目次

  1. 型式指定制度とは 自動車の安全確保が目的
  2. 型式指定、「日本のガラパゴス化」批判は妥当か
  3. 型式指定の不正行為の原因
    1. 経営層における認識・取組不足等
    2. 組織・責任体制
    3. 日程計画・経営資源管理
    4. 人材教育
    5. 認証業務実施体制
    6. 監査・内部通報制度
  4. 型式指定の不正防止のための対策
    1. 自動車メーカーの内部統制の強化・徹底
    2. 国による監視の強化
    3. 規制の実効性向上
  5. 継続して検討すべき事項

 国交省の公式サイトに掲載された「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」のとりまとめによると、公道を走行する自動車は、道路運送車両法にもとづき、安全確保と環境保全のために、構造や装置が道路運送車両の保安基準に適合することが求められています。

 ただし、国が1台ずつ確認するのは非効率なので、国が事前に量産車の保安基準適合性と均一性を判定した上で、その型式について指定を行うことにしています。これが自動車の型式指定です。

自動車型式指定制度及び完成検査制度の概要
自動車型式指定制度及び完成検査制度の概要(国交省の公式サイトから https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/digital/dai1/siryou1.pdf)

 型式指定を取得した後、国土交通省は、道路運送車両法に基づく報告徴収と立入検査(監査)を実施し確認しています。

 さらに、国土交通省は、抜き取り調査で、路上走行試験を含む様々な使用環境での排出ガス量の確認により自動車が本来満足すべき排出ガスの浄化性能を有しているかどうかを確認しています。

 2023年から2024年にかけて豊田自動織機やダイハツ工業をきっかけに、複数の自動車メーカーによる、型式指定申請の不正事案が見つかりました。トヨタ自動車の記者会見内容などをきっかけに「日本の型式指定はガラパゴス化している」といった旨の批判がネット上で散見されました。

 一方、とりまとめによると、国際的な自動車基準の調和を図るため、日本の自動車メーカーによる開発・製造や認証手続きコストの削減を図り、国際競争力を強化するため、日本は国家間で自動車の基準調和と型式認証の相互承認を行う「1958年協定」を締結しています。

 「1958年協定」の締約国は、相互主義の原則に基づき、自動車の技術基準と認証手続きに厳密に従う必要があります。

 日本は、2024年11月末時点で、全173項目の協定規則のうち106項目を採用しており、うち乗用車に関する協定規則(43項目)はすべて採用しています。とりまとめでは「仮に日本だけがこれら技術基準や認証手続きを緩和するなど、この協定規則と異なる対応をとった場合、他国により受け入れが拒否されるおそれがあり、結果的に日本の自動車メーカーの負担が増えることとなる」と指摘しています。

 さらに、型式指定申請の不正行為が発生すれば、「1958年協定」の前提となる多国間の相互信頼が崩れ、我が国による積極的な国際調和の推進を阻害し、ひいては日本の自動車メーカーの競争力が低下する要因ともなり得るとも記しています。

 自動車メーカーの一連の不正行為では、型式指定申請だけでなく、型式指定後にも申請内容と異なるまたは保安基準不適合となる自動車やエンジンが長年にわたり製作されていたことが発覚しました。

 とりまとめは「認証業務における不正行為の未然防止につながる社内の取組が不足しており、また、事後的に社内業務や体制の不備を発見する仕組みも十分でないため不正の早期発見と是正が行われず、不正の常態化を招いたと考えられる」と厳しい意見を出しています。

 そのうえで、各自動車メーカーの不正行為に共通する要因を次のように整理しました。

・経営層が型式指定や不正リスクに対する十分な認識に基づく問題把握・解決を行っていない
・経営トップが継続的に法令遵守の必要性を発信する等の取組を行っていない
・法令遵守の方針が全社的に明示されていない

・開発、実験、認証それぞれの組織で法令適否の判断と検証を行うことができる体制となっていない
・それぞれの組織の責任が明確になっていない
・認証過程が現場任せとなっている

・十分な認証業務の期間が確保されていない
・必要に応じたスケジュールの見直しが行われず、認証業務にしわ寄せが生じる構造となっている
・認証業務のための人員や施設が不足している

・法令遵守に係る教育が不足しており、法令遵守意識が欠如している
・業務内容に合わせた教育を継続的に繰り返し実施しておらず、社内に十分浸透していない

・関係業務に係る社内規定が整備されていない
・管理職や他部署による確認体制が整備されていない

・不正行為により生じる法的及び社会的責任に関するリスクを十分に認識していないため、管理職や他部署が認証業務を行う部署に対して監視を行う
体制の構築が不十分である
・内部監査で潜在的なリスクを踏まえた調査を行っていない
・内部通報制度の利用を促進していない

 型式指定の不正防止に向けて、「自動車の型式指定に係る不正行為の防止に向けた検討会」は以下の3つの観点から対策を整理しました。

  1. 自動車メーカーの内部統制の強化・徹底
  2. 国による監視の強化
  3. 規制の実効性向上
【対策①】内部統制の強化・徹底
【対策①】内部統制の強化・徹底

 一つ目の対策は、自動車メーカー自身が不正を予防・抑止できるような仕組みを構築し、それを有効に機能させることに主眼を置いたものです。具体的には、、特に重要と考えられる事項について義務的に実施を求めるとともに、実施を推奨する事項を具体的に示すことが重要だとしています。

 義務的に実施を求める事項は、次のようなものを挙げています。

  • 認証業務に係る法令遵守を経営方針に明記
  • 認証業務全般に関して責任を有する「認証業務責任者(仮称)」の明確化
  • 申請車種のプロジェクトを管理する「プロジェクト管理者(仮称)」の明確化
  • 認証業務に係る内部統制の状況評価及び報告書作成
【対策②】国による監視の強化
【対策②】国による監視の強化

 自動車メーカー等に対し認証業務に係る内部統制の強化・徹底を動機づけるため、型式指定時及び型式指定後における国の監視の強化や、不正を行った者に対する措置を講じることが重要だと指摘しています。

 具体的な取り組みは以下の通りです。

  • 型式指定時に、自動車メーカー等における認証業務に係る内部統制に係る取組状況を確認する
  • 型式指定後に、実車による試験を行い、量産車の保安基準適合性等を監視する

 このほか、不正を行った事業者には、一定期間、型式変更(マイナーチェンジ)申請時に、変更内容以外の審査も行うといった対応もとることも盛り込んでいます。

【対策③】規制の実効性向上
【対策③】規制の実効性向上

 自動運転やカーボンニュートラルの実現等といった昨今の社会的要請に応えるための基準強化が行われており、これにより、自動車メーカー等がそれに対応するための開発・評価の負荷が増加し、国も審査・監査の負荷が増加しているため、規制の重点化・合理化に取り組むことも記載しています。

 たとえば、次のようなことを挙げています。

  • 自動車メーカー等への不正リスクに応じた軽重ある対応
  • 保安基準の適用時期の統合
  • 認証に係る手続きの簡素化及び合理化
  • 認証試験・計測機器のデジタル化の推進
  • 官民協議会の設置(国と自動車メーカー等の間での意見交換の促進)

 今回のとりまとめは、今後抜向けて、不正行為を行った企業に対し、経済的な制裁を科す課徴金制度の導入を継続検討するよう求めました。

 さらに、不正行為をした企業に対し、一定期間、型式指定申請をできなくする型式指定申請者の欠格条項措置の検討も求めています。

 これらの措置は、不正行為に対する抑止力を高める上で有効ですが、慎重な検討が必要です。