エレベーターピッチ完全ガイド|成功のコツとシーン別の例文を紹介

ビジネスでは、短時間で自社の強みや提供価値を顧客や取引先に対して的確に伝えることが求められます。そのため、エレベーターピッチのスキルが不可欠です。この記事では、新規事業開発を専門とする中小企業診断士が、エレベーターピッチの基本から活用のコツ、実践的な例文まで詳しく解説します。
ビジネスでは、短時間で自社の強みや提供価値を顧客や取引先に対して的確に伝えることが求められます。そのため、エレベーターピッチのスキルが不可欠です。この記事では、新規事業開発を専門とする中小企業診断士が、エレベーターピッチの基本から活用のコツ、実践的な例文まで詳しく解説します。
目次
エレベーターピッチとは、短時間で相手にビジネスの価値を伝えるプレゼンテーション手法です。語源は、エレベーターで移動するわずかな時間(30秒〜1分)で、自社の強みや自社サービスの価値を端的に伝えることが由来とされています。
例えば、イベントや懇親会などの場では、期せずして重要人物と紹介されることがあります。その際、相手の時間が限られている場面での冗長な自己紹介は、あなたの価値を下げることになりかねません。簡潔に要点だけを落ち着いて伝えることが重要です。
エレベータピッチのスキルを身につけることで、印象に残る自己紹介ができるようになるメリットがあります。ビジネスでは第一印象が重要なため、短時間の会話でいかに相手に好印象を与えられるかが、その後の関係構築に影響します。
例えば、名刺交換の際に「〇〇をやっています」ではなく、「当社は〇〇の課題を解決する△△を提供しています」と伝えると、相手の記憶に残りやすくなります。
また、商談や交渉ごとの成功率の向上につながります。
例えば、筆者のクライアントである専門商社の経営者は、「当社の新商品は、御社の顧客が抱える〇〇の課題を解決し、御社にとっての新たな市場開拓を実現します」と端的に伝え、小規模企業に関わらず大手企業との商談を獲得し、新規取引に結び付けました。
さらには営業チームが統一されたメッセージを持つことは、社内外でのブランドイメージを一貫させることにつながったり、新規事業の社内プレゼンやプロジェクト説明に応用したりできます。
このように、エレベーターピッチを活用することで、商談やネットワーキングの場での印象を強め、ビジネスチャンスを広げられます。
効果的なエレベーターピッチには、基本的な構成があります。話す順番を工夫することで、相手にとって理解しやすく、納得感のあるピッチが可能です。
この構成に沿って話すことで、短時間でも明確に自社の価値を伝え、相手に興味を持たせることができます。
エレベーターピッチは、事前にしっかりと準備し、より相手に伝わるよう、継続的にブラッシュアップすることが重要です。ここでは、エレベーターピッチを作成する基本的な手順を紹介します。
まず、「誰に対して、何を伝えたいのか」を明確にします。例えば、取引先に向けるのかと社内に向けるのかで下記のようなポイントの違いがあります。
ターゲットに応じて、伝える内容や強調すべきポイントを調整することが重要です。
基本構成は「エレベーターピッチの基本構成」の通りですが、伝える内容を相手に合わせて整理することが重要です。
例えば、取引先向けの場合「取引先のどのような課題に対して解決策が提案できるのか」や「導入による効果はどれくらいか?」などの要素を軸に考えます。 さらに、信頼性を高める実績を提示し次のアクションにつながる問いかけなども準備しておくと効果的です。
エレベーターピッチの目的は、「短時間で端的に伝えること」です。エレベーターピッチの理想的な長さは、30秒〜1分(100〜150文字程度)です。特に、聞き手が初めて自社の事業を知るケースでは、「一瞬で理解できる」シンプルな言葉選びが重要になるため、下記のようなポイントを意識して作成してみましょう。
完成したら、実際に声に出して練習します。
声に出してみると、言いにくい表現やテンポの悪い部分を発見できます。自身で録音したものを繰り返し聞いたり、第三者に聞いてもらったりして、フィードバックをもらうのも有効です。
