目次

  1. AARRRモデルにおけるアクイジションとは?
    1. AARRRモデルとは?
  2. アクイジションとリテンションの違い
  3. アクイジションの具体的な施策
    1. BtoBアクイジション施策
    2. BtoCアクイジション施策
  4. 新規顧客からリピーターになってもらうためのコツ
    1. アフターサポートを充実させる
    2. 定期的に顧客と接触する
    3. 次回の利用につながる仕組みで顧客の行動を促す
    4. 顧客からのフィードバックを改善につなげる
    5. コミュニティを構築する
  5. 適切なアクイジション施策で新規顧客を獲得しよう

 アクイジション(Acquisition)とは「獲得する」という意味で、マーケティングにおいては新規顧客獲得、採用においては人材獲得などのときに使われる言葉です。 特にマーケティングにおけるアクイジションは、企業の成長フレームワークの一つであるAARRR(アー)モデルを構成する一要素として、重要な役割を担っています。

 AARRRモデルは、ユーザー獲得から収益化までのプロセスを分析し、最適な成長戦略につなげるフレームワークです。製品やサービスの収益化までのプロセスを、「アクイジション(Acquisition:獲得)」→「アクティベーション(Activation:活性化)」→「リテンション(Retention:維持)」→「リファラル(Referral:紹介)」→「レベニュー(Revenue:収益化)」の5つのプロセスに分類しています。

 さまざまな商材やサービスに適用可能なモデルなので、事業に合う捉え方をし、フレームワークに当てはめて実施しましょう。

 基本的には各プロセスを以下のように考えます。

  • アクイジション(Acquisition:獲得)→新規の顧客を獲得
  • アクティベーション(Activation:活性化)→顧客が商材に価値を感じ、利用開始する
  • リテンション(Retention:維持)→既存顧客にリピート利用してもらう
  • リファラル(Referral:紹介)→既存顧客の紹介で新規顧客を獲得する
  • レベニュー(Revenue:収益化)→顧客増加で収益を上げる

 家の購入や成人式の振袖、大学入学など、主に一度のみ購入の商材の場合は、アクティベーションやリテンションの捉え方を変えることで、以下のようにモデルを活用できます。

  • アクイジション(Acquisition:獲得)→新規のタッチポイントで顧客候補を獲得
  • アクティベーション(Activation:活性化)→顧客候補との関係性をもつ
  • リテンション(Retention:維持)→顧客候補との関係性を刺激する
  • レベニュー(Revenue:収益化)→契約を獲得する
  • リファラル(Referral:紹介)→他の顧客候補を紹介してもらう
AARRRモデル
AARRRモデル(筆者作成)

 アクイジションとリテンションはどちらも顧客との関係性を築くプロセスですが、その顧客が新規か既存かという点に違いがあります。

 アクイジションでは新規の顧客とのつながりを築き、リテンションではすでにつながりのある顧客との関係性を強めます。

 顧客獲得の観点の場合、アクイジションは新規顧客獲得、リテンションはリピーター獲得と考えるとわかりやすいでしょう。想像の通り、新規顧客はリピーターより獲得が困難で、獲得コストは5倍になると言われています(1:5の法則)。

 初期の段階では間口を広げるアクイジションに重心をおきますが、事業の成長を加速する上ではアクイジション、リテンション、そしてリファラルの3面の強化がそれぞれに大切です。

 アクイジションの施策は、タッチポイント(顧客接点)の増加が重要です。

 新規顧客を獲得するためには、まず認知度を高めるためのタッチポイントを増やす必要があります。とはいえ、ただ単にタッチポイントを増やすのではなく、顧客のターゲットの選定やKPI(重要業績評価指標)など目標値を明確にした上で施策を進めることが大切です。

 取り扱う商材の性質によって最適なアクイジション施策が異なるため、ご自身の事業にあったアプローチを選択しましょう。

 また、BtoBやBtoCの取引形態を問わず一般的に活用できる施策として、広告やプレスリリースまたは検索エンジンからのWebサイトへの流入が挙げられます。

 企業間取引であるBtoBでのアクイジション施策としては、展示会、セミナー・ウェビナーの開催が挙げられます。

 Web広告からホワイトペーパーや資料ダウンロードにつなげる施策も効果的です。広告を出稿する際は、専門誌や専門サイトの記事広告など、業界特化型のメディアを活用することでターゲットに効率的にアプローチできます。

 リストを活用して電話や訪問で商談につなげることも一般的な手法で、営業代行サービスを利用する場合もあります。

 BtoBのアクイジション施策において注意すべき点は、取引規模が大きく、担当者と決裁者が異なることが多いため、意思決定に時間がかかることです。したがって、企業担当者との信頼関係を築き、決裁者向けに利用しやすい資料や情報を提供することもポイントとなります。

オフライン施策 オンライン施策 人的施策
展示会、セミナー Web広告、ウェビナー、記事広告 テレアポ、訪問営業、営業代行

 消費者への販売であるBtoCでのアクイジション施策としては、チラシの配布、ポップアップストアへの出店、イベント参加などが挙げられます。

 実店舗で地域が限定される場合はGoogleビジネスプロフィールやSNSの位置情報を活用し、地図との連携を強化しましょう。近隣地域へのチラシ配布やポスターの掲示も有効です。 Web広告を活用する場合は、SNS広告との相性がよくなります。いずれの場合も、地域や年齢、家族構成や興味関心によるターゲット設定を行い、効率化を図りましょう。

