販売苦戦の新ジャンル米が売り上げ5倍 消費者に響くストーリー性
秋田県の米穀集荷会社が創業130年で初の消費者向けの商品として、白米と玄米を混ぜた新ジャンルのお米「ハパライス」の販売を始めました。慣れない消費者向けマーケティングを支援したのが、中小企業相談所の湯沢市ビジネス支援センターです。商品の特徴や市場のニーズ、そして開発した本人の物語を「編集」したことで売り上げ拡大につなげました。
秋田県の米穀集荷会社が創業130年で初の消費者向けの商品として、白米と玄米を混ぜた新ジャンルのお米「ハパライス」の販売を始めました。慣れない消費者向けマーケティングを支援したのが、中小企業相談所の湯沢市ビジネス支援センターです。商品の特徴や市場のニーズ、そして開発した本人の物語を「編集」したことで売り上げ拡大につなげました。
秋田県内でも有数の米どころとして知られる県南部の湯沢市。明治時代から続く創業130年の「鈴木又五郎商店」は、農家から米を集荷して保管する作業が主力事業です。しかし、近年は高齢化による農家の廃業も多く、新しい事業分野への挑戦も迫られていました。
そんななか、7代目の鈴木アヒナ麻由さんが2015年に米国ハワイから帰国しました。イギリスへの留学を経てハワイに移住し、現地で整体の国家資格を取得してセラピストとして活動するなか、ハワイ出身の米国人と結婚し、家業を継ぐために夫とともに、地元湯沢に戻ってきました。
米穀集荷業者の家に生まれながら、海外生活で日本のお米とあまり縁のない生活をしてきました。帰国後は、湯沢米商で女性初となる秋田県農産物検査員や、米ソムリエなどの資格を取得するなど、精力的に活動してきました。
鈴木さんは「お米は大変だし儲からないので継がせられない」という農家の声を耳にし、米自体に付加価値を持たせて高く売れるような環境をつくることで、農家の収益を少しでも多くしたいという思いが、「自社商品開発への原動力につながった」と当時を振り返ります。
創業130年を迎えた2019年。鈴木又五郎商店の歴史で初めてとなる消費者向けの商品として鈴木さんが選んだのは、玄米に白米をブレンドした「白米感覚で気軽に炊ける健康食」でした。鈴木さんが暮らしていたハワイの言葉で「ミックス」を意味する「ハパ」を商品名の冠にした「ハパライス」という商品は、日本の米市場としてはまだなかった新ジャンルの商品となりました。
しかし、小売りという消費者へ直接販売するスタイルは、鈴木又五郎商店として初めての挑戦です。商品の販売を始めたものの「どうやって売っていったらいいのか」というところからで、販売は暗中模索でした。
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通販サイトを立ち上げて販売してみたものの、売れ行きはいまひとつで、ハパライスの販売開始から数か月が経過した2020年1月、開設したばかりの湯沢市ビジネス支援センターに訪れました。
支援センター長である筆者が鈴木さんと話していて感じたのは、商品が市場のニーズに合致しているのに、それが上手く消費者に伝わっていない点でした。食物繊維を多く含む玄米は“痩せる炭水化物”として注目が高まる一方、「匂いと食感が苦手」という消費者も多くいます。
調べてみると、中には食感を白米に近づけるため、自宅で玄米と白米を混ぜて炊いたものの、炊飯時間が双方で異なるため、結局は均一の食感に炊けずに「美味しく炊けなかった」という声がネット上で数多くありました。
市場から求められているのに商品としては存在しない理由は、こうした炊飯時間の差も商品化のネックになっているようで、これをクリアしたのが、鈴木又五郎商店の長年培ってきたノウハウでした。白米と玄米を約3対2の割合で配合したり、米の粒の大きさを工夫したりして「白米感覚で炊ける」を実現しています。
こうした製品化に至るまでのストーリーや市場のニーズが商品から伝わっていませんでした。逆に消費者に正確に伝われば、消費者の購買意欲に応じておのずと売れていくと筆者は確信しました。
湯沢市ビジネス支援センターが最終的に選んだのは、こうしたストーリーを簡潔に、そして明確に消費者に伝えてくれるメディアという媒体を通じての情報発信でした。筆者はもともと新聞社で記者として勤務していた経験から、鈴木又五郎商店の商品のようにストーリー性が十分あるのにそれが上手く発信できていない事業者を多く見てきました。
一方、近年は話題性だけで露出する事業者も多く、肝心の商品に説得力がないというケースもあります。その点「ハパライス」は、商品の話題性に加え、湯沢市周辺ではまだ珍しい鈴木さん本人の経歴。そして開発に裏打ちされた技術やノウハウなど、素材としては「満点」の商品でした。
「市場にありそうでなかった商品」というキャッチフレーズで、商品の説明に加え、鈴木さんの経歴にもスポットを当て、マスメディア向けに一枚のプレスリリースを「編集」してまとめ上げました。
予想は的中し、地元新聞のほかテレビ局では特集が組まれるなど、鈴木さん本人の人柄との相乗効果で商品が露出していきました。商品の認知度が上がるとともに、商品自体に販売力がつき、それに鈴木さん自身の経歴や「お米で世の中を変えたい」という明確なメッセージも手伝って、大手百貨店の食品コーナーにも陳列されたり、自社のウェブサイトでの販売数も増えたりし、当初に比べるとハパライスの売り上げは数か月間という短期間で約5倍に伸びました。
メディアへ登場してから「自信がついた」と語る鈴木さんは、すでに新たな商品への開発も手掛けています。販路を拡大したハパライスが次に狙うのは、近年市場が急速に拡大している包装米飯(レトルト米)の分野です。ハパライスを、近年注目されている乳酸菌を入れて炊くという、こちらも「米穀市場で初めての健康食」を目指しています。販路の拡大に向けて、顧客層の設定や販売ターゲットの絞り込み、商品のコンセプトづくりなど、現在も鈴木さんは湯沢市ビジネス支援センターを訪れています。
湯沢市ビジネス支援センターでは、訪れた企業にあった商品の展開方法やプロモーション方法について、対話を通してそのヒントを探り、売り上げの拡大につながる具体的な手法の提案やサポートをこれからもしていきます。
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