新規事業の立ち上げに必要な要素とは 社内の「壁」を突破するポイント
中小企業で家業の強みを生かしつつ新規事業を立ち上げようとしたものの、人手不足や社内理解が得られずに悩んでいる経営者や後継ぎは少なくありません。富士ゼロックスで新規事業開発に携わり、いまは企業間レンタル移籍を手がける「ローンディール」最高顧客責任者を務める大川陽介さんに社内の「壁」を突破するポイントを聞きました。
中小企業で家業の強みを生かしつつ新規事業を立ち上げようとしたものの、人手不足や社内理解が得られずに悩んでいる経営者や後継ぎは少なくありません。富士ゼロックスで新規事業開発に携わり、いまは企業間レンタル移籍を手がける「ローンディール」最高顧客責任者を務める大川陽介さんに社内の「壁」を突破するポイントを聞きました。
目次
新型コロナウイルスなど市場環境が大きく変わるなか、中小企業はこれまでの製品やサービスの需要が落ち込むリスクを抱えています。継続的な成長のためには、新しい市場の開拓や新商品の開発など新事業展開が欠かせません。
2017年版中小企業白書によれば、新事業展開に成功した企業で「経常利益率が増加傾向にある」と回答した企業は51.4%に上り、新事業展開に成功していないが「経常利益率が増加傾向にある」と回答した企業の割合を約20ポイント上回りました。
ただし、どの企業も新規事業を始められる状況にはありません。新事業展開していない企業の課題としては次のような回答がありました。
ヒト・モノ・カネが限られている中小企業では、そのリソースをどう確保するかが課題となります。それでは、こうした課題を乗り越えて新規事業を立ち上げるにはどんな要素が必要でしょうか。「ローンディール」最高顧客責任者を務める大川さんは次のように話します。
まずは、その事業を立ち上げたいと、強く思う『ヒト』が不可欠です。未知なことに挑む新規事業において、どんな困難や不安があろうとも、肚(はら)を決めて前に進み続けられるだけのWILL(強い意志)や覚悟が必要になります。 特にリーダーとしては、その企業に愛着があり、変革してやろうという気概を持っている方が、より自分事として取り組める印象です。
前職の企業で取り組んでいた時にも、様々な壁にぶつかりましたが、つき詰めていくと、ほとんどが「ヒト」というリソースに行き着きました。自分たちに足りない能力や視点を手に入れるための中途採用ももちろん有効ですが、「リーダー」は自社内から発掘することが大切だと思っています。そして、数多くの顧客や起業家などとカラダごとぶつかることで、「覚醒」していきます。
大川さんの話からすると、中小企業で、自社に愛着を持ち、変革しようという強い意志を持つ後継者は、新規事業のリーダーとして活躍しやすい状況にあると言えます。
その次に大川さんが挙げたのが「社外の仲間」でした。
また同じくらい大切なのが、「社外」の仲間です。利害関係がなくとも、ヒトとして信頼できる仲間、一緒に面白がってくれる仲間、困ったら助けてくれる仲間を見つけることが、新規事業という未知に挑み続ける際に、非常に心強い支えとなります。
私の場合は、「ONE JAPAN」という大企業の有志が集まるプラットフォームを社外の仲間と立ち上げました。ここでは、大企業に限らず、ベンチャーや他のセクターとのつながりが生まれました。各人が語るビジョンをもとに、数々の新たなプロジェクトが生まれ、各所属企業への「逆輸入」のカタチで事業化される例で出てきています。
中小企業の後継者でも「ベンチャー型事業承継」のサロンや、「家業イノベーション・ラボ」のイベントなど、新規事業立ち上げやイノベーションを起こしたいという仲間と出会いやすくなっています。
老舗アパレル企業「双葉商事」の4代目深井喜翔さんは、経済産業省/JETRO主催のグローバル企業家等育成プログラム「始動 Next Innotator」への参加で得られた仲間や機会を生かし、本人以外は複業人材という限られたリソースの中で「KAPOK KNOT(カポック ノット)」というファッションブランドの新規事業を進めています。
深井さんの想いとKAPOKという素材をコアにして、経済産業省からのレンタル移籍人材の活用や、クラウドファンディングによる資金調達&マーケティングなど、リソースを補いながら強力に前進している点が応援もしたくなりますね。応援したくなるというのも、新規事業の開始から初期でとても大切なポイントです。
