目次

  1. 貸借対照表とは
  2. 貸借対照表が重要な理由
  3. 貸借対照表に含まれる項目
  4. 資産とは
    1. 1.流動資産とは
    2. 2.固定資産とは
  5. 負債とは
    1. 1.流動負債とは
    2. 2.固定負債とは
    3. 純資産とは
    4. 1.資本金とは
    5. 2.資本準備金とは
    6. 3.利益剰余金とは
    7. 4.自己株式とは
  6. かみ砕いて理解することで経営に活用

 前回までの連載記事では企業にとっての資金管理の重要性を解説しました。簡単に説明すると、企業が倒産する原因は赤字ではなく「キャッシュの枯渇」です。支払が滞ると、仕入や雇用ができなくなり、企業活動が停止してしまいます。

 そこで大切になるのが、貸借対照表です。
 貸借対照表とは、決算のときにつくる財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書など)のうちのひとつです。前回までに紹介してきた損益計算書は、わかりやすく言うと「1年間のビジネスの結果」です。売上から、費用を差し引いて、いくら損益が出たのかがわかります。
 一方、今回説明する「貸借対照表」は決算日時点におけるお金のやり繰りなどの資産状況がわかります。貸借対照表には企業が保有する資産、借入金などの負債がすべて含まれるため、会社がどのようにして資金を調達し、調達した資金をどのように運用しているかが見えるのです。

 ラーメン店経営をもとに、損益計算書だけでなく貸借対照表が大切な理由を説明します。
 1年間の経営を終えて、「ラーメンたぬき」は100万円の現金が残りました。一方、「ラーメンきつね」では500万円の現金が残っていました。一年間の利益はどちらも300万円でした。さて、どちらの財政状態がよいでしょうか。

 正解は「わからない」です。

 「ラーメンたぬき」は一見したところお金がなく、資金繰りに困りそうに見えます。ですが、借入金がなく、現金で仕入れていたため未払金がないかもしれません。一方の「ラーメンきつね」は銀行から1000万円の借入をしている可能性もありますし、仕入をすべて掛けで行っていたとすれば、多額の未払金があることも考えられます。
 現預金の残高は現物や通帳で把握できますが、売掛金や未払金は増減を繰り返します。適切に管理を行っていれば、すぐに残高を把握できるかもしれませんが、すべての項目を毎日管理するのはなかなかの手間です。

 また、飲食店など、現金売上を得る業態は、注意が必要です。仕入や給与支払などは後払いが多いため、売上が支払に先行します。現預金が手元にたくさん残っているように見えても、未払金を考慮すると、資金繰りが余裕のない水準になっている可能性があります。

 実際の貸借対照表では次のような項目があります。

  • 会社が持っている「資産」
  • 返済する義務がある「負債」
  • 総資産から負債を差し引いて残る返済義務のない「純資産」
貸借対照表の構成

 一般的な貸借対照表は、左右2つに分かれ、左側は「資産の部」です。右側は上下二つに分かれ、上部が「負債の部」、下部が「純資産の部」になります。

 「資産の部」には、企業が所有しているプラスの財産が表示されます。また、資産の部は「流動資産」と「固定資産」に分かれています。

 流動資産とは、資産のうち、現金又は通常1年以内に現金化されるものが含まれます。現預金や回収見込みのある売掛金、棚卸資産などが該当します。
 少しわかりにくい点としては、「前払費用」も流動資産に計上されます。前払いした家賃などをイメージするとわかりやすいと思います。

 固定資産は、流動資産以外の資産を指します。事業を運営するにあたって、1年を超えて使用する財産が該当します。固定資産には、会社が自ら使用する資産だけを計上します。機械や車両であっても販売目的で保有しているものは、「棚卸資産」として流動資産に計上します。
 固定資産はさらに、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に分類されます。

 有形固定資産とは、土地、建物、機械装置、車両など、実体のある資産のことです。この項目に分類された資産は、土地を除いて減価償却の対象になります。使用期間に応じて取得価額が費用化され、毎年価値が減っていきます。土地は年月が経っても基本的に性質が変化しないため、償却は行いません。

無形固定資産に含まれるのは特許権や商標権のほか、ソフトウェア、借地権など

 無形固定資産は実体のない固定資産を指し、代表的なものとしてはソフトウェアが挙げられます。営業権や特許権などの権利もこの区分に分類します。こちらも減価償却を通じて費用化します。