エレベーターピッチは、一度作成して終わりではありません。実際のビジネスシーンで試しながら、聞き手の反応を見て改善を重ねることが大切です。
エレベーターピッチは、状況に応じて進化させていくスキルだと考え、常に改善を続けましょう。
エレベータピッチ5つのステップ|筆者作成
エレベーターピッチは、シチュエーションごとに適切な表現を選ぶことが重要です。ここでは、複数の場面に応じた例文を紹介します。
場面 | ビジネスイベントや交流会で、初対面の相手と名刺交換する場面 |
目的 | 自社の事業や自分の専門性を短時間で伝え、興味を持ってもらう。次の商談や会話のきっかけを作る |
例文 | 〇〇株式会社の△△と申します。当社は、中小企業向けに業務効率化のクラウドサービスを提供しており、すでに200社以上に導入いただいています。もし業務のIT化に関心がありましたら、ぜひお話しさせてください |
ポイントは、数値を活用し、記憶に残るようインパクトのある数値を使うことです。
場面 | 商談の冒頭やビジネスイベントでの立ち話の場面 |
目的 | 相手の興味を引き、次のステップ(詳細な打ち合わせや商談)につなげる |
例文 | 当社は、製造業向けの在庫管理システムを提供しています。現在、〇〇業界でよくある在庫過多や欠品の問題を、AIを活用して最適化する仕組みを開発しています。導入企業では、平均20%のコスト削減に成功しています |
目標・課題→解決策→成果の流れをしっかりと組み立てることで、信頼性の高い構成になります。
場面 | 銀行との融資相談や投資家との面談の場面 |
目的 | 事業の成長性や収益性を端的に伝え、投資や融資の判断材料を提供する |
例文 | 私たちは、中小企業向けの資金管理SaaSを開発し、キャッシュフローの最適化を支援しています。国内の中小企業市場は約300万社あり、そのうち50%以上が資金繰りに課題を抱えています。当社のツールはすでに100社以上に導入され、リピート率は90%です。今後1年で導入企業数を3倍に拡大し、2年以内の黒字化を目指します |
ポイントは、相手の関心事(この場合は、市場規模・課題・実績・成長計画)をしっかりと示すことです。
場面 | 既存の取引先に、新サービスや新機能を提案する場面 |
目的 | 取引先の満足度を高め、追加提案や契約更新につなげる |
例文 | 現在お使いいただいている〇〇サービスですが、さらに業務効率を向上させる新機能をリリースしました。特に、〇〇業務の手間を50%削減できる点が好評です。すでに一部のクライアント様に導入いただいており、効果が出ていますので、ぜひご紹介させてください |
ポイントは、既存の取引先向けに追加提案をしつつ、価値向上・成果の数値化・他社導入事例をバランスよく盛り込んでいることです。これにより契約更新や追加提案につなげやすくなり、たとえ提案が採用されなくても取引先の課題解決に真摯に取り組んでいることが伝えられるでしょう。
場面 | 新しいプロジェクトの立ち上げ時や経営層が社員に向けてビジョンを共有する場面 |
目的 | 事業の目的や意義を伝え、社員の共感を得ることで、チームの士気を高め、協力を促す |
例文 | 今回、新規事業として〇〇プロジェクトを立ち上げました。この事業の目的は、〇〇の市場に新しい価値を提供し、当社の成長を加速させることです。すでにテストマーケティングでは良い反応を得ています。今後、チーム全員で協力し、成功に向けて取り組んでいきましょう! |
取り組み内容の意義、初期成果、そして今後の協力体制とバランスよく述べられている点がポイントです。社内の一体感や士気向上に効果が高いスピーチになっています。
場面 | 会社説明会や面接での企業紹介や優秀な人材に興味を持ってもらうための場面 |
目的 | 企業の魅力を端的に伝え、求職者の関心を引く |
例文 | 当社は、〇〇業界向けのITソリューションを提供し、業界のデジタル化を推進しています。特に、スタートアップながら〇〇社と提携し、急成長しているのが特徴です。少数精鋭の環境で、自分のスキルを最大限に活かしたい方には、最高の環境を提供できます |
ポイントは、求職者の関心事である「業界の変革性や事業性」「成長機会」や「職場環境」などの要素を端的に盛り込んでいる点です。
