店舗経営に欠かせない財務諸表とは 公認会計士のラーメン店主が解説
財務諸表(決算書)は、売り上げの予測とコスト管理、利益確保に欠かせません。参入障壁が低く始めやすい一方で、競合するお店が多くて固定費もカットしにくく継続が難しい飲食業の経営事例をもとに公認会計士が基礎から解説します。
財務諸表(決算書)は、売り上げの予測とコスト管理、利益確保に欠かせません。参入障壁が低く始めやすい一方で、競合するお店が多くて固定費もカットしにくく継続が難しい飲食業の経営事例をもとに公認会計士が基礎から解説します。
目次
数字がわからないと経営はできない――。こんな言葉を聞いたことはないでしょうか。
筆者である石動龍は公認会計士・税理士・司法書士・行政書士事務所を経営し、中小企業経営者の相談に乗っているかたわら、10月1日に八戸市公会堂内でラーメン店「ドラゴンラーメン」をオープンしました。ほぼ毎日11~14時、厨房に立ち、店主として店を切り盛りしています。
よく、「ラーメン大好きで店を出したんですか?」と聞かれますが、そうではありません。月に2~3回食べる程度です。昔からラーメン店経営は面白そうだと思っていたところ、店舗が空くなどのタイミングが合ったので始めました。リスクの高いビジネスを経営してみたかったという思いもあります。
本業の士業はコストもあまりかからないため、リスクは相対的に小さいビジネスです。一方で、ラーメン店を含む飲食店は、始めやすいので参入障壁が低いのですが、既存の人気店など競合が多く、人件費や家賃などの固定費はカットしにくく、材料は短い間に腐ってしまう、という難しい面をいくつも抱えています。継続するには難易度の高い商売です。
ドラゴンラーメンは月~土曜日の11時~14時まで営業、日曜は定休日です。10月の売上は約140万円、営業日は27日でした。もっとも多かった日の売り上げは約11万円、もっとも少なかった日は約2万5千円と、同じ場所と時間でありながら、大幅な変動があります。
主な固定費は店舗家賃です。水道代、電気代、ガス代、アルバイト人件費も変動が小さいため、固定費として管理をしています。固定費の合計は毎月50~55万円ほどです。
材料費などの変動費と固定費を売上から引くと、売上が想定通りであれば、毎月20~30万円ほどの利益が残る計算です。
店がオープンしてから1カ月が経ちました。日常的に飲食店を含むたくさんの財務諸表をチェックしており、イメージはできていたものの「見る」と「やる」ではまったく違うことが改めてわかりました。
経営してみて、「リスクの高いビジネスを行う中小企業は少しの要因で簡単につぶれる」ということを実感しています。
天候や曜日、近隣イベントなどのデータを記録しているものの、正確な客数の予測は簡単ではありません。仕込み数量を間違えるとロスにつながり、損失が出てしまいます。しっかり売上予測とコスト管理を行い、利益を確保することが安定経営の第一歩です。
ドラゴンラーメンでも、予兆なく前日より売上が大幅に落ち込むことが何度かありました。そのたびに翌日以降の仕入を抑えるなどの対応を取りました。
数字を管理していたために早期に対策を実行できたケースとして、以前紹介した株式会社イロモアのケースがあります。コロナウイルス感染症の影響で来店者が激減した際、銀行から融資の打診をされながらも廃業を選択し、取引先や従業員へのダメージを最小限に抑えることができました。経営者の福井さんも自己破産を免れることができ、すでに新たな会社を設立して再出発しています。
ラーメン店を経営してみて「数字は経営の羅針盤」であると改めて感じています。数字をよく把握せず経営を行う「どんぶり勘定」では、状態がよいときは問題なくても、経営状態が悪化した際には、適切な対策を行うことは難しいでしょう。
今年は新型コロナウイルス感染症の影響で多くの会社が危機に陥りましたが、経営状態を正しく把握できていた会社ほど、正しく早く対応ができたことは間違いありません。
それでは、経営に関してどのように「数字」を管理すれば良いでしょうか。
法人でも個人事業主でも、ビジネスを経営していれば税務申告が義務付けられています。法人の場合は法人税、個人の場合は所得税と、制度の違いはありますが、税務申告する上でも基礎資料となる「財務諸表」(決算書)を経営者が作成します。
経営者が帳簿の残高を確定し、経営成績をまとめることを「決算」といいます。そして、その時に作成するものが財務諸表です。
財務諸表を分析すると、負債や未収金などの残高や、本業による利益が詳細にわかるため、経営方針の決定に役立ちます。
財務諸表のうち、特に重要なものが「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュ・フロー計算書」で、これらを「財務三表」と呼びます。このうち「キャッシュ・フロー計算書」は上場企業などでは作成が義務付けられていますが、会社法の計算書類には含まれませんので、作成していない企業も多いと思います。
財務諸表は、取引を借方と貸方に分け、双方に同じ金額を記録する「複式簿記」に基づいています。仕訳から始まる一連の会計業務の結果が財務諸表で、「数字」とは財務諸表など会計に関する書類を指すことが一般的です。
貸借対照表は、作成時点における企業の資産、負債、純資産の状態を表す書類です。
一言でいうと、手持ちの財産とこれから払う未払金や借入金などをまとめて一覧にしたもので、財政状態がわかるようになっています。
損益計算書は、企業のある一定期間における収益と費用を集計したものです。利益が出たのか、損失が出たのか、経営成績を把握するための書類です。売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益などの各段階で利益がわかるようになっており、経営判断に役立ちます。
キャッシュ・フロー計算書は、一定期間における資金の増減を営業活動、投資活動、財務活動に区分して表示する書類です。企業にどのようにお金が入ってきて、何に使ってお金が減ったのかがわかります。
会計と一口にいっても、目的と報告先によって内容は異なります。会計は大きく分けて「財務会計」と「管理会計」に分かれます。
財務会計とは、投資家・債権者・税務署などの利害関係者に対して、企業の企業財産の状況や会計期間でどのぐらいの利益が出たかを報告するための会計を指します。財務諸表の作成は、財務会計に属しています。
管理会計とは、経営者の意思決定や業績評価に役立てることを目的とした社内向けの会計と言えます。計画と結果を比較して経営改善を図るための「予算管理」や、目標と実際にかかった原価を比較して改善するための「原価管理」などが代表例として挙げられます。
粗利、営業利益、キャッシュ・フローなど、会計用語は慣れていない人にとっては少しとっつきにくいかもしれません。これからの連載では、ラーメン店という身近な存在を通して、会計に関する一般知識をわかりやすく説明します。
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