事業承継後に生じた問題

 大塚家具は大塚勝久氏が創業し、1980年に株式公開しました。その後、勝久氏が保有していた株式28%の一部を、長女の大塚久美子氏ら子息を株主とする資産管理会社・ききょう企画に譲渡。ききょう企画の保有割合は10%弱で大株主となりました。

 一般的な考え方では、創業者が子に株式を譲渡することで、いわゆる事業承継を終えていたという認識であったのではないかと思います。久美子氏は2009年、勝久氏の後を継いで、大塚家具の社長に就任しました。

2019年12月、ヤマダ電機の山田昇会長(右)と握手を交わす大塚久美子社長

 しかし、実際には2014年に、久美子氏が解任されて勝久氏が社長に復帰。翌2015年には久美子氏が再び社長に返り咲いて親子対立が鮮明化し、勝久氏は大塚家具を去ることになります。経営面でも、IKEAやニトリといった新興勢力の台頭で業績が悪化。1年前からヤマダホールディングス(HD)の傘下に入り、2020年11月、社長が久美子氏からヤマダHD社長の三嶋恒夫氏に交代することが発表されました。

同族企業のスリーサークルモデル

 欧米ではオーナー・同族企業はファミリービジネスと呼ばれ、研究も進んでいます。その1つとして「スリーサークルモデル」という考え方があります。

 スリーサークルモデルとは、ファミリービジネスを1つのシステムとして考えたときに、経営(ビジネス)、所有(オーナーシップ=主に株式)、家族(ファミリー)という3つのサブシステムで構成されるという考え方です。

スリーサークルモデルのイメージ図(株式会社日本FBMコンサルティング作成)

 つまり、ファミリービジネスがうまくいくには、経営、所有、家族のサブシステムがうまく機能する必要があります。例えば、経営や所有がうまくいっても、家族の関係性に問題があれば、ファミリービジネスに支障が生じるということです。

 一見、当たり前のように思います。しかし、これまでの経験で言えば、案外、ファミリービジネスのオーナーや後継者、また税理士といった支援者はこのような視点に欠けているように思います。

 例えば、創業者は経営に傾斜して家族をないがしろにする、後継者は家族を大切にするが経営をないがしろにする、税理士は所有の面にしか関心がないといった具合です。

親子げんかがブランドを毀損

 大塚家具の問題点を、改めてスリーサークルモデルの視点で捉えてみます。所有(オーナーシップ)の観点から見れば、株式上場を果たし、創業者の株式を後継者らの資産管理会社に譲渡して、比較的うまく対応していたように思います。

 創業者は結果的に、自分が保有する株式を資産管理会社に譲渡したことで会社から追い出される羽目になりましたが、相続対策といった観点からは一般的な対策と言えます。

 また、経営(ビジネス)の観点から、大塚家具の創業者と後継者それぞれのビジネスモデルを下図にまとめてみました。

大塚勝久氏と久美子氏のビジネスモデルの違い(株式会社日本FBMコンサルティング作成)

 マスコミにも報じられたように、高度成長期に構築された創業者による「会員制モデル」は限界にあったように思います。いわゆる高級家具店で大塚家具ほどの規模の会社はありません。IKEAやニトリといった低~中価格帯をカバーするビジネスモデルとも異なり、高価格帯をターゲットとするには、規模が大きくなり過ぎた(店舗数を増やし過ぎた)感はあります。

 勝久氏は会社を追われた後、「匠大塚」という家具販売店を新たに創業しましたが、規模が小さくなったことでうまく経営できると思います。事業環境の変化を受けて、後継者の久美子氏が求めた需要の多角化に対応したビジネスモデルの変革は必須でした。しかし、親子げんかによるブランドイメージの毀損が、特に高級路線である大塚家具に大きなダメージを与えたように思います。

必要だった家族関係のマネジメント

 報道や有識者によるコメントを見ていても、基本的には、株式承継や創業者と後継者のビジネスモデルの対立が、問題の中心だったように思います。

 問題の本質は、勝久氏が久美子氏を家長的に育てたことにあるように思います。朝日新聞などの報道によると、久美子氏の幼少期は親子の仲が良く、勝久氏が優秀な長女に期待していたことが分かります。実際に久美子氏は一橋大学を卒業し、富士銀行(現みずほ銀行)に就職しました。