 注意すべき点として、中小企業の固定資産は、ほぼ取得原価主義で計上されています。土地なども購入時の価額をもとに計上しているため、時価と計上額が乖離している可能性があります。
 資産が負債を大きく上回っているとしても、大部分を時価が著しく下がった土地が占めている場合は、実質は債務超過であることもあり得ます。内容を確認し、貸借対照表の計上額と処分した場合の差額については、把握しておいてよいかもしれません。

 負債とは、会社の借金など、簡単にいえばマイナスの財産のことです。負債は、貸借対照表では右側に記載され、流動負債、固定負債に分類されます。

 流動負債は、主に1年以内に返済義務のある債務を指します。1年以内に弁済期が到来する短期借入金や、買掛金、未払金などが分類されます。ラーメン店でいえば、1年以内に返済する銀行融資は短期借入金、肉屋さんからの後払の仕入は買掛金にそれぞれ分類されます。

 ところで、資金繰りの状況を判断するために、「流動比率」という指標があります。計算式は以下のとおりです。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

 シンプルですが重要な指標です。流動資産は主に1年以内に現金化できる資産、流動負債は主に1年以内に返済義務のある債務を指すことから、流動比率が100%を下回っている場合は、資金繰りがとても危うい状況です。利益を確保できなければ1年以内に資金がショートしてしまいます。

 冒頭の例で考えてみましょう。ラーメンたぬきの流動資産は現金100万円、流動負債は未払金10万円だったとしましょう。
 流動資産は100万円、流動負債は10万円です。この場合、流動比率は1000%になります。流動比率が200%を超えていれば、当面の資金繰りは問題ありません。財政状態は悪くないといえるでしょう。

 一方、ラーメンきつねの流動資産は現金500万円、流動負債は短期借入金が1000万円ありました。流動資産は500万円、流動負債は1000万円です。こちらの流動比率は50%になります。弁済期限にもよりますが、流動比率が100%を下回っているので、1年以内に何らかの方法で不足分の500万円を調達しなければなりません。財政状態は危機的です。

 このように、貸借対照表を分析すると企業の状態がわかります。

 固定負債は流動負債以外の負債が分類されます。わかりやすく説明すると、主に貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に到来しないものが含まれると考えるとよいでしょう。具体的な項目としては、長期借入金、預かり保証金などが挙げられます。

 貸借対照表の右側、固定負債の下部に「純資産の部」があります。

貸借対照表の構成

 純資産は資産と負債の差額であり、企業の持つ正味の財産です。正味の財産は純資産以外に、自己資本、株主資本などと呼ばれることもあります。それぞれ違いはありますが、大きく意味は変わりませんので、概要を理解するためであれば、さほど気にしなくてもよいと思います。

 純資産の部は、大きく「株主資本」と「株主資本以外」の2つに区分されます。「株主資本以外」の項目は、「評価・換算差額等」および「新株予約権」に分かれますが、中小企業ではあまり使いません。

貸借対照表の「純資産の部」

 「株主資本」は次の4つで構成されます。

  • 資本金
  • 資本剰余金
  • 利益剰余金
  • 自己株式

 株主資本=資本金+資本剰余金+利益剰余金-自己株式

 「資本金」は、法人の貸借対照表に登場する項目です。法人のうち、多くの割合を占める株式会社を前提に説明します。会社は設立時に資本金が拠出され、資金拠出した人が株式を引き受けます。また、設立以後に新株発行や剰余金の振替などで、資本金を増加させることもできます。

「資本準備金」は、資本金の払込みを受けた際などに、資本金に計上しなかった部分が分類されます。貸借対照表の概要を理解するうえでは、資本金と区別して覚える必要はありません。

 重要なのは「利益剰余金」です。利益剰余金は、簡単に説明すると、会社が設立されてから貸借対照表作成時までに獲得した利益を指します。利益剰余金を原資として株主に配当を行った場合は、配当相当額が利益剰余金から控除されています。
 したがって、利益剰余金からは、会社の長期的な収益力が分かります。従って、純資産が同じ額であっても、利益剰余金が多ければ収益力が高いことになります。

 「自己株式」は設立後に株主から自社の株式を買い取った場合などに使われる項目です。

 ラーメン店という身近な事例を通して財務諸表について説明してきました。難しい用語が多いため、ハードルの高さを感じるかもしれません。少しずつで構いません。かみ砕いて理解すると、自社の経営に生かしやすくなります。