中小企業のSNSの始め方 人気ブロガー徳力さんが紹介する参考事例
自社の情報を発信するツールとして活用している企業も多いSNS。『SNSの教科書』でそのノウハウをまとめたnoteプロデューサーでブロガーの徳力基彦さんは「ネット上にビジネス関係の情報発信がまだまだ少ない」と指摘します。ではどんなツールで、どのように情報発信を始めたらいいのでしょうか? 参考になるSNS発信の成功事例も教えてもらいました。
自社の情報を発信するツールとして活用している企業も多いSNS。『SNSの教科書』でそのノウハウをまとめたnoteプロデューサーでブロガーの徳力基彦さんは「ネット上にビジネス関係の情報発信がまだまだ少ない」と指摘します。ではどんなツールで、どのように情報発信を始めたらいいのでしょうか? 参考になるSNS発信の成功事例も教えてもらいました。
――中小企業が発信するのに、どのメディアから始めるのがいいでしょうか?
担当者がデジタルコミュニケーションに慣れるためには、Facebookを使ってネットに文字を書くのに慣れたらいいのではないでしょうか。リアルの知り合いと相互につながり、自分の書いた文章にどんなリアクションがあるかを味わってほしいと思います。
ただ、Facebookは公開投稿でないと情報の伝播が起こりづらく、知りたい人が検索したりフォローしたりして情報にたどりつく「プルのコミュニケーション」としてはあまり生かせません。
ネットのコミュニケーションに慣れたら試してほしいのがTwitterです。
個人の場合は、自分と同じような業界の人をフォローして、仕事に関係する話を投稿してみて、どんな反応をされるかをみてみます。
ただ、ビジネスでSNSを生かそうと思うと、ツイッターの140文字の表現では限界があります。noteのような長文を打てるサービスを組み合わせて使うというのが最終的な落としどころだと思います。
ふだんはTwitterで顧客とコミュニケーションをとり、長めの記事のURLを貼って投稿すれば、そのTwitterのフォロワーが見に来てくれます。
飲食店や美容、ファッションなど、ビジュアル映えするものはインスタグラムがそぐうと思います。動画の方が向いているサービスならYouTubeですね。
ただ、写真や動画はテクニックが必要です。まずはテキストコミュニケーションから入るのがいいかなと思います。
――YouTubeはハードルが高いのでしょうか。
テキストだけのコミュニケーションは誤解が起こりやすいというデメリットもあります。声のトーンや表情など、文字情報以外にも伝わる動画は、動画ネイティブの人が社内にいるのであれば活用してもいいと思います。
たとえば、タクシー会社の「三和交通」さんは、YouTubeを活用して情報発信していますね。
ただ、動画は見てもらうまでが大変です。撮って出しの動画は面白くないので編集が必要になり、個人的にはプロの世界になっていくのかなとも思っています。
業態や業種によって選択肢をかえていく、お客さんに伝わりやすいツールを選ぶのがいいと思います。
――徳力さんの著書『SNSの教科書』では、海外のビジネスに取り組む方が「LinkedIn(リンクトイン)」を活用されている事例が紹介されていました。
アメリカでは、誰もが使っているSNSはFacebookで、ビジネスで使われているSNSがLinkedInです。
日本では、誰もが使っているSNSにLINEがあり、Facebookはどちらかというと「ビジネスのSNS」となりました。だからLinkedInがビジネスSNSとして存在感を出せていません。日本で「転職SNS」と紹介されてしまったことも影響していると思います。
海外でビジネス系のコミュニケーションをする人にとってはメリットがあると思います。
ビジネスパートナーになれそうな人を検索して、キーマンにすぐ「一緒にやりたい」と連絡できます。日本のように会社のお問い合わせフォームから伝言リレーのように伝わっていく形ではありません。
いま、日本でもFacebookメッセンジャーをそういう形で使う人が増えていますね。
――中小企業のSNSの取り組みで、徳力さんが注目しているものはどんなものがありますか?
