目次

  1. KYT(危険予知訓練)とは?
    1. KYTの目的は危険予知能力を高めること
    2. KYTが広がりをみせた背景
  2. KYT基礎4ラウンド法の進め方
    1. 準備
    2. どんな危険がひそんでいるか
    3. これが危険のポイントだ
    4. あなたならどうする
    5. 私たちはこうする
    6. 確認
  3. KYTを実施するメリット
    1. 感受性を鋭くする
    2. 集中力を高める
    3. 問題解決能力が向上する
    4. 安全文化の定着につながる
  4. KYTの例題
    1. 製造業における清掃シーン
    2. 医療現場における採血のシーン
  5. KYTで現場の安全性を向上させよう

 KYT(危険予知訓練)とは、作業現場に潜む危険を事前に予測し、安全対策を講じるための訓練です。

 KYTは、「危険(Kiken)」「予知(Yochi)」「トレーニング(Training)」の頭文字をとった言葉です。労働災害の防止を目的として、製造業界や鉄道業界をはじめとした、さまざまな現場で実施されています。

 KYTは、従業員一人ひとりの危機意識を高め、労働災害や事故の防止につなげることを目的としています。

 具体的には、作業前にチームで労働環境に潜む危険なポイントを洗い出し、リスクを顕在化させます。さらに、指差呼称と組み合わせて危険箇所を具体的に確認し、意識を集中させることで、事故の未然防止に効果を発揮します。

 このように、KYTは日常的な危機意識の向上と、危険の予知と対策を徹底するために重要な訓練手法です。

 KYTは、もともと住友金属工業(現:日本製鉄)で開発された手法です。その後、中央労働災害防止協会(中災防)が「問題解決4ラウンド法」と結びつけ、労働災害防止のための体系的なアプローチとして普及を進めました。

 さらに、旧国鉄で行われていた「指差呼称」と組み合わせることで、危険箇所の確認と意識集中を強化した「KYT4ラウンド法」が確立されました。

 この手法が全国的に広がり、現在では多くの企業や現場で導入され、労働災害の予防に利用されています。

 KYTの進め方は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」で紹介されています。ここでは、「KYT基礎4ラウンド法」の具体的な進め方を、項目別に説明します。

KYTとは
出典:厚生労働省|危険予知訓練(KYT)

 KYTを効果的に行うためには、まず事前準備が重要です。

 訓練では、現場で潜む危険を抽出するためのイラストシートが用意されます。このイラストは、訓練中に参加者が危険を視覚的に理解するためのもので、事前に準備しておく必要があります。

<準備するもの>
・イラストシート
・模造紙
・赤黒のマジックインキ

 また、訓練は複数人で行うため、チーム分けをした上で、進行担当のリーダーや書記などの役割を事前に割り振ります。

 さらに、全員が同じ目標に向かって訓練に取り組むために、訓練の趣旨や目的を参加者全員に共有します。準備が整ったら、イラストをチームに提示し、訓練をスタートしましょう。

 訓練の第一ステップでは、作業現場にどのような危険が潜んでいるか、イラストシートをもとに見つけ出し、模造紙に書き出します。

 この段階では、参加者全員がイラストを見て、どこに危険がひそんでいそうかを考えます。例えば、作業員が使用している機械や工具、作業環境そのものに危険がひそんでいるかもしれません。

 見つけた危険については、その発生要因や、その要因が引き起こす可能性のある事故やトラブルを具体的に想像します。この想像力が、実際の危険予測力の向上につながります。

 次に、見つけた危険の中から、特に重要なものを選び出します。

 このステップでは、危険のポイントを絞り込むことが目的です。すべての危険に対処するのは難しいため、特に緊急の対策が必要なもの、または重大な事故につながる可能性が高いものを選びます。

 この選別作業は、チームでの話し合いを通じて行いて決めます。また、危険ポイントが決まったら全員で指差呼称します。指差呼称を行う理由は、危険ポイントを明確に意識し、記憶への定着を高めるためです。

