SNSに特別なスキルや勉強も要らない

――中小企業の中には、「SNSを使った発信に取り組みたいが、社員数が少なく人材がいない」といった悩みを聞きます。

 SNS発信を「ソーシャルメディアマーケティング」「特殊なコミュニケーション」と捉えるから、「人材がいない」「育てないといけない」という考え方になるのだと思います。

 電話に電話番号、手紙に住所があるように、TwitterやFacebookならそれがIDです。もちろんコールセンターにはプロがいますが、普通の人も電話したり手紙を送ったりしますよね。SNSも同じです。

 アカウントを運用するのが得意な人も当然いますが、メールを書くのと同じように、みんなできるはずなんです。SNSは、普通の人が普通に使うコミュニケーションツールです。

――著書『SNSの教科書』に「リアルの延長線上にデジタルのコミュニケーションがある」と書かれていましたね。

 日本では、匿名掲示板がネットコミュニケーションのシンボルになり、シニアや既得権層の間で「ネットコミュニケーションは一部のネットユーザーのもの」という意識が根強く残っています。だから「分かる人がやればいい」「若い人が担当者になって覚えて」となってしまいます。

 お客さんが電話で注文すれば電話で対応するように、メールやECサイトでコミュニケーションがあれば、そちらで対応していくだけです。

徳力さんのnote(https://note.com/tokuriki)。ニュースなど気になったことをメモする感覚で更新しているそうです
徳力さんのnote(https://note.com/tokuriki)。ニュースなど気になったことをメモする感覚で更新しているそうです

コロナで大きく変わったコミュニケーション

――確かにネットでのコミュニケーションは当たり前になってきました。

 コロナ以前、日本はリアルがすごく強い国でした。人口密度が高く、お客さんはみんな店に来る。国土の広いアメリカとは違って、アナログなスタイルのままでもやってこられたと思います。

 しかしコロナによって、ネットを使っていない人の生活は激変したでしょう。いい意味でも悪い意味でも「使わなくてもよかった」ものが、使わないデメリットの方が大きく見えるようになってきたんですね。

 現在も、デジタルのコミュニケーションがなくてもビジネスとして問題がないなら、中小企業でも無理にSNSを使う必要はないでしょう。ただ、今のうちにデジタルコミュニケーションを覚えておいた方が損はしないんじゃないかとも思います。

個人名+企業名のアカウント

――『SNSの教科書』では主に、ビジネスパーソンに向けたSNSの活用についてふれていました。個人アカウントと企業アカウントの違いはありますか?

 これまで、組織の代表として話すのは社長か広報の人で、誰か個人が会社の看板を背負って話すことはほとんどありませんでしたよね。

 SNSは本質的には個人のツールなので、僕はTwitterなどの「企業アカウント」も過渡期の現象だと思っています。

 Facebookには「ページ」という機能があるので「組織」という考え方がまだ残っていますが、Twitterは企業アカウントも「個人」の扱いです。個人間のサービスに企業がお邪魔しようとすると、SNSの「中の人」を軸にして、人間っぽくならざるをえないというのが今起こっていることだと思います。ZOZOのアカウントよりも、創業者の前澤友作さんの方がフォロワーが多いように、SNSは基本的に人間と人間のコミュニケーションプラットフォームなんです。

徳力さんのTwitter(https://twitter.com/tokuriki)。noteの勉強会でも「Twitterを頑張りましょう」と伝えているそうです

 ブランドや会社名でアカウントをつくり、組織の理論のまま、ただ会社のお知らせをしていったとしても、人としてコミュニケーションをしていないので人気が出ません。だから10年ほど前に起こったのが、だじゃれを言ったり、キャラになりきってみたりする「軟式アカウント」の発生でした。最終的には、「中の人」の可視化が進んで、誰がやっているか、担当しているのか、なんとなく分かるようになってきました。

