粗利・営業利益とは ラーメン店経営をもとに簡単に解説
「粗利」「営業利益」といった用語は、仕事で耳にする機会の多い言葉ですが、その意味は言葉からイメージしにくく、しっかり理解できている人は多くありません。財務諸表(決算書)のうち、損益計算書の各段階の利益について、公認会計士の筆者が経営しているラーメン店をもとに解説します。
「粗利」「営業利益」といった用語は、仕事で耳にする機会の多い言葉ですが、その意味は言葉からイメージしにくく、しっかり理解できている人は多くありません。財務諸表(決算書)のうち、損益計算書の各段階の利益について、公認会計士の筆者が経営しているラーメン店をもとに解説します。
損益計算書は1年間の売上から、費用を差し引いて、いくら損益が出たのかを示す書類です。損益計算書には粗利(売上総利益)、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益という5つの利益があります。
「粗利」とは、売上高から材料費、商品仕入高などの売上原価を差し引いたあとに残る利益です。損益計算書では、「売上総利益」として表記されます。「粗利率」とは売上に対する粗利の割合です。
粗利(売上総利益)=売上高-売上原価(材料費や商品仕入高など)
粗利率=(粗利/売上)×100
粗利は経営管理において、とても重要な指標の一つです。売上が増加しても、売上原価がそれ以上に増えれば利益は減少し、いずれ資金が枯渇します。会社を安定的に経営するためには、「粗利」の増加を目指す必要があります。
粗利率は高いほど好ましいのですが、業種によってかなり差があります。中小企業基盤整備機構が運営する「J-Net21」の業種別開業ガイドから様々な業種の損益イメージから粗利率の参考数字がわかるので、参考にしてみてください。
仮に、粗利がマイナスになっている場合は、製品やサービスなどを作るためにかけたコストより、もらった金額が少ないということになります。イレギュラーな事象がなく、この段階の利益が赤字であれば、そこからさらに販売コストや事務所の賃借料が引かれるため、最終利益は大変なマイナスになるはずです。
粗利益の計算において、販売業と製造業では考え方が少し異なります。計算の基礎として、販売業では仕入額をもとに売上原価を算出しますが、製造業では製造原価をもとに売上原価を算出します。小売業は仕入商品を販売するので、仕入額が売上原価になりますが、製造業では製造にかかった人件費や材料費などを合算し、原価計算を行う必要があります。
例えば、小売業の人件費は売上原価に含まれませんが、製造業では製品製造に関係する人件費は製造原価に算入します。原価を計算する方法としては、「原価計算基準」が公表されており、基準には原価に算入すべき項目としない項目、原価算出までのプロセスなどが記載されています。
筆者が経営しているラーメン店の事例で粗利を算出してみましょう。仮に、製造業に準じて原価を計算する場合は以下のようになります。
ドラゴンラーメンの看板メニューは「濃厚煮干」と「淡麗白醤油」の2種類です。価格はいずれも税込みで、濃厚煮干が780円、淡麗白醤油は680円です。売価からラーメン調理にかかる原価を引いた額が粗利になります。商品にもよりますが、粗利率は60~70%で、粗利額は一杯あたり400~500円ほどになります。
ラーメンはスープ、麺、具材の組み合わせで成り立ちます。スープは煮干などの材料を煮込んで作るため、コストの内訳は材料費とガス代になります。麺は外注しており、仕入額が材料費です。
チャーシューや味玉は低温調理機などで熱を加えるため、電気代とガス代がかかります。他にも、製造設備の減価償却費や調理を行う従業員に支払う人件費などが原価になります。
そのため、人件費は販売担当者と製造担当者で分けて管理する必要があります。製造業の場合、電気代はオフィスや販売する店舗でもかかるでしょうから、メーターが分かれていなければ、製造にかかる部分と製造以外にかかる部分について按分することになるでしょう。
ここからちょっと難しいかもしれませんが、重要な部分を説明します。
第一回の記事「店舗経営に欠かせない財務諸表とは」において、「財務会計」と「管理会計」の違いについて説明しました。財務会計は外部の利害関係者への報告を目的としており、管理会計は意思決定や業績評価に役立てるための社内向けの会計でした。
ここまで書いた「粗利」というのは、財務会計における損益計算書の一つの利益です。
粗利を検討する上で必要な考え方が「変動費」と「固定費」です。
生産にかかるコストは、生産量が増えるにしたがって増加する「変動費」と、生産量に関わらず発生する「固定費」に区分できます。原価計算基準には、両方の性質を持つ「準固定費」も規定されていますが、これを含めると説明が長くなるので、変動費と固定費に絞って解説します。
変動費とは、ラーメンでいえば麺やスープなどの材料にかかる費用です。一杯作るごとに消費量が増え、仕入れコストもかかります。
一方で、同じ製造原価でも、調理担当従業員の人件費はどうでしょうか。日給制や月給制の場合は、作るラーメンが100杯であっても、1,000杯であっても、支払う金額は変わりません。ただし、店員に残業代を支払う場合は、稼働に応じて変動するため、変動費として管理することもあるでしょう。
このように、生産に従ってコストが増減する項目を変動費、増減しない項目を固定費として取り扱います。
変動費……ラーメンをたくさん作れば増えるコスト(材料費など)
固定費……ラーメンをたくさん作っても増えないコスト(人件費など)
売上原価は固定費と変動費で構成されますので、内容を把握し、管理することが重要です。
変動費、固定費の概念がわかると、次回解説する「損益分岐点」を理解しやすくなります。あらためて説明しますので、予習だと考えて軽くイメージを持っていただければよいと思います。
営業利益は、粗利益から販管費(販売費および一般管理費)を引いて算出する利益です。販売員や事務員の人件費、事務所の賃借料、広告宣伝費などが販管費に含まれます。
営業利益の計算には、本業以外で得た利益や、突発的に発生した事象による利益や損失は含まれません。本業以外の利益とは、利息や保険金の受取、突発的事象には事故や災害の被害による損失、使わない車両を売って得た利益などが該当します。
営業利益は各段階利益のうち、銀行から融資を受ける際に最も注目される利益です。それは、定常的に発生する収益と費用だけが含まれることから、「会社の本業による収益力」を表すのに適した指標だからです。
営業利益が毎年プラスで、現預金残高も減少していない場合は、ある程度経営は安定していると考えてもよいでしょう。
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