とはいえ、やはり越えなければならないのが「社内理解」です。
ポイントの一つとして、何よりも先に「価値を理解してくれる顧客」に出会うことです。さきほどの事例のように、「モノ」や「カネ」が限られていても、仮説検証はできます。限られているからこそ、顧客と深く向き合えるし、ピボットしながら何度でも検証できるとも言えます。
リーダーのWILLが明確になり、共感する仲間を得て、「価値を理解してくれる顧客」に出会えれば、社内外から、「ヒト」「モノ」「カネ」がついてきます。「リソースがないから、はじめられない」わけではないのです。
新規事業が必要とされるとき、既存事業が停滞していたり、右肩下がりだったりすることは少なくありません。経営者や既存事業のマネジメント層が「ただでさえ大変な時に、大切なリソース(ヒト・モノ・カネ)を新規事業に渡すわけにはいかない」と考えることもあります。
さらに、自ら新規事業に挑戦したいと考える社員が多いともいえません。既存事業で評価されている人材ほど、すぐに目に見える成果を出しにくい新規事業へ行くことにためらうこともあるようです。これについて、大川さんは次のように指摘します。
ただ、コロナ禍でVUCA(不確実性や不透明性を増した状況)の実感が増したためか、自分自身のWILLに向き合う人が増えたように感じます。キャリアの一つとしても、新規事業に挑戦する人が増えるかもしれません。
挑戦した人が正しく評価される制度や文化が必要です。実際は、会社の評価を気にせず、自分や顧客の想いを実現することに全力を注ぐ覚悟をしている人が、新規事業で成果を出しているように思えます。
新規事業を立ち上げるときには、社内からも反対意見や否定的なニュアンスがこめられた質問が寄せられることがよくあります。これにはどのように対処すれば良いでしょうか。
「抵抗勢力」に対しては、「NO」と言えない結果や実績を示していくことが必要だと思います。ただし、相手を論破するわけではなく、将来の仲間として巻き込むことを狙いましょう。「YES」ということによるメリットを示したり、こちらからあえて弱みを見せて、助けを求めて頼ったりするというのも手です。戦うべきは社内ではなく、市場です。同じお客様の方向を見られるように、しっかりと対話していくことが肝要です。
少しやっかいなのは「無関心層」かもしれません。「抵抗勢力」は、しっかりと本気で考えてくれている人たちが多いですが、こちらは興味喚起から入らないといけません。有効なのは、楽しそうな姿を見せて、一緒にやってみたいと思わせることです。「北風と太陽作戦」「天の岩戸作戦」ですね。同じビジョンや価値観の会社で働く仲間ですから、きっと社内理解は得られるはずです。
企業内の新規事業において「説明できる」ことは重要な要素です。正直、面倒くさい質問がたくさん来て腹立たしく思うこともあるかもしれませんが、逆に、「説明に必要な視点をいただいた!」「社内をハックするチャンス!」と前向きに捉えましょう。
中小企業の限られたリソースを補完する手法は社外にもあります。最近では、副業・兼業という新しい働き方が生まれ、都市部のIT人材が地方の中小企業でリモートワークする例が生まれています。このほかにも、首都圏の副業人材と地方企業をつなぐ「ワークデザインラボ」や「ふるさと兼業」という選択肢もあります。
人材が元の企業に在籍したまま期間を定めて他社で働く仕組みである「レンタル移籍」という選択肢もあります。この仕組みは、大企業とベンチャーをつなぐ例がいいのですが、「双葉商事」の深井喜翔さんのように中小企業でも活用する例が生まれています。
ローンディールは「レンタル移籍」という方法を提供しています。大企業からベンチャー企業へ、期限付きフルコミットで人材を送り込む「レンタル移籍」を支援するサービスです。大企業にとっては、「未知に挑む人材」を育成するための「修行」であり、元の企業に戻った後は、まさに新規事業や変革キーマンとして活躍します。
ベンチャー企業にとっては、大企業の主力人材を1年間「戦力」として迎え入れ、事業成長を加速させます。こういった還流型の人材の流動化が、新しい価値を生み出すカギであると考えています。
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