 オンラインで提供できる商材(商品・サービス)の場合は、必要な情報をまとめたLP(ランディングページ)を用意し、商材の詳細説明から申込み、購入までを完結できるようにします。 BtoCのアクイジション施策では、スピード感が重要です。必要性を感じてもらえた時に、その熱量のまま離脱なく購入や申し込みまでつなげられるように、障害となるものを除去するように努めましょう。

オフライン施策 オンライン施策
チラシ配布、ポスター掲示、ポップアップストア、イベント SNS広告、Googleビジネスプロフィール、LP

 アクイジション施策により獲得した新規顧客にリピーターとなってもらうためには、リテンション施策により顧客との関係性を維持、強化することが必要です。

 リテンション施策は、顧客との関係を維持し、再度利用してもらうことを目的としています。 顧客離れを5%改善することで、利益率が最大25%改善するという「5:25の法則」と呼ばれるマーケティング法則があります。この法則の出典は明確ではありませんが、少しの改善で大きく結果が変わるということは押さえておきましょう。 このように、顧客のリピーター化は企業の利益に大きく貢献します。

 新規顧客をリピーターにするためには、商品やサービスを販売した後のリテンション施策が肝心です。

 中でも購入後のサポートはBtoB、BtoCどちらにおいても重要な位置を占めます。

 具体的には、ソフトウェアであれば利用方法の無料講習会が開催されていたり、使い方の説明動画が用意されている場合もあります。BtoBでの機械導入の場合は設置工事や現地レクチャーなども行われます。

 また、商品の修理やメンテナンス、チャットや電話によるサポート窓口が充実していることも評価されるポイントです。売って終わりにするのではなく、その後のフォロー体制をしっかりと構築することで、商品価値以上の体験価値が得られ、リピートにつながります。

 顧客が自らアクションを起こさなくても情報が届く、プッシュ型の情報発信を積極的に活用しましょう。

 具体的には、電話、ダイレクトメール、メールマガジン、SNSだとLINEのメッセージ配信が該当します。

 顧客の自発的なアクションが必要なSNSなどのプル型の情報発信では情報を見過ごされがちなため、顧客が意識せずとも情報が届く仕組みを作ることが大切です。

 ただし、頻度が多すぎると離脱につながるため、グループごとに配信頻度を変えて、離脱率を比較するA/Bテストを実施し、適切な配信頻度を見つけましょう。

 2度目以降の接点を顧客側から持ちたくなる仕組みを構築しましょう。

 季節ごとのセール、リピート割引、クーポンやスタンプカードなど、「次も使いたい」という気持ちにつなげる仕組み作りが大切です。

 筆者が以前TOEICを受けた際には、受験して1年後に「再受験して1年の成長を確かめませんか?」といったメールが届きました。

 ただの再受験の案内だけでなく、1年での成長を見るため、という消費者心理にまで訴えてくる点が非常に工夫されています。

 一方的な情報を配信するのではなく、顧客ごとにパーソナライズされた情報を提供することで、次回の利用につながりやすくなります。

 新規顧客がリピーターになる理由、ならない理由を両方把握しておくことは、次の施策に生かすために非常に重要です。

 特に、一度の利用でやめてしまう場合、その原因が商品やサービス内容にあるのか、それとも決済手段などのシステム的な要因にあるのかは、企業側では気付きにくい重要な問題です。お客様の評価ポイントと企業側の想定が異なることもよくあります。

 そのため、SNSでのエゴサーチ(社名やサービス名での検索)、フォローアップメールやアンケートの実施、レビューの収集などを通じて、顧客の声を真摯に集め、改善点を把握しましょう。顧客の声を反映した改善をオープンにすることで、「声が届く企業」という認識が広まり、さらにフィードバックを得やすくなります。

 会員制サイトやユーザーコミュニティを構築することは、アフターフォローやサポートを通じてリピーター維持に大きく寄与します。

 一度限りの購入や利用で終わらせるのではなく、顧客が継続的に関与できるコミュニティを作りましょう。

 特にECサイトでは、ゲスト購入ではなく会員登録しての購入につなげることが重要です。ポイントやクーポンなど、魅力的な特典を用意し、会員登録を自然に誘導しましょう。

 クリエイティブツールで有名なAdobeや、オープンソースECサイトシステムのEC-CUBEではユーザーコミュニティの場が用意されており、活発な意見交換が行われています。疑問や困りごとを共有することで、同じユーザーからのアドバイスの獲得や、ソフトウェアの改善に役立っています。

 ビジネスの対象企業や取り扱い商品によっても、適切なアクイジション施策は異なります。自社の特徴やターゲットに合った施策を検討し、新規顧客を効果的に獲得しましょう。

 リテンションやリファラルのプロセスでは、まず新規顧客を獲得しないことには機能しません。アクイジションは、ビジネスの成長の第一歩です。

 まずはアクイジションのプロセスで、ターゲットや目標設定を行い、タッチポイントを増やしましょう。このプロセスを確実に行うことで、次のステージ(リテンションやリファラル)へと進めます。