目次

  1. 多様化する中途採用 メリット・デメリットを調査
  2. 企業の採用経路利用の実態 二強と多様化
    1. 業種
    2. 従業員規模
    3. 設立期間
    4. 本社所在地
    5. 採用費用
  3. 採用経路で成果はどう変わる?
    1. 管理職・高度専門職は職業紹介が高評価
    2. 総合職は職業紹介やスカウトが高評価
    3. 現場職は人材派遣が高評価
  4. いまの採用経路は自社の戦略に合っていますか?

 雇用動向調査によると2010 年以降、入職者に占めるハローワークの割合は低下傾向(1991年:16%→2010年:26.2%→2022年:18.2%)にある一方、民間職業紹介事業所の割合は上昇傾向(2000年:0.9%→2022年:5.9%)となっています。

 ただし、厚労省の資料に民間事業者とハローワークの役割には大きな違いがあり、民間事業者は、在職者、専門的なホワイトカラー等の職業紹介で強みを発揮しているといいます。

ハローワークと民間職業紹介の違い
ハローワークと民間職業紹介の違い(厚労省の資料から https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000105360.pdf)

 厚労省の公式サイトによると、企業における採用経路の選択動向等に関する調査は、2024年度厚生労働省委託事業で、企業が中途採用・経験者採用においてどのような採用経路を利用し、その効果や戦略、そして各経路がどのような人材タイプに有効であるかをアンケートとヒアリングで調べました。

 アンケート調査は、企業が人材募集手段をどのように使い分けているか、そのメリット・デメリット、過去からの変化などを明らかにする目的で、1万社のうち1270社から有効回答を得ました。有効回収率は12.7%だったため、結果の解釈には一定の留保が必要です。

 ヒアリング調査は、民間求人サイトの運営会社15社を対象に、求人企業が媒体を選択する理由や近年の求人動向、事業者のポジショニング戦略を深掘りしました。

 企業の採用経路はおもに以下の6つがあります。

  1. ハローワーク
  2. 縁故採用
  3. 人材派遣
  4. 求人情報誌・求人サイト
  5. 職業紹介
  6. スカウトサービス

 中途採用・経験者採用を実施している企業全体を見ると、「求人情報誌・求人サイト」が73.8%、「ハローワーク」が73.4%と、多くの企業に利用されています。これに「縁故採用」が50.6%、「人材派遣」が47.3%で続き、「職業紹介」が38.1%、「スカウトサービス」が32.5%と続く構造が見て取れます。

 多くの企業が複数の採用経路を組み合わせて利用しており、全体としてよく見られる戦略パターンは、「6つの採用経路すべてを使う」または「ハローワーク+求人情報誌・求人サイト」、あるいは「ハローワークのみ」といったものです。ただし、企業の属性によって多少の差があります。

 業種を問わずハローワークと求人情報誌・求人サイトの利用率が高いという点は共通していますが、特にハローワークは「医療、福祉業」で高く、求人情報誌・求人サイトは「運輸業・郵便業」で高い傾向が見られます。

 ハローワークは規模が小さい企業ほど利用率が増加し、それ以外の5つの採用経路は規模が大きくなるにつれて利用率が増加する傾向にあります。これは、企業規模が大きいほど多様な採用チャネルを活用するリソースやニーズがあることを示唆しています。

 設立後の期間が長くなるほど、すべての採用経路の利用率が高くなる傾向が見られます。企業の歴史や規模が、採用活動の広がりに関係していると考えられます。

 三大都市圏(首都圏・関西圏・中京圏)では「求人情報誌・求人サイト」が最も利用されている一方、地方中枢都市圏やそれ以外の地域では「ハローワーク」の利用率が最も高いという違いがあります。地方では地域に根差したハローワークの存在感が大きいと言えるでしょう。三大都市圏以外では、人材派遣、職業紹介、スカウトサービスの利用率が低い傾向も見られます。

