若手の早期離職を減らすには?防げる離職の特徴とコミュニケーション方法
せっかく時間とお金をかけて若手社員の採用に成功しても、新卒で入社した社員の約3割は、3年以内に離職してしまいます。実際に離職経験を持つ方への取材などから見えてきた理由をもとに、離職を防ぐための対策を解説します。
せっかく時間とお金をかけて若手社員の採用に成功しても、新卒で入社した社員の約3割は、3年以内に離職してしまいます。実際に離職経験を持つ方への取材などから見えてきた理由をもとに、離職を防ぐための対策を解説します。
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社員数60名ほどの建築会社に施工管理として就職したOさん(仮名)は入社早々、会社に対して違和感を持ちました。
「社内はいい人が多く、明るい雰囲気で、辞めた今でもいい会社だと思っています。ただし、部長が『残業する人を評価する』点は、どうしても納得できませんでした」
Oさんは残業を嫌がっていたわけではありません。現場の監督が終わってから会社に戻って書類仕事をするので、どうしても残業が発生します。
「その分、残業代も出ますし仕事そのものは好きでした。ただ、部長が残業の多い社員を『がんばっている』『やる気がある』とみなしていた点に納得がいきませんでした」
優秀で仕事をテキパキ進め、他の人より残業の少ない先輩はあまり評価されず、書類仕事そっちのけで無駄話をして、わざわざ日曜日に出社する人は「仕事最優先でやる気がある」と評価される。
「ムダな残業するのは性に合わない自分もここでは評価されないだろう」とOさんは次の仕事を探したそうです。
Kさんが新卒で入社したのは、電子部品メーカーのS社。約2年間営業事務として働きました。
「就職活動の時に、特にこれといってやりたいことが見つからなくて。S社は自社製品の品質にこだわりを持っていると聞いて『この会社なら誇り持って働けそう』と感じて入社を決めました」
残業もほとんどなく、社内の雰囲気も落ち着いていて、働きやすい会社だったとKさんは言います。ところがある時、「周りの先輩たちが、自分とたいして変わらない仕事をしている、と気づきました」。
一般職として入社したKさんは基本的に異動ができず、5年後も10年後も同じ仕事を続けることになり、給与もあまり上がりません。「それでは成長していないも同然ではないか」と感じたKさんは、入社2年目の終わりまでに会社を辞めようと決意し、実行しました。
厚生労働省が公表している「新規学卒者就職率と就職後3年以内離職率」(PDF形式:288KB)によると、3年以内に離職する新卒者の割合は大卒で32.8%、高卒で39.5%(いずれも2017年3月卒業者が対象)にものぼります。
ここ30年ほどのグラフを見ると、大卒は23.7%~36.6%。高卒は35.7%~50.3%の間で推移していて、どちらもグラフの形はほぼ同じです。つまり、特に最近の若手の離職率が高いわけではなく、景気などに左右されていることがうかがえます。
ただし、厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、事業規模(従業員数)が小さいほど離職率が高くなり、99人までの会社は大卒の40.1%、高卒の46.5%が3年以内に辞めています。
若手層の退職理由については、2018年8月に労働政策研究・研修機構(JILPT)が22~33歳の早期離職者を対象に実施した調査結果があります。
男性の1位は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」、2位は「賃金の条件がよくなかったため」、3位は「キャリアアップするため」、4位は「肉体的・精神的に健康を損ねたため」、5位は「人間関係がよくなかったため」となっています。1位、2位は「予想通り」と感じた方が多いのではないでしょうか(なお、女性は「結婚・出産のため」が1位となっているため、ここでは男性のみのデータに着目しています)。
注目したいのは3位と5位の理由です。例えば3位の「キャリアアップするため」に転職しなくても、今勤務している会社でキャリアアップを目指すという道もあるはずです。5位の「人間関係がよくなかったため」も、何らかの働きかけ次第では改善できそうです。こういった「防ごうと思えば防げる」離職を防ぐためにはどうすればいいでしょうか。
Oさんは「会社が『実力や成果を正当に評価する』というメッセージを発してくれたり、当時の上司が考えを改めてくれたりしたら、転職しなかったと思う」と話していました。Kさんも、「もし他の部署に異動できるなど、自分自身がもっと成長できる環境があったら、会社を辞めなかったと思います」。
つまり、こういった「離職意思の芽」を早めに摘みとって若手の早期離職を防ぐためにも、日ごろからしっかりとコミュニケーションを取ることが大切です。
若手の早期離職を防ぐ狙いで、多くの企業が取り入れているのが「1on1(ワン・オン・ワン)」のミーティングです。日ごろから部下が会社や仕事についてどう思っているのかを感じ取り、「離職意思の芽」になりそうなことに気づく時間として活用できるからです。
すでに取り入れている中小企業も少なくないかもしれませんが、単に上司が部下の課題を指摘するだけの時間になっているケースもあるようです。それでは若手社員は心を開いてくれるどころか、ますます何も言えなくなってしまいます。
大切なのは、「他の社員に聞かれないような場所で行うこと」「上司が部下の話を聞くこと」です。オープンスペースでは、部下が本音を話しづらくなります。また、上司が言いたいことを話すのではなく、部下の話したいことをじっくり聞く姿勢に徹することが重要です。
Oさんの場合、課長との1on1ミーティングは満足度が高かったといいます。「週1回のペースで、現場のちょっとしたトラブルなどについて親身に聞いてくれ、ずいぶん気が楽になりました」。もちろん、部長の評価に対する姿勢についても話して、課長は理解を示してくれたといいます。
とはいえ、課長から部長に対して意見はしにくい面もあるでしょう。直属の上長が面談するだけでなく、中小企業であれば経営陣など上層部が直接若手と話す時間を設けて、不満などを聞くことも必要です。若手が辞めやすい傾向が強い中小企業ほど、意思疎通のしやすさを生かしてコミュニケーションを密に取ることが、早期離職を防ぐ大きな手立てになるのです。
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