「豚組」さんでしょうか。2009年からTwitterを始めていますが、ツイッター上で予約をとっていたことで有名な飲食店です。
しかし、このコロナ禍で、六本木にある豚しゃぶ屋さんを閉店することになり、noteで発表したところ、その記事が拡散されました。結果、多くの支援が集まり、お店を一時継続することになったそうです。
あまりに大きな反響のあった事例なので、「自分には難しい」と感じてしまうかもしれませんが、いち飲食店でもできるということなんです。豚組さんは、飲食店に来たお客さんとのコミュニケーションだけでなく、Twitterやnoteを組み合わせて、お店に来ていない人へのコミュニケーションをしていたんですね。これが集客や応援につながったんだと思います。
――規模に関係なく、SNSでのコミュニケーションが大事ということですね。
年齢も関係ないなと感じるのが、都内のすし屋「鮨ほり川」さんです。73歳ですが、Twitterもnoteも使いこなしています。
コロナ禍をSNSの発信で乗り越えて話題になり、テレビの取材もきたそうです。
コミュニケーションはSNSをやっていた期間も、年齢も関係ありません。
こういった事例をみていくと、SNSアカウントの使い方では、デジタルの知識よりも、コミュニケーション能力が重要なのではないでしょうか。
企業の「中の人」として有名なシャープさんのTwitterも、まねできないと思うかもしれませんが、ご本人は「僕は八百屋さんの店員です」といったことを言っていました。
――八百屋さんですか?
この感覚は大事です。自分を「シャープの代表です」と言うと、一気に何もしゃべれなくなります。「シャープ」は人間ではありませんから。
八百屋さんの店員として、売っていないものがあったら「あそこにあると思うよ」と言ってみる。お店の商品が品切れしていたら「3軒向こうに別の八百屋さんがあるよ」と紹介できる。
シャープさんって、自社で取り扱っていない商品を聞かれて、別の会社の商品を薦めたりしているんですね。人間としては普通のやりとりです。
デジタルでのコミュニケーションは、軒先でのお客さんとの会話の延長です。実はお客さんとの距離が普段から近い企業の方が、SNSのコミュニケーションが得意なのではないでしょうか。
大きなメーカーになると、コールセンターが別のところにあって、お客さんとコミュニケーションする部署がほとんどないところもあります。そうすると、いざSNSに取りかかっても、どうコミュニケーションをとっていいのか分からなくなってしまいます。
――企業名での発信ではなくて、自分の名前に企業名や専門分野をプラスして発信していく方が分かりやすいのかもしれませんね。
僕がすばらしいと思っているのが、BEAMSの洋服スタイリングのブログです。店員が名前を出して洋服を紹介しているんです。
この仕組みを作った方に話を聞くと、コロナの前から、デジタルを組み合わせて24時間接客を実現する考えだったそうです。
ここで販売員が紹介した洋服はECサイトで買えます。もともと売り上げに占めるECの率が高かったBEAMSでは、コロナの影響も他のアパレルに比べると減少幅が少なかったのではないでしょうか。
お店で仲よくなった店員さんが、コロナ禍でお店が閉店するなか、どうしているのかブログを読みにいったら、自宅から写真をアップして服を紹介している。すると「応援しているこの人経由で服を買おうかな」ということが起こります。
以前この取り組みについて伺ったとき、トップの売り上げだった人は九州のお店の人でした。デジタルのコミュニケーションには場所が関係ないことの表れですね。お店の立地などのハンデをとばして成功している事例だと思います。
noteでも、企業の公式noteで、社員個人が書いたnoteを紹介する、まとめて見せるという取り組みがあります。これまでウェブサイト担当者が取材して・書いて、という一部の人の記事が載るものだったのが、社員みんなが書くものになっています。
――そのほかに、noteで印象的だった取り組みにはどんなものがありましたか?
