温かみのある飛沫防止パネルフレーム「隠れた資産」が生んだヒット商品
島根県のヒノキやスギといった国産木材の天然乾燥を製材している「石見林業」は4月以降のコロナ禍で受注が伸び悩んでいました。しかし、新しい生活様式が求められるなかで自社の「隠れた資産」を活用した温かみのある新商品を紹介します。
島根県のヒノキやスギといった国産木材の天然乾燥を製材している「石見林業」は4月以降のコロナ禍で受注が伸び悩んでいました。しかし、新しい生活様式が求められるなかで自社の「隠れた資産」を活用した温かみのある新商品を紹介します。
邑南町しごとづくりセンター(おおなんビズ)に売り上げアップに向けた新たなアイデアを求め相談に訪れた石見林業の横山一さんと靖紘さんの兄弟がいました。
石見林業は島根県邑南町にある国産ヒノキの天然乾燥を専門にする製材所で、これまで工務店に天然乾燥させた製材を工務店に出荷してきました。話を伺うと、石見産業が製材している国産ヒノキやスギの天然乾燥の製材は人工乾燥に比べ、乾燥には時間がかかるものの、色つやがよく、香りが引き立つ強みのあることがわかりました。
そこで製材だけでない、新たな売り上げの鉱脈を探し当てるべく、2019年には天然乾燥の強みを活かした飲食店向けの業務用オーダーメイドまな板を開発し、町外からも受注を獲得。2020年からは本格的に町外の営業活動を始めようとしていました。
ところが、2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルスにより、飲食店向けの受注は見込めなくなりました。さらに石見林業の本業である工務店からの製材の受注が、新築住宅の建設延期で減りました。
そこで、売り上げアップのために次なる一手が求められていました。
このとき、おおなんビズでは、マスク着用、換気の徹底、相談前後のアルコール消毒といった対策だけでなく、飛沫感染防止のためにテーブル上にアクリルパネルを設置しており、当初はアクリルパネルを100円ショップで購入したブックスタンドで固定していました。
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すると、相談に来られた石見林業のご兄弟が、建築用の製材に加工したときに出た天然乾燥ヒノキの端材を使って、木製のアクリルパネルのフレームを試作品として提供頂きました。
使ってみると、無機質なアクリルパネルが、ヒノキに印字された「強みを見つけるアドバイザー」といった文言とともに、木のぬくもりを感じられる温かみのあるものに早変わり。
相談時の飛沫感染を防止するという機能的な面だけでなく、天然乾燥ヒノキが気持ちをリラックスさせてくれる情緒的な面でも価値を実感できました。当時、特別定額給付金のためのマイナンバーカードの申請など、窓口業務で行列ができ、長時間待たされたとのニュースが盛んに放映されていました。そこで、木製パネルフレームは、対応者にストレスがかかり、感染に気を遣う窓口業務の場面で需要があるのではと考えました。
おおなんビズとの相談で「印字ができて、アクリルパネルを用意するだけでお手軽に設置可能、さらにヒノキの香りで対面業務を心穏やかに」といった特徴と利用場面を明確にして、「ヒノキほのかに香る飛沫防止パネルフレーム」として新聞・メディアにプレスリリースを送ったところ、新聞等へのメディア掲載につながりました。
これをきっかけに、対面業務が必要とされる町役場や県外の鉄道駅の窓口からの受注だけでなく、町議会の議場用の特注の大型パネルフレームや、地元の県立高校である矢上(やかみ)高校の食堂、福祉施設からの依頼が舞い込みました。
「地元のホームセンターで既にアクリルパネルを購入してしまった」「机のサイズに合わせて特注サイズを作ってほしい」などの個別の要望がありましたが、もともとの製材業での迅速な対応だけでなく「オーダーメイドまな板」の販売で顧客の要望に柔軟に応じてきた経験が活きました。
こうして、生活の様々な場面で活用される新商品となった木製の飛沫防止パネルフレームは、2020年8月末時点で約100セットの受注を獲得しました。
SDGsが声高に叫ばれるなか、野菜の切れ端で出汁を取る「ベジブロス」で食品ロスを削減するなど、身近な生活においても「不要」と思っていたものを活用し、新たな価値を生むヒントは転がっています。今回の飛沫防止パネルフレームも、もともとは二束三文と考えられがちな木材の端材という「隠れた資産」に着目し、活用の道を考えることで、新たな生活様式に必要とされる新商品へと生まれ変わりました。
自社に眠っている「宝物」に目を向けて、新しい生活様式を想像し、お金をかけずに商品を開発していく。その積み重ねの先に、売り上げアップの活路が待っているかもしれません。
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