目次

  1. ビザ・ワールドワイドと日本のクレジットカード市場
  2. 優遇レートの適用条件変更
  3. 独占禁止法上の懸念とその影響
  4. 競争回復のための確約計画

 まず、ビザ・ワールドワイドの概要から紹介します。ビザ・ワールドワイドは、シンガポール共和国に本社を置く企業であり、日本を含むアジア太平洋地域のVisa事業における基幹拠点です。

 日本のクレジットカード事業者等とは、Visaの商標使用許諾を含むライセンス契約を締結しており、日本におけるクレジットカード取扱高におけるVisaカードのシェアは1位となっています。

 つぎにクレジットカード決済について説明します。

Visaカードの決済の仕組み
Visaカードの決済の仕組み

 消費者が加盟店でVisaカードを利用する際、原則としてオーソリゼーション(利用可否の確認手続き)が行われます。このオーソリゼーションは、主に取引処理ネットワークを通じて、加盟店からアクワイアラ(加盟店に決済環境を提供する事業者)を経由してイシュア(消費者にカードを発行する事業者)へと実施されます。

 Visaカード決済のオーソリゼーションに利用される取引処理ネットワークには、ビザ・ワールドワイドが提供するもののほか、ビザ・ワールドワイド以外の事業者が提供するものがあります。

 イシュアとアクワイアラの間で発生する手数料は「インターチェンジフィー」と呼ばれ、ビザ・ワールドワイドはこれの標準料率を設定しています。さらに、取引の業種区分ごとに、優遇レートと呼ばれる低い料率も設定しています。

 今回、独占禁止法違反が疑われたのは、この優遇レートの適用条件に関するビザ・ワールドワイドの行為です。

 かつて、特定の業種区分の取引において、売上データが購入日から一定の日数以内に送信された場合、またはオーソリゼーションが行われた日から一定の日数以内に売上データが送信された場合のいずれかであれば、優遇レートが適用されていました。

 このうち、オーソリゼーションが行われた日については、ビザ・ワールドワイドが提供する取引処理ネットワークにより生成される取引識別子に基づいて判定されていました。

 しかし、2018年2月に、ビザ・ワールドワイドはクレジットカード事業者等に対し、この条件を変更する旨を通知しました。2021年11月以降、優遇レートの適用を、ビザ・ワールドワイド自身のネットワークで生成される取引識別子に事実上限定し、それ以外の事業者が提供する取引処理ネットワークを利用する場合は、優遇レートが利用できない状況となりました。

 公取委によると、ビザ・ワールドワイドの行為は、ビザ・ワールドワイド以外の取引処理ネットワーク提供事業者をクレジットカード事業者との取引から排除し、またはその取引機会を減少させるおそれが生じ得ると判断しました。

 実際に、ビザ・ワールドワイド以外の事業者が提供するネットワークから、ビザ・ワールドワイドが提供するネットワークへと利用を切り替えたクレジットカード事業者も存在したといいます。

 そのため、独占禁止法上、不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引)にあたる疑いがあるといいます。これは、市場で有力な事業者が、取引先に対し、自己の競争者との取引等を制限する条件を付けて取引を行うことで、新規参入者や既存の競争者が排除されたり、取引機会が減少したりするおそれが生じる場合に問題となるものです。

 ビザ・ワールドワイドは、独占禁止法の規定に基づき、違反被疑行為を排除するために必要な措置の実施に関する確約計画を公取委に申請しました。公取委は、確約計画を認定しました。

 この対応を確約手続といい、独占禁止法違反の疑いがある行為について,公正取引委員会と事業者との間の合意により自主的に解決する仕組みです。

 この確約計画には、以下の措置が盛り込まれています。

• 優遇レートの適用条件の選択肢維持と実質的同等性の確保: 特定の業種区分の取引において、購入日基準とオーソリゼーション日基準の双方の優遇レートを引き続き利用可能とし、それぞれの料率と適用条件の実質的な同等性を確保・維持すること
• 上記の措置を適用開始日から5年間実施すること
• これらの措置を講じ、5年間実施することについて取締役会で決議すること
• 関係者への通知・周知
• 独占禁止法遵守体制の強化
• 第三者による監視
• 公取委への定期報告