を誰でもわかるようにするには、ストア番地を表示する方法も有効です。誰でも理解しやすい番地を割り振ることで、新人の多い現場でも定着しやすくなるでしょう。
ストア番地は、5-5-1-3(5筋目 - 5番目の棚 - 1段目 - 3番目)のような意味合いで数字を割り振ります。数字の順番にはルールを決めておき、誰にでも理解できるように周知させます。
3定を定着させるためには、管理者が定期的に「ルール遵守されているか」をチェックすることが大切です。現場でモノを使う頻度の高い作業者は、つい自分のやりやすい方法で行いたいと思うものです。しかし、作業者みんなが等しく作業しやすい環境を構築することが重要なため、定期的なチェックは欠かせません。
とはいえ、効率化に向けた改善活動も大切です。定期チェックを行いながら現場の声を聞き、常に改善する姿勢も忘れないようにしましょう。
3定管理や5Sに取り組んでいる企業は多くあります。ここでは、製造業2社の事例について紹介します。
3定管理を実施しているトヨタ自動車では、加えて5S「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を、現場のすみずみまで徹底した管理システムとして行っています。あらゆるムダを「付加価値を高めない各種現象や結果」と定義づけ、3定や5Sによる削減に努めています。
トヨタ自動車の徹底した管理システムは、「金太郎飴」といわれるほど従業員すべてに浸透しています。それこそが、トヨタ自動車の業績につながっているのだといえるでしょう。
ダイキン工業は5S3定を浸透させている企業の一社です。トヨタ生産方式に倣い、独自の生産方式「Production of DAIKIN System(PDS)」を実施しています。ダイキン工業はトヨタ自動車と同じく、ムダを省くことに着目しています。そのため、3定により作業の手間や在庫数などを最適化し、業績向上につなげています。
また、従業員が考案した「からくり」をラインに取り入れて、モチベーションを高める工夫もしています。5S3定定を浸透させて、現場力を高める努力を継続することで、生産効率を飛躍的に高め成長している企業です。
3定は、作業効率や生産性を高めるために重要な手法です。決められた位置にモノがあることで、前工程から後工程へのスムーズな業務の流れも可能になります。また、適正な在庫量を維持することは、キャッシュフロー正常化や顧客ニーズへの即応に寄与します。
3定管理の実施は、作業効率や生産性の向上だけでなく、取引先からの信頼獲得にもつながります。取引先が工場・倉庫見学をするときは、その企業の現場力を見ているためです。3定と5Sのレベルはその重要なチェックポイントになります。
3定はルールを構築するだけでなく、現場へ定着することでメリットを享受できます。現場の効率を高め、業績向上を目指したい場合は、3定を実施してみてください。
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