 しかし、久美子氏には、年の近い弟の勝之氏がおり、他にもきょうだいがいます。後を継いだ久美子氏に対し、長男の勝之氏には何かしらの感情があったのではないでしょうか。実際、勝之氏は創業者の勝久氏が大塚家具を追われた時、行動を共にして匠大塚を創業しています。

2019年4月、匠大塚の大塚勝久会長(左)と4年ぶりに再開し、花束と手紙を渡す大塚家具の大塚久美子社長(右)

 長男の勝之氏を後継者としておけば大きな問題にならなかったかもしれません。しかし、勝久氏が久美子氏に期待して家長的に育てていたときから、創業者や長男との対立は予見できたにも関わらず、家族関係を取り持つマネジメントがなされてこなかったことが、今回のような問題を引き起こしたと言わざるを得ません。

 両者のビジネスモデルの違いについても、上場まで果たした創業者の勝久氏は、何らかの手を打つ必要があったと考えたと思います。しかし、久美子氏に反発を覚え、うまく調整できなかったのではないでしょうか。お互いに冷静になり、話し合うことができる準備があったなら、このような事態にならなかったように思います。

創業者への思いやりが大切に

 大塚家具の問題において、仮に久美子氏の立場であれば、自分の振る舞いが社会通念からずれていないか、周囲からの反発がないか、創業者が長年培ってきた企業文化に即しているか(参考記事)などを、客観的に振り返ることが必要だと思います。

 また、創業者に退いてもらうには、会長職や業界団体の役職や、家族の行事では家長のような立場になってもらうなど、英雄的な地位を保証すべきでしょう。そのような心遣いをすることでお互いの信頼関係を築き、維持していく必要があります。

 創業者と議論して、対立しながら企業変革していくことが必要な場合もあると思います。しかし、そのような状況であっても、父親やきょうだいに対する思いやりは十分に持たなければならないと思います。

後継者に必要なチェックポイント

 永続できるファミリービジネスを目指すならば、後継者はスリーサークルモデルの観点から、今の家業にどのような問題が存在するのか、また内在するのかについて、考えることから始めればよいと思います。

 そこで明らかとなった課題に対しては、家族で協力して取り組むほかありません。第三者の手を借りないといけないこともあるかと思いますが、まずは家業にどのような問題があるのかを認識すべきだと思います。

 以下、スリーサークルモデルの各分野において、承継を円滑に進めるためのチェックポイント(例)をまとめました。各項目で一つでも問題があれば、一度その内容について検討したら良いと思います。そのことがファミリービジネスを永続させるための第一歩になります。

経営面(ビジネス)

・社是、経営理念など会社が大切にすべき事項が定められていますか。
・中長期的な経営計画(目指すべき企業像)はありますか。
・セグメント単位(事業単位、顧客単位、商品単位)でどこが儲かっているのか、そうでないのかが分かるようになっていますか。
・経営の意思決定を行う会議体がありますか。また、その会議体では社長以外の経営幹部が意見できる雰囲気がありますか。
・従業員に説明できる人事制度がありますか。
・信頼できる一族ではない幹部(ノンファミリー幹部)がいますか。

所有面(オーナーシップ)

・株主構成を知っていますか。
・自社株の株価(相続税評価額)を知っていますか。
・株式承継からの視点での相続対策は実施していますか。
・信頼できる顧問税理士や顧問弁護士はいますか。

家族面(ファミリー)

・家訓や家憲といった家族のルールなどは定まっていますか。
・家族は会社(事業)の内容を知っていますか。
・定期的に家族会議を開いていますか。また、家族会議で家族が自由に意見を言える雰囲気がありますか。
・女性(配偶者、娘)も自由に意見が言える雰囲気がありますか。
・就業しているファミリー、就業していないファミリーのそれぞれの役割などは定められていますか。
・一族や家族内の関係は良好ですか。
・後継者を育成するための仕組みや制度がありますか。
・家族のことで相談できる専門家はいますか。

 スリーサークルモデルによるファミリービジネスの総点検や、家族関係を「見える化」するメソッド・ジェノグラム分析などについては、拙書「『経営』承継はまだか」(中央経済社)も参考にして下さい。本書ではファミリービジネスが抱えている課題やその解決方法について、欧米の知見も盛り込んだ内容となっています。

【参考文献】
「「理」と「情」の狭間」(磯山友幸著、日経BP社)