面白かったのが「ぺんてる」さんのケースです。noteで「シャープペン研究部」を立ち上げ、「あなたの忘れられない1本」を教えて下さいというキャンペーンをしました。ただ、盛り上がらないと寂しいですよね。ぺんてるさんで行なったのは、社員も自分たちで書き、リレー連載として紹介するという取り組みでした。
その中で、ひとりの社員の記事が非常に読まれました。あるシャープペンシルが好きで入社したのに、それが廃盤になった……というお話でした。
こういったエピソードはどの会社にもあるはずです。社員の思いや努力を書いていたら、ひょっとしたらお客さんが読んでくれることもあるかもしれません。
店頭でこの話をしても感動してもらえたかもしれませんが、きっと数人の人しか聞いてくれません。デジタルだと大勢が見てくれます。
――店頭でこの話を始めても、「急いでるんで……」となってしまうかもしれませんね。
そうですね。目の前の人に聞いてもらう「プッシュ」ではなく、知りたい人が来てくれる「プル」のコミュニケーションが生きた形ですね。
――こういったコミュニケーションがブランディングにも貢献しているのでしょうか。
従来であれば、おしゃれな広告や面白いCMがブランディングの一つだったのかもしれませんが、もっと選択肢があるということですね。
社員のエッセイや、個人の撮った素朴な写真の方が意外と好まれる……ということもあるかもしれません。コミュニケーションは、プロだけがするものではありませんから。
――SNSを使うとなると、考えておきたいのが炎上対策だと思います。
政治やジェンダーなど、炎上しやすいテーマはあると思います。でもこれらは、普通の企業なら就業規則や新入社員研修でカバーできているのではないでしょうか。営業活動のときに「宗教と政治と野球の話はするな」と指導されるといったことです。
センシティブな話題や、誰かが嫌な思いをすることは言わないというのが基本的な考え方ではないでしょうか。ビジネスの場で通常おこなうコミュニケーションが、SNSのコミュニケーションです。
よく言われることが、その投稿は、上司が見ても、母親が見ても恥ずかしくないものですか?ということです。
一時期、「ネットは匿名だから本音を書いてなんぼだ」というのが常識のように語られてしまいました。だから普段から言わないことをばんばん書いてしまう。それがネットの雰囲気を悪くしていると僕は思います。
コミュニケーションの場所で、荒い言葉遣いはしませんよね。誤解している人がまだまだ多い。そこを気をつけるのが基本だと思います。
それとは別に、企業が何か悪いことをしてしまったことで炎上するケースもあります。不祥事などがあったとき、会社名がついているアカウントに攻撃がくる場合です。その際には素直に謝るしかありません。
もし炎上が起こってしまった場合、最初にちゃんと謝れば、ほとんどのケースはそれで終わるでしょう。炎上が続いてしまうケースは、反論したり、指摘を無視したりしているケース。これはリアルでも同じですね。店頭のお客さんからの指摘に、同じことをしていたら怒りが増すだけでしょう。
――『SNSの教科書』の中では、SNSでの発信をきっかけにメディアに取材されるといったビジネスパーソンの経験がシェアされていましたね。
ネット上のビジネス関係の情報発信ってまだまだ足りていないと僕は思っています。だから、自分の業界の話を一生懸命発信していると、見つけてもらう確率が高いんですね。
たとえば本で紹介したビジョナリーホールディングスの川添隆さんは、小売りのプロフェッショナルで、ネットで情報発信をする人が少なかった頃からメガネスーパーの情報発信をしていました。そうすると、メディア側が取材したいときに検索して川添さんを見つけ、話を聞きにいくわけです。
業界のファーストペンギンには、人や情報が集まってきます。さらに業界のことを深く知れる。「出せば出すほど情報が集まってくる」ということがビジネスの世界では顕著に起こります。
ビジネスの情報発信では、コミュニケーション相手との信頼できる関係を蓄積していくことが大事です。
感動した話や面白い投稿ではなく、大勢に読んでもらえなくても、自身の業務で苦労していることや乗り越えたこと、役立った話などを地道に書いていけば、その情報が役立つと感じる人は感謝してくれるし、さらに情報を教えてくれて、それによって自分が詳しくなることもあります。それはNTTを辞めた僕自身が15年前から経験していることです。
「うちの会社の話なんて誰も興味ないだろう」と思うかもしれませんが、実は同規模の会社って日本にたくさんあります。大企業のサクセスストーリーではなくたって、きっと役に立つでしょう。ぜひ試してみてほしいと思います。
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