第1子出産前後で47%が離職

 厚生労働省の2019年(令和元年)雇用動向調査によると、期間を定めずに雇われている人や1カ月以上の期間を決めて雇われている人のうち、男性の離職率は13.4%ですが、女性の離職率は18.2%です。女性は男性よりも「結婚」「出産・育児」「介護・看護」といった理由による離職率が高いのが現状です。

 出産・育児は、大きな節目です。内閣府が2018年に発表した資料(PDF形式:572KB)によれば、第1子出産前後に女性が仕事を続ける割合は年々高まっているとはいえ、それでも第1子出産を機に離職する女性の割合は46.9%に上ります。

 さらに第2子、第3子でもさらに各20%近い女性が出産前後に退職を選んでいます。

国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(夫婦調査)」(2016年)を内閣府が編集した図

女性が退職を選ぶ2つの理由

 産休・育休から女性社員が戻りづらい、戻ってきても退職してしまう背景について、野田さんは「退職理由としては色々あると思いますが、大きく分けて2つあります」と指摘します。

1.仕事と子育ての圧倒的な両立不安

 野田さんが挙げた1つ目は、女性側にまず圧倒的な両立不安があり、そして実際に両立が難しい環境があることです。次のように解説します。

 産前に頑張ってキャリアを積み上げてきたなかで「復帰しても同じようにやりたい」「同じように認められたい」という思いを持つ人たちがいます。しかし、実際は、子どもが熱を出し園からの急なお迎え対応に追われたり、仕事が終わらないのに残業できなかったり、家に持ち帰って子どもが寝た後に眠い目をこすって夜中残務をするしかなかったり、家事などほとんど引き受けるしかなかったり……。

 こうした状況が重なり、物理的にも精神的にも限界になって「なんのためにやっているんだろう……」「私の人生これでいいのか……」と立ち止まったときに、経済状況を考えた上で「子供が落ち着く(幼稚園か小学校入る頃)までは…」とやめてしまいたいケースがあるのではないかと考えられます。

 また、両立への不安を会社に伝えることは「ただでさえ人材不足なのに私が抜けると、ほかの人に迷惑かかってしまう」「出産した=戦力外と思われたくない」などの複雑な気持ちが入り混じって相談しにくい状況もあります。

 本人の不安な感情だけでなく、環境が整備されていないのも要因でしょう。たとえば、夫の長時間労働や育休を取得せず、家事育児を女性一人で担わざるを得ない環境があります。ほかにも「急なお迎え(育児)=母親のタスク」といった固定観念もあります。

 最近は減りましたが、子供が3歳になるまでは母親は子育てに専念すべきであり、そうしないと成長に悪影響を及ぼすという「3歳児神話」も阻害要因です。また、妊活やお受験といった子どもにまつわる活動が平日の日中に行われることが多いのも、両立を難しくしています。

 これは育児に限らず介護・闘病なども同じではないでしょうか。

2.ライフプランの変更も要因

 野田さんの挙げる二つ目は、産前までのライフスタイル=仕事中心で自分を成長させる、産後のライフスタイル=子ども中心でできる範囲での仕事を、といったキャリアプランの変更を考えている女性もいることです。

 たとえば、「やりがいはあり成長させてくれる良い会社だけど、この働き方は両立できると思えない。だから子どもができるまではここで働こう、子どもができたら両立しやすい働き方をしたい」とリミットを決めて働いている場合もあります。

 こうした意見はあまり表だって言われてはいませんが、女性から「もともと辞めたかったんだけど…」「この会社は育児している人がいないから両立のイメージがわかない」「若いうちだからできる仕事を」といった声が実は多くあがっているのです。

産休・育休から復帰しやすい制度とは

 どうすれば、子育て中の助成が働きやすい職場をつくれるでしょうか。制度づくりには法律に合っているか確認することも必要です。詳しい条件は、支援サイト「両立支援のひろば」などを参考にしてください。

「コソダテの学校3919」のおもちゃで遊ぶ赤ちゃん

1.育児のための短時間勤務制度

 事業主は3歳未満の子どもを育てる従業員が希望すれば利用できる、所定労働時間を短縮する制度(原則として1日6時間)を設けなければなりません。所定労働時間とは、就業規則等で定められた勤務時間のことです。

2.育児・介護のため時間外労働の制限

 事業主は小学校就学までの子を養育する従業員、要介護状態の家族を介護する従業員から請求があった場合は、事業の正常な運営に支障のある場合を除いて、1か月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。

3.育児・介護のため深夜業の制限

 事業主は、小学校就学までの子を養育する従業員、要介護状態の対象家族を介護する従業員から請求があった場合は、事業の正常な運営に支障のある場合を除いて、午後10時から午前5時までの間、その従業員を労働させてはなりません。

 一方、育児休業期間中でも月80時間までなら仕事をしてもらうことができます。この時間の範囲で「慣らしワーク」してもらうことができます。この制度について、厚生労働省のサイトで次のように説明しています。