 担当者が「中の人」になってコミュニケーションすることもありはありですが、大変だし、無理があるのではと思っています。

――自分の名前と会社名をあわせて発信していく、といったことが増えていくのでしょうか。

 特にBtoB系の企業は多くの分野やサービスをカバーしていて、その企業の全ての情報がほしい人はいませんよね。AIやビッグデータなど、ある分野に詳しい専門家の情報がほしいのではないでしょうか。海外では、実名に会社名をつけたアカウント運用がかなり前から起こっています。この会社のAIの情報がほしかったら、この人をフォローする、といった流れです。

 企業で働く人すべてがアカウントを持って発信することはありえないと思いますが、今後はもっと多くの人が個人でSNSを発信するのがいいのではないでしょうか。

投資対効果の高いSNS運用

――中小企業がSNS活用を始めるときは、どんなことを考えたらいいでしょうか。

 もちろん企業活動なので、投資対効果は考えるべきですね。ただ、個人的にはリアルのコミュニケーションよりデジタルの方が投資対効果が高いと思います。担当者の1時間の打ち合わせを減らし、そのぶんをSNSに投下すれば、長い目でみれば効果が高いのではないでしょうか。

――なぜデジタルのコミュニケーションの方が効果が高いのでしょうか。

 リアルのコミュニケーションは言葉が消えてしまいます。100人に向かって講演などで話していても、聞いてくれる人って8割ぐらい。ほとんどの人が僕の言葉は忘れちゃいます。

 デジタルのコミュニケーションは残るんです。Google検索で見つけてくれたり、フォロワーが僕の書いたタイミングではなく違う時に気づいて読んでくれたりすることもあります。

 目の前で話す「プッシュ」のコミュニケーションの方が聞いてもらっているように感じますが、実はこれってタイミングが合わないと聞いてもらえません。

 一方でネットのコミュニケーションは、聞きたい人が聞きに来てくれる「プル」のコミュニケーションなんです。知りたい人が能動的に情報にアプローチしているので、同じ人数に伝えても、デジタルのコミュニケーションの方がしっかり伝わっているんじゃないでしょうか。

徳力さんの著書『「普通」の人のためのSNSの教科書』(note提供)
徳力さんの著書『「普通」の人のためのSNSの教科書』(note提供)

――押しつけにならない情報発信ができるということですね。

 これまでも本の出版や、雑誌・新聞に記事を載せるといった「プル」のコミュニケーションはありえましたが、記者や、記者と知り合いの経営者、大成功した人など一部の人に限られていました。
 デジタルツールによってそれが誰でもできるようになってきたことはすごく大きい。特に中小企業こそ使ってみてはいかがでしょうか。

既存のお客さんとのコミュニケーションから

――SNS運用は、すぐにフォロワーが増えることもなく、なかなか続けるモチベーションが難しいです。

 ビジネスパーソン向けには、「メモで始める」「自分のために始めるので、見てもらうことを期待しない」というスタンスをおすすめしていますが、企業はコミュニケーションで始めるしかありませんよね。

 僕は「既存のお客さんとのコミュニケーションで始めてくださいね」と話しています。

 みんなSNSを「Twitterでバズると大勢に知ってもらえる」「ネットの見込み顧客を捕まえたい」といった広告手段の一つだと思い込んでいます。

 知らない相手に話を聞いてもらうってとてもハードルが高いことです。

 ふだん生活しているときも、数人の人がずっと自分の話を聞いてくれていることってあまりありませんよね。企業の発信も同じで、社長の事業承継の思い出や商品開発の経緯などを、お客さんがずっと聞いてくれていることってありません。

 だから「数千人に届かないと手応えがない」と思わず、数人でも反応があったり、聞いてくれたりするなら「ラッキー」と思ってもらいたいです。

 リアルのコミュニケーションでは、目の前の人の反応をうかがい、うなずいてくれたか、しっかり届いたか、「質」を求めていますよね。デジタルでもそれを意識できるかどうかが、長続きできるどうかにかかってきます。

 メディアプラットフォーム「note」でも、「スキ」や「フォロワー」の数を増やしたいと発信していると疲れてしまいます。大勢に聞いてもらう前提でやらずに取り組んでいたら、たまに大勢に聞いてもらえた、というスタンスの方が楽しんでできると思います。