 1人を採用にかける費用が低い企業ほどハローワークの利用率が高く、費用が高くなるにつれてハローワーク以外の5つの経路の利用率が増加する傾向が見られます。これは、費用対効果を重視する採用においてはハローワークが選ばれやすく、コストをかけてでも特定のターゲット層にアプローチしたい場合は有料サービスが活用されることを示唆しています。

 企業がそれぞれの採用経路に対して感じている効果は様々です。

 ハローワークと縁故採用は「費用の安さ」、人材派遣は「採用に至るまでのスピード」、求人情報誌・求人サイトは「求職者からの応募数」、そして職業紹介とスカウトサービスは「求める人材に対するマッチングの的確性」に効果を感じている企業が多いです。

 次に、人材タイプ別に採用経路の「事前評価」(どのような人材が採用できると思ってその経路を選んだか)と「事後評価」(実際にどの程度採用できたか)を見てみましょう。

 「管理職」および「高度専門職」は、職業紹介が事前評価・事後評価ともに特に高いパフォーマンスを示しています。即戦力として活躍できる管理職については「縁故採用」も事後評価が高い結果となりました。

 経営幹部候補や特定の高い専門性を持つ人材の採用には、人材紹介会社による専門的なマッチングが有効であると言えるでしょう。スカウトサービスは管理職の事前評価が高いです。

 「総合職」は、職業紹介やスカウトサービスが事前評価・事後評価ともに高い傾向が見られます。総合職は、幅広い業務経験や将来のポテンシャルが重視される人材タイプであり、ダイレクトアプローチや個別の紹介が有効な場合があります。求人情報誌・求人サイトも総合職の事後評価が高いです。

 「現業職」については、人材派遣が事前評価・事後評価ともに最も高く、縁故採用やハローワーク、求人情報誌・求人サイトも事後評価が高い傾向が見られます。特定の業務領域で定型的・補助的な業務を担当する現業職の採用には、即戦力を供給する人材派遣や、地域に密着したハローワーク、信頼できる縁故採用などが有効であることがわかります。

 調査結果によると、採用に悩む企業が取るべき戦略はまず、自社がどのような人材(人材タイプ、経験、スキル、年収帯など)を必要としているのかを明確に定義することが出発点となります。その上で、各採用経路の特性やパフォーマンスを理解し、目的に応じた最適な経路を選択・組み合わせる必要があります。

 コスト効率を重視し、広く人材を募集したい場合は、ハローワークや求人情報誌・求人サイトが引き続き有効な選択肢となります。特に地方や中小企業にとっては今後も重要なチャネルになるでしょう。

 特定のスキルや経験を持つ即戦力、あるいは管理職や高度専門職を採用したい場合は、職業紹介やスカウトサービスの活用が有効です。これらの経路は「マッチングの的確性」に強みがあり、費用は高めでも求める人材に出会える可能性が高まります。事業者のポジショニング戦略(ハイクラス、準ハイクラス、特化型など)を理解し、自社のニーズに合ったサービスを選ぶことが成功の鍵となります。

 現業職など、特定の定型業務を担う人材を迅速に確保したい場合は、人材派遣が「採用スピード」の面で効果を発揮し、採用成功度も高い傾向にあります。このほか、縁故採用は費用の安さだけでなく、特に現業職において高い事後評価が得られています。社員からの紹介は、信頼できる人材確保の有効な手段となり得ます。

 多くの企業、特に規模が大きい企業や設立期間が長い企業では、複数の採用経路を組み合わせた戦略が取られています。これは、多様な人材ニーズに対応するため、あるいは様々な求職者層にアプローチするために有効な戦略と言えるでしょう。

 しかし、闇雲に経路を増やすのではなく、それぞれの経路でどのような人材をターゲットとし、どのような効果を期待するのかを明確にした上で、戦略的に組み合わせることが重要です。

 自社の求める人材タイプ、期待する効果、そして予算などを考慮し、各採用経路の特性や得意とする人材タイプを理解した上で、最適な経路を戦略的に選択・組み合わせて活用しましょう。