 その就労が、臨時・一時的であって、就労後も育児休業をすることが明らかであれば、職場復帰とはせず、支給要件を満たせば支給対象となります。
 なお、就労した場合、1支給単位期間において、就労している日数が10日(10日を超える場合は、就労している時間が80時間)以下であることが必要です。

Q&A~育児休業給付~

 このほか、厚生労働省は中小企業向けに「中小企業における女性活躍推進の取組のための好事例集および改善取組事例集」(PDF形式:8.77MB)をつくっており、自社に近い事例が見つかるかもしれません。

中小企業が育児支援で利用できる制度とは

 働く女性を支援する中小企業に対して、国から様々な助成があります。こうした助成を利用することで企業のなかで制度づくりを進めやすくなります。いくつか例を示します。

1.トライアル雇用助成金

 職業経験の不足や育児で仕事にブランクがあるなど就職に不安のある人が、正社員として就職しやすくなるよう、3か月間を上限にトライアル雇用(試行雇用)ができる制度です。

2.両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)

 中小企業事業主が女性社員の活躍に関する状況把握・課題分析した上で、女性活躍推進法にもとづいて、課題解決にふさわしい行動計画をつくって公表し、数値目標を達成した場合に助成金を支給しています。

不安に寄り添い「丁寧な対話を」

 妊娠中からできるサポート、産後についても、制度を導入することはとても大切ですが、野田さんは「まず対象となる方と丁寧に対話を繰り返すことから始めましょう」と呼びかけます。野田さんは以下のように提案します。

 どんな点に不安を感じているか、業務だけでなく休みに入るまでに不安なこと、休みに入ってから出産までどう過ごしたいとおもうのか、1年間どのような時間にしていきたいか、1年後復帰にあたってどのようなことが不安なのか、また復帰明けはどのような働き方をしたいかを聞くことで、会社としてどんなサポートができるか提案できます。

地域の専門家と連携して子育てを支える「コソダテの学校3919」を11月19日に静岡県三島市でオープンする野田さん(手前中央)

 「復帰してもらいたい」「どうしたら戻ってきて働いてくれるか」といった視点ではなく、大切な仲間の一人が大きなライフスタイルの転換期であることを理解し、本人の人生を大切に想い、本人に寄り添って聞くことがポイントです。

 本人も不安でいっぱいで、どうなるのかまったく想像できていないはずです。その不安へ寄り添えたら、きっと「自分のことを大切におもってくれる会社」と理解してもらえるでしょうし、そういう関係性ができていたら、対話で解決できる部分も生まれてくるのではないでしょうか。

 相手を理解した上で、会社の状況を伝え、互いにとってどのような方法がベストなのかをじっくり模索する時間が必要です。これは粘り強く時間も労力もかかることです。しかし、「お互いの信頼を構築すること」を大切にすることは産育休の女性に限らず、あらゆる社員の離職防止策と言えます。

職場復帰の前に「育児支援を」

 野田さんは「職場復帰より前に、『育児支援』があると大変喜ばれるでしょう」と話します。それには、以下のような背景があると説明します。

 職場が育児支援することに疑問を持つかもしれませんが、育休中の女性から聞くのは「育児の情報がまったくなくて困った」ということです。出産に向けて「産む」ことだけに意識がフォーカスしているため、産後にどのようなことが起こるか想定できず、すべてがわからないことだらけ、てんやわんやで仕事復帰どころじゃないかもしれない……とさらに不安になるものです。
 「だからこそ、育児不安に会社が寄り添って提供する仕組みを提案します」

 業務以外にその個人のライフスタイルに寄り添うことで信頼関係を構築できることは前述しました。育休中をどんなものにしたいのか、そもそも相手はどんなことを望んでいるのか、それをしっかり本人と対話したうえで、適切な育児支援のインフラを提案するのが理想的ですが、それらすべてを会社が担うのは非現実的でしょう。対話からインフラ紹介、育児サポートなどを福利厚生の一環と捉え、子育て支援団体等と外部連携していくことが望ましいと考えます。

 野田さんも11月19日に静岡県三島市で産育休期のママパパ向けに医療・生活の各分野の専門家が子育てに関する学びを提供する「コソダテの学校3919」を開きました。

離職防止策の一助にになるのが男性の育休制度活用だ

 「男性へのアプローチも大切です。男性社員の配偶者が出産した際には、男性社員が早く帰宅できるように皆で良い空気を作っていくことも大切かなとも思います。夫の育児参加が妻の離職率を防ぐことにも大いにつながります。」

野田千絵さん

ブランディングコンサルタント

静岡県伊豆市育ち。大手広告代理店に勤務後、出産を機に三島市に移住。子育て情報サイト&ママコミュニティの創設、広告企画プロデュース会社の支社長代理を経て、2016年に「ネイトブランディング」を独立開業。沼津三島を中心に東部の経営者へ向けてブランド構築支援、育児人財の採用・定着支援を行う。2020年11月19日にコソダテの学校3919をオープンし、産育休期の人材へライフ・キャリアデザイン支援事業を開始。