同族承継に迫る「内部昇格」

 帝国データバンクは、2020年10月時点の企業情報をもとに、事業承継の実態について分析可能な約26万6000社の事業承継動向について調査しました。結果の概要は次の通りです。

  1. 約26万6000 社のうち、約17万社(約65.1%)で後継者不在
  2. 都道府県別で最も高い割合は「沖縄県」で 81.2%
  3. 業種別で最も不在率が高いのは「建設業」で 70.5%
  4. 事業承継を先代経営者との関係性でみると、最多は「同族承継」に「内部昇格」が迫る

 項目ごとに解説します。

1.後継者不在率は65.1%

 26万6000社の後継者不在状況は、全体の65.1%にあたる17万社で後継者不在でした。後継者不在率は大きく変動していないものの、2011年以降で最低となりました。

  • 65.9%(2011年)
  • 65.4%(2014年)
  • 66.1%(2016年)
  • 66.5%(2017年)
  • 66.4%(2018年)
  • 65.2%(2019年)
  • 65.1%(2020年)

2.都道府県別のトップは沖縄

 全国で最も不在率が高かったのが沖縄県で、全国平均を大幅に上回る81.2%でした。しかし、2016年(86.2%)をピークに4年連続で下がっています。2番目に高かったのが、鳥取県で2019年から1.9ポイント上昇しました。このほか山口県や島根県など、上位10県中4県が中国地方でした。

 一方で、和歌山県は2019年から1.8ポイント上昇したものの、2年連続で全国最低でした。2019年から後継者不在率が低下した都道府県は18、上昇は27でした。最も低下した幅が大きかったのが、三重県で2019年から8.6ポイント下がりました。

全国の後継者不在率(帝国データバンク作成)

3.業種別のトップは建設業

 2020年の後継者不在率を業種別でみると、次の通りです。小売業とその他をのぞく5業種で2019年より低下しました。

  • 建設業……70.5%
  • サービス業……69.7%
  • 不動産業……67.5%
  • 小売業……66.4%
  • 卸売業……63.0%
  • 運輸・通信業……61.5%
  • 製造業……57.9%
  • その他……54.4%

 最も低いのは製造業ですが、さらに業種を細かく見ていくと「木材製品」(59.0%)や「家具」(61.4%)など製造業のなかの15分野中8分野で2019年を上回っており、バラつきがあるのがわかります。

4.内部昇格による事業承継が同族承継にせまる

 2018年以降に事業承継したことがわかった全国約3万3000社について、先代経営者との関係性をみると、2020年の事業承継は「同族承継」が最も多く34.2%でした。しかし、2018年から大きく下がっています。
 逆に増えているのが、血縁関係によらない役員などを登用した「内部昇格」で34.1%となり、同族承継の0.1pt差までせまりました。2020年の就任経緯に割合は次の通りです。()内は2018年調査との差です。

  • 同族承継……34.2%(▲8.5ポイント)
  • 内部昇格……34.1%(+2.7ポイント)
  • その他 ……18.6%(+3.3ポイント)
  • 外部招聘……8.3%(+1.4ポイント)
  • 創業者 ……4.8%(+1.0ポイント)

事業承継問題は改善傾向か

 帝国データバンクは、政府や自治体、金融機関などが一体となって取り組んだ、後継者問題に対する地道な支援が後継者不在率の改善に役立っているとの見方を示しています。

 一方で、営業力や財務内容、事業将来性の弱さなどから支援が受けられず、事業承継が間に合わなかった「息切れ型」の後継者難倒産も出ています。そのため帝国データバンクは「今後は、ビジネスモデルや事業の将来性が見込める企業へ支援のリソースを集中させるなど、事業承継支援の在り方=「質」の変化にも着目して動向をみる必要がある」と説明しています。

後継者不足問題とは

 人口減少社会を迎えた日本は、地域経済の担い手が減っています。特に中小企業は経営者の高齢化が進んでいます。日本の約360万社の99%は中小企業でかつては、経営者の家族が事業承継することが一般的でしたが、会社の売り上げの低迷や人手不足だけでなく、ライフスタイルや価値観の変化など様々な要因で、家族が継ぐことをあきらめるケースも目立っています。

 休廃業や解散した企業は新型コロナの影響もあって、年3万件から4万件台へと年々増加傾向にあります。事業は優良でも、後継者がいないため廃業を考えざるを得ない場合もあります。

 中小企業の後継者不足は長年社会課題として指摘されながらも、なかなか改善できない状況が続いていました。

国の主な対策

 中小企業庁は2017年、中小企業経営者の高齢化が進むなか、今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とする「事業承継5ヶ年計画」を作りました。事業を次世代に引き継ぎつつ、後継者がベンチャー型事業承継などの経営革新などに取り組みやすい環境を作ろうとしています。政策への是非はあるものの、現在、次の5つのポイントに取り組んでいます。

  1. プッシュ型の支援で事業承継ニーズの掘り起こし
  2. 経営改善の取組を支援し後継者が継ぎたくなるような環境を整備
  3. 事業引継ぎ支援センターや小規模M&Aマーケットを整備
  4. 事業からの退出や事業統合をしやすい環境の整備
  5. 経営人材の活用