「両利きの経営」を成功させる組織のつくり方 五つのポイントを解説
中小企業が成長を遂げるには、既存事業に軸足を置きつつ、新規事業への挑戦を模索し続ける必要があります。そんな「両利きの経営」を成功させるために、経営者にはどんな組織づくりや人材マネジメントが求められるのでしょうか。留意するべき五つのポイントについて、組織コンサルティング会社識学・シニアコンサルタントの長島史明さんが、事例を交えながら詳しく解説します。
中小企業が成長を遂げるには、既存事業に軸足を置きつつ、新規事業への挑戦を模索し続ける必要があります。そんな「両利きの経営」を成功させるために、経営者にはどんな組織づくりや人材マネジメントが求められるのでしょうか。留意するべき五つのポイントについて、組織コンサルティング会社識学・シニアコンサルタントの長島史明さんが、事例を交えながら詳しく解説します。
目次
「両利きの経営」とは、既存事業のさらなる成長と新規事業の模索を両立させる経営理論です。
米国の経営学者チャールズ・A.オライリーとマイケル・L. タッシュマンの著書「両利きの経営 『二兎を追う』戦略が未来を切り拓く」が、2019年に日本で発売されて以来、注目を集めてきました。
中小企業が変化する環境に対応しながら継続的な成長を遂げるには、常に新しい挑戦を続けなければいけません。両利きの経営は業種・業態を問わず全ての経営者が目指すべきだとも言えます。
ただ、やみくもに新規事業に手を出すようでは危険です。例えば、既存事業の業績が悪化し、その原因が市場環境ではなく組織の不具合にあるとき、新規事業に乗り出しても十中八九うまくいかないでしょう。
本記事では、「両利きの経営」を成功させるために、中小企業の経営者が組織運営で留意するべきポイントを、次の五つに分けて解説します。
ここからは、「両利きの経営」を成功させるためのポイントについて、事例なども交えながら、一つずつ説明します。
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経営者が最初にするべきは、社員全員がルールを順守しているか、指揮命令系統が整っているかを確認することです。これがなければ、社員が日々の業務で勝手な行動を取るようになり、経営者の指示が素早く現場に伝わらず、経営判断に必要な情報もなかなか上がってきません。
新規事業は特にスピード感が大切です。判断の遅れは業績の悪化に直結してしまいます。社員がルールを守り、指揮命令系統が機能するようになってはじめて、新規事業に挑戦する準備が整ったと言えます。
次のポイントは、中長期的な視点に基づく事業計画の立案になります。既存事業も新規事業も、5~10年スパンの事業計画を立てるようにしましょう。これは経営者にしかできません。
新規事業に取りかかる際は、既存事業から人を異動させる必要があります。社内のエース級が選ばれやすいでしょうが、既存事業の業績が悪化する恐れも当然あるわけです。
一時的に業績の落ち込みをよしとするのか、それとも100%を維持するのか。それは、経営者の覚悟の問題です。
注意したいのは、新規事業と既存事業で必要とされるスキルや戦略が異なる場合、エース社員が新しい環境でも結果を残せるとは限らない点です。
例えば、ルート営業主体の会社が、新しい商材の飛び込み営業を始めたとします。エース社員がそこで結果を残せるかは未知数で、全然振るわなかったとしても不思議ではありません。
それなら、こだわりを持たずに人材を配置し、PDCAを早く回す方が合理的です。
ありがちなのはエース社員に両方を見させるというもの。任せたい気持ちは分かりますが、お勧めはしません。各事業に専任の責任者を配置する方が望ましいです。
新規事業では予期せぬトラブルが頻繁に発生します。専任でなければ、社員は既存事業と新規事業の間で集中力を分散させてしまい、どちらにも十分な労力を割けないでしょう。
いずれかで結果が出なかった際、「もう片方で成果を出したのだから」という言い訳が生まれやすくなります。
新規事業では、責任者を立てずに走り出すケースをよく見かけます。これは絶対にいけません。既存事業であれ新規事業であれ、責任者を必ず決めることが鉄則です。
「みんなで協力して進めれば責任者は不要」とは聞こえがよいですが、実際には最終的な意思決定権者、すなわち責任者がいないせいで、ただ決断のスピードが遅くなっているだけです。
メンバーを奇数にし、多数決で意思決定を行う方法は、一見公平で合理的に見えるものの、それで失敗に終わったとき、「みんなで決めたから仕方がない」と納得してしまい、改善につながりません。それどころか、「だから言ったのに」と少数派の社員が後から不満を漏らすようになるでしょう。
これでは、組織としての一体感や統率力に欠け、結果的にプロジェクトが混乱する原因になります。
あるマーケティング会社が、新規事業として広告代理業を始めた際のエピソードは、責任者不在が引き起こす失敗の典型です。
この会社は、別の企業と共同出資で新会社を立ち上げ、広告代理業に乗り出しました。しかし、共同出資だからこそ責任者を立てられず、事業の方向性を定められないままずるずると時間だけが過ぎていきました。
責任の所在もあいまいなまま改善を施せず、結局プロジェクトは消滅してしまったのです。
新規事業の準備が整ったら、どのような事業を始めるべきかを決めることになります。これには正解がありません。
既存事業とのシナジーの有無は一つの判断基準ではあるものの、そこにこだわらずともよいでしょう。無関係な事業同士であれば、どちらかの市場環境が悪化しても共倒れのリスクが低くなります。
ただ、既存事業の顧客や案件が活用できるなら、新規事業が軌道に乗り始めるまでの最も大変な時期の負担を軽減できます。
当社も2021年に採用コンサルティングサービスを開始した際は、当社のマネジメントコンサルティングサービス導入企業を第一のターゲットとし、生みの苦しみを最小限に抑えながら差別化も狙いました。
ここで有効なのは、「既存顧客に対する新規事業提案・トスアップを評価する仕組みの構築」です。
経営者は例えば、既存事業担当者に「月間5件の商談を新規事業担当にトスする」といった目標を与えるのも選択肢の一つです。そして、成果に応じて報いる形にすれば、社員が集中して結果を追うようになります。
最後のポイントは管理に関するものです。新規事業については、最初は様子を見る意味でも管理の頻度は多めになるでしょう。それでも、既存事業の管理もおろそかにしてはいけないと覚えておいてください。
継続的に成長できているとしても、既存事業の管理は絶対に必要です。「両利きの経営」を志すなら、どうしても新規事業に時間も労力も費やしたくなるでしょうが、それではいけません。
今は何の問題がなくとも、未来永劫安泰とは限りません。日々の管理を通じて問題の予兆を捉え、不安の芽を素早く摘み取るべきです。
◇
以上、両利きの経営を行うにあたって、経営者が留意するべき五つのポイントについて解説しました。本記事が、中小企業のさらなる発展に役立てば幸いです。
識学シニアコンサルタント 営業部
上智大学経済学部を卒業後、株式会社オリエンタルランドに総合職として入社。経理や店舗開発に従事したのち、識学に転職。2019年12月にシニアコンサルタントに就任。
(※構成・平沢元嗣)
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