目次

  1. トラック輸送に偏る物流
  2. 物流の2024年問題とは
  3. 2030年までを物流革新の「集中改革期間」と位置付け
    1. 労働力不足対策と就業構造改善
    2. 物流DXの推進
    3. モーダルシフトの推進

 国交省が公表している2025年版交通政策白書によると、国内貨物輸送の現状を見てみましょう。2023年度の国内貨物輸送量で、営業用と自家用を合わせたトラックが91.7%と圧倒的に高いシェアを占めています。

 内航海運が7.4%、鉄道が0.9%、航空が0.02%となっており、トラック輸送への依存度の高さが日本の国内物流の特徴です。トラック輸送が高い分担率を担っている背景には、ドア・ツー・ドア輸送の利便性、時間を選ばない柔軟なサービスによる幅広い物流ニーズへの対応、そして船舶、鉄道、航空による長距離輸送の末端輸送の大部分をトラックが担っていることが挙げられます。

2025年版交通政策白書の概要
2025年版交通政策白書の概要(交通の動向)

 しかし、物流を支える「担い手」、特にトラック運転手の不足が課題となっています。

 自動車運送事業は、中高年層の男性に依存しており、平均年齢は全産業の平均より高く、女性の比率は約5%以下にとどまっています。また、全産業の平均と比べ、労働時間は長く、年間所得額は低いという厳しい労働環境があります。

 こうした状況が若年層や女性から敬遠されてきた要因であり、経営者側でも戦略的なリクルート活動や労働環境改善への対応が十分ではなかったと白書は指摘しています。

 近年、産業全体で就業者数が増加する中で、自動車運送事業は、バス・トラック等の自動車運転者の労働需給がひっ迫しているにもかかわらず、就業者数はほぼ横ばいとなっています。

 物流は国民生活・経済を支える社会インフラである一方で、トラック運送業は、全産業と比較して、長時間労働・低賃金の傾向にあり、有効求人倍率が高く、担い手不足が課題となっています。

 担い手不足解消のためには、荷待ち時間の削減や荷役作業の効率化、適正運賃の収受などにより、労働時間や賃金等の労働条件を改善することが急務となっています。

 2018年に成立した働き方改革関連法に基づき、2024年4月からトラック運転手らの時間外労働に年960時間の上限が適用されるようになりました。労働時間が短くなることで輸送能力が不足する可能性があり、「物流の2024年問題」と言われています。2024年にトラック輸送能力が14%不足すると言われてきました。

 この「2024年問題」について、2025年5月に公表した交通政策白書は「現時点では懸念された物流の深刻な停滞は生じていないところであるが、この問題は年々深刻化する構造的な課題でもあり、引き続き取組を進める必要がある」と述べています。

 こうまとめている背景には、物流の構造的な人手不足が解決しておらず、「2030年にはトラック運送能力が34%不足する可能性がある」という問題は積み残されたままとなっていることがあります。

 そこで、政府は、輸送力不足が年々深刻化する2030年までの期間を物流革新の「集中改革期間」と位置付け、物流全体の適正化や生産性向上、自動運転等の抜本的なイノベーションに取り組むと掲げています。具体的には以下の通りです。

トラック運送業界の課題に対応するため、2024年11月に改組されたトラック・物流Gメンの活動により、荷主・元請事業者等の監視体制を強化し、商慣行の見直しも含めた取引環境の適正化を進めています。ドライバーの賃金低下要因とされる多重取引構造の是正に向けた検討会も設置されました。

 荷主と物流事業者が連携した共同輸配送や中継輸送の取り組みも、「物流総合効率化法」に基づく補助制度を活用しながら推進します。

 人材を確保することが困難な状況にある交通事業における労働者不足に対応するため、2024年3月に自動車運送業分野鉄道分野を特定技能制度の対象分野に追加しました。外国人材の早期受入れ開始に向け、分野別協議会の設置や技能評価試験などを進めつつ、物流倉庫分野についても対象分野に新たに追加すべく調整中だといいます。

 新たな物流形態として、道路空間を活用した「自動物流道路」の社会実装に向けた準備が進んでいます。2027年度までの社会実験の実施、2030年代半ばまでの第1期区間での運用開始等に向け、現在は事業スキーム・社会実験の実施方針などを作っています。

 また、サプライチェーン全体の輸送効率化を推進するため、引き続き、関係事業者が連携したAI、IoT等の新技術の活用について実証を実施し、物流分野における機械化・デジタル化を進めます。

 さらに、物流標準化実現を推進するため、標準仕様パレットの導入に係る設備改修や、標準仕様パレットの効果的な活用や、物流情報の標準形式を定めた「物流情報標準ガイドライン」を活用した共同輸配送を支援します。

 トラックドライバー不足に対応するため、陸・海・空のあらゆる輸送を総動員した「新たなモーダルシフト(新モーダルシフト)」も始まっています。従来の鉄道・内航海運に加え、ダブル連結トラック、自動運転トラック、航空貨物輸送などの選択肢も広がっています。

 特に、鉄道(コンテナ貨物)、内航(フェリー・RORO船等)については、今後10年程度で輸送量・輸送分担率を倍増させることを目指しており、大型コンテナ導入等に係る支援が行われています。

 自動運航船の本格的な商用運航の実現にも動きだしています。2024年6月に立ち上げた「自動運航船検討会」を通じて国内制度の検討・整備を進めるとともに、自動運航技術の進展に対応した国際ルールの策定を主導することにより、2030年頃までの本格的な自動運航船の商用運航の実現を目指すとしています。

 過疎地域等における物流網の維持には、ドローン物流の環境整備にも力を入れます。

 具体的に国交省は、ドローンの高度かつ高密度な運航を実現するためのドローンの運航管理システム(UTM:UAS Traffic Management)の段階的導入や多数機同時運航の普及拡大に向けた取組、飛行許可・承認の審査手続の迅速化等の環境整備を進めるとしています。

 地域の物流網の維持・確保を目的としたドローンのラストワンマイル配送における配送拠点整備の支援をするとともに、過疎地域等における物流網の維持や買物における不便を解消するなどの改善のための配送サービスの事業化に向けた実証を続け、「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」の普及により、ドローン物流の社会実装を進める予定です。