エレベーターピッチを効果的に伝えるためには、単に内容を準備するだけでなく、話し方や構成にも工夫が必要です。ここでは、自己紹介や商談の場面で使えるエレベーターピッチのコツを紹介します。
エレベーターピッチでは、「自分が何をしているか」よりも「聞き手にとってどんな価値があるか」を伝えることが重要です。
例えば次のようなものがNG事例です。
「弊社は、AIを活用したデータ分析ツールに特化したサービスを提供しており、業界では……技術面では……」
良い例は、下記のように聞き手にとってのメリットを提示することです。
「弊社はAIを活用したデータ分析ツールを提供しています。これにより、御社のマーケティングデータを効率的に分析し、売上向上につながる具体的な施策を提案できます」
専門用語や業界特有の言葉を多用すると、相手に伝わりにくくなります。誰にでもわかる言葉で、簡潔に説明することが大切です。
例えば次のような文は避けましょう。
「当社のソリューションは、バックオフィスのDX推進を包括的に支援するエンタープライズ向けプラットフォームであり、RPAやBPM実装を通じてオペレーションプロセスを最適化ができ、業界のリーディングエッジであると自負しています」
このように社内や特定の業界でしか通用しない言葉を使用すると、せっかくの内容が聞き手に伝わらないばかりか、自己中心的な印象を与えることにつながりかねません。
良い例は下記の通りです。
「当社のサービスは、業務のデジタル化を支援し、手作業を減らして業務効率を向上させるツールです。例えば、請求書処理を自動化し、手間とミスを削減できます」
エレベーターピッチは、30秒〜1分(100〜150文字程度)で話せるようにするのが理想です。冗長な説明を避け、重要なポイントだけをシンプルにまとめましょう。
例えば次のような文は避けましょう。
「弊社のサービスは、クライアントの売上向上を実現するために、日常業務の負担を軽減するもので、といってもゼロにするわけではなく、必要最小限を目指しています。それによって……」
このようにメッセージが長いと、聞き手は途中で興味を失ってしまいます。繰り返しになりますが、具体的かつ端的に聞き手のメリットを訴求しましょう。次の例文を参考にしてください。
「弊社のサービスは、AIが最適なSNS投稿のタイミングでターゲットに合ったコンテンツを自動送信します。そのため、最小限の運用で最大限の売上向上を支援します」
事業やサービスをただ説明するだけでなく、ストーリー仕立てにすると、聞き手の関心を引きやすくなります。
例えば次のような文は避けましょう。
「あらゆる在庫管理に課題解決には、当社のツールが最適です」
このように、誰にでも通じるメッセージは、結局誰にも刺さらないのです。次の事例を参考に、聞き手が共感を覚えるようなストーリー性を持って話しましょう。
「以前、ある小売店様が在庫管理に課題を抱えていました。売れ筋商品の欠品が頻発し、売上機会を逃していたのです。弊社の在庫最適化ツールを導入したところ、適正在庫の維持が可能となり、売上が20%向上しました」
エレベーターピッチは、一方的に話すのではなく、相手の反応を見ながら調整することが大切です。
相手の目やしぐさなどの反応を見ながら、どのようなアプローチが効果的なのかを瞬時に判断し、話す内容を調整するようにしましょう。
この記事では、エレベーターピッチの基本から、作り方・シナリオ別の例文・実践のコツまで詳しく解説しました。エレベーターピッチを磨くことで、商談の成功率を高めたり、取引先や経営層との関係構築がスムーズになったりと、ビジネスの可能性を大きく広げることにつながります。
最初から完璧なピッチを作る必要はありません。
まずは、「誰に、何を伝えるのか?」を考え、シンプルな言葉で30秒のピッチを作ってみましょう。次に実際に話してみて、相手の反応を見ながら少しずつ改善を加えていくと、より効果的なエレベーターピッチへと磨き上げられます。
エレベーターピッチは、あなたのビジネスを前進させる強力な武器になります。今すぐ実践し、あなたの言葉で新たなチャンスを掴み取りましょう。
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