 このプロセスは、のちに行う対策立案に直結するため、集中しつつ慎重に進める必要があります。

 ここでは、絞り込んだ危険ポイントに対して、どのような対策が取れるかを考えます。

 各メンバーが「自分ならどうするか」を積極的に発言し、対策案を記入していきます。対策は1つだけでなく、複数(最低3つ)の案を出すようにします。各自の意見を集めることで、より多角的で実効性のある対策が見つかりやすくなるでしょう。

 このステップでは、予防策や防止策を具体的に考えることが重要です。例えば、「作業手順を見直す」「保護具を追加する」「作業前にチェックリストを導入する」など、実際に行動に移せる対策を挙げます。

 対策案が出そろったら、次にその中から実施する対策を絞り込みます。

 チームで話し合い、優先順位をつけて、実行可能で効果的な対策を決定しましょう。この対策は具体的な行動に落とし込んだものにすることが重要で、チーム全体の行動目標として設定します。

 行動目標が決まったら再度全員で指差呼称を行い、目標を確実に記憶に刻みます。このプロセスを通じて、具体的な行動に落とし込まれた対策が、現場で実行される保証となります。

 最後に、KYTの成果を確認します。ここでは、決定した対策や行動目標に基づいて、現場で実際に行う指差呼称の対象項目を決めます。

 決めた項目は全員で3回唱和し、意識を高めます。その後、チームワークを高めるタッチ・アンド・コールを行い、KYTを締めくくりましょう。

 確認作業は、訓練で話し合った内容を確実に実施するための重要なプロセスです。指差呼称とタッチ・アンド・コールによって、全員が行動目標を再認識し、対策を実行に移す意識が強化されます。

 このプロセスを通じて、KYTの訓練が現場で実際の安全行動として定着します。

 KYTを実施することで、大きく4つのメリットがあります。

 1.危険感受性を鋭くする
 2.集中力を高める
 3.問題解決能力が向上する
 4.安全文化の定着につながる

 それぞれについて、詳細に解説します。

 KYTの大きなメリットの1つは、従業員の感受性を鋭くする点です。KYTを通じて、作業現場における潜在的な危険を予測する能力が大幅に向上します。

 KYTでは、危険がどこに潜んでいるかを具体的にイメージし、どのような状況が問題を引き起こすのかを考えるため、実際の危険性を予知する力が磨かれます。

 結果として、従業員は日常の業務においても無意識のうちに危険を察知し、意識的にそれを回避する行動を取るようになるでしょう。

 こうした感受性の向上は、労働災害を未然に防ぐための強力な武器となり、現場全体の安全性の向上に寄与します。

 KYTには、従業員の集中力を高める効果があります。訓練を通じて、危険を正しく把握する力が備わることで、作業中のうっかりミスを防ぐ意識が強化できるでしょう。

 特に、危険箇所を認識することで、作業に対する集中力や注意力が高まります。また、KYTを通じて、自分が正しい行動をとる必要性を強く自覚するようになります。

 「自分がしっかりしなければ」という意識が全員に共有されることで、チーム全体の集中力が底上げされます。例えば、単純な作業でも「危険が潜んでいる」という認識を持てば、油断を防ぎ、結果的に事故やミスの発生を大幅に減少させることが可能です。

 こうした集中力の向上は、現場での安全管理に直結し、より高いレベルでの安全作業が実現できます。

 KYTは、従業員の問題解決能力を向上させる効果もあります。訓練の過程で意見交換を行うことで、さまざまな視点から問題を捉え、解決策を見つける力が養われるためです。

 KYTでは、「どうすれば危険を回避・防止できるか」をチーム全員で考え、それぞれの意見を持ち寄り最善の対策を見つけ出します。これにより、危険予知だけでなく、実際に危険に対処する行動を積極的に考える姿勢が身につきます。

 問題解決能力の向上は、個々の従業員だけでなく組織全体の安全管理体制を強化します。結果として、労働災害リスクの大幅な低減も期待できるでしょう。

 KYTを継続的に実施することで、安全文化が組織全体に定着するメリットもあります。

 KYTは単なる訓練ではなく、日常業務における安全意識を高めるための重要な取り組みです。繰り返し行うことで、従業員一人ひとりが安全を最優先に考える習慣が形成されます。

 安全文化が定着すると、危険が察知された際に自発的に回避行動をとれるようになるため、労働災害の発生を未然に防ぐことが期待できます。

 また、新しい従業員にも安全文化の重要性が自然に伝わりやすくなるため、組織全体での安全意識の共有も容易です。結果として、長期的に見て安全で安定した労働環境が維持され、企業全体の信頼性や持続可能性も向上します。

 KYTを実施したことがない職場では、事例を参考にした反復練習が必要です。ここでは、実際に2つの例題を用いてKYTを行ってみましょう。

【KYTの例題】製造業における清掃のシーン
【KYTの例題】製造業における清掃のシーン(デザイン:吉田咲雪)

 工場内で製造設備の大掃除が行われています。1人の作業員が機械の内部を清掃しており、イラスト右部の作業員が機械の操作パネルを操作しています。また、ゴミ箱が作業員の間に置かれています。

①どんな危険がひそんでいるか

・作業員が機械を清掃している際、機械が誤って動作する可能性がある
・清掃中に他の作業員が誤って機械を操作し、機械が動き出してしまう危険がある
・ゴミ箱の配置が悪く、作業員がつまずく危険がある

②これが危険のポイントだ

・機械が動作中に清掃を行うと、重大な事故につながる可能性が高い
・ゴミ箱により、作業員がつまずき転倒するリスクがある

③あなたならどうする

・機械の清掃を行う前に、必ず機械の電源をオフにし、ロックアウト・タグアウトを徹底する
・清掃中の標識を設置し、他の作業員が機械に触れないように注意喚起する
・ゴミ箱の設置位置を見直し、作業員の通行の妨げにならないようにする

④私たちはこうする

・機械の清掃を行う際には、必ず電源をオフにし、ロックアウト・タグアウト手順を徹底する
・清掃中であることを明確に示す標識を設置し、他の作業員が機械に触れないようにする
・ゴミ箱は、作業エリア外に配置し、つまずきの危険を回避する

【KYTの例題】医療現場における採血のシーン
【KYTの例題】医療現場における採血のシーン(デザイン:吉田咲雪)

 医療現場における採血の場面で、看護師が患者の腕から採血をしようとしています。患者は背もたれのない丸椅子に座り、看護師は立って採血の準備をしています。両者の間にはテーブルがあり、上に針や器具が置かれています。

 ①どんな危険がひそんでいるか

・患者が採血中に急に動く可能性があり、針が外れてケガをする危険がある
・採血中に患者が気分を悪くして倒れる危険がある
・針の扱いに不注意があると、看護師や他の人が針刺し事故に遭う危険がある

②これが危険のポイントだ

・患者が突然動くと、針が外れてケガをする可能性が高く、感染リスクも伴う
・採血中に患者が意識を失ったり、気分が悪くなったりすることで、二次的な事故が発生する恐れがある
・針刺し事故は感染症を引き起こす危険があるため、特に注意が必要である

③あなたならどうする

・採血前に患者にリラックスしてもらい、動かないように声掛けを行う
・採血中は患者の様子を注意深く観察し、異変があれば直ちに中止する
・使用後の針をすぐに安全な場所に廃棄し、針刺し事故を防ぐ

④私たちはこうする

・採血前に必ず患者に声掛けを行い、リラックスさせた状態で行うよう徹底する
・採血中も患者の状態を注意深く観察し、異変があればすぐに対処できるように準備しておく
・針の取り扱いには細心の注意を払い、使用後は即座に廃棄する手順を全員で確認し、実践する

 KYTは、作業現場での潜在的な危険を事前に予測し、事故を未然に防ぐための重要な訓練です。従業員の危機意識を高め、集中力や問題解決能力を向上させることで、労働災害を防止します。

  KYTは従業員の危険に対する感受性を鋭くし、職場全体に安全文化を根付かせる効果があり、製造業に限らずさまざまな業界でのリスク管理の強化に役立っています。

  この機会にKYTを取り入れて、安全で効率的な職場作りを目指しましょう。