2020年1~9月の件数は2013年以降最多

 金融機関が企業の存続可能性を判断する上で、中小企業の後継者の有無は、業績や財務状況と同じくらい重要な要素となっています。しかし、2020年1~9月の「後継者難」の倒産は278件と、前年同期の1.5倍となりました。年間最多を記録した2015年の279件を上回ることはほぼ確実で、集計を始めた2013年以降、最多となる見込みです。

2013年以降の後継者難倒産の推移(いずれの年も1~9月で比較)。2020年1~9月の「後継者難」の倒産は278件と、前年同期の1.5倍だった。
2013年以降の後継者難倒産の推移(いずれの年も1~9月で比較)

 東京商工リサーチによると、リーマン・ショックや東日本大震災後の中小企業の支援策で企業倒産は抑えられていましたが、2019年は人手不足による人件費上昇などが収益を圧迫し、倒産は増加に転じました。

 2020年、新型コロナの感染拡大の経済的なダメージが広範囲に及んでいますが、政府の支援策により10月時点までのデータを見る限り、企業倒産が抑えられています。しかし、「後継者難」倒産に限ると増えています。これは、経営者の高齢化に加え、これまで何とかして事業を続けてきたけれど新型コロナをきっかけに事業意欲が低下してしまい、事業を閉める決断をした可能性があります。

代表者の「死亡」と「体調不良」が7割超

 調査では、代表者などの「死亡」と「体調不良」の合計が7割超となりました。代表者が死亡や体調不良に陥ると、代わりがおらず事業を継続できないリスクが明らかになっています。東京商工リサーチは「中小企業では、代表者が営業や経理の責任者を兼務することが多く、後継者候補などブレーンも育ちにくい要因にもなっています」と指摘しています。

「後継者難」倒産の要因は、代表者などの「死亡」と「体調不良」の合計が7割超
「後継者難」倒産の要因

業種別では建設業、製造業、卸売業と続く

 産業別にみた「後継者難」倒産は、建設業が62件で最多でした。卸売業49件、製造業46件と続きました。一方、金融・保険業は、2018年同期以来、2年ぶりにゼロでした。

産業別にみた「後継者難」倒産は、建設業が最多で、卸売業、製造業が続く
「後継者難」倒産の産業

倒産を回避する解決策

 経営者の高齢化がすすむなかで、事業を継続させるには後継者が必要です。大きく分けて親族や従業員に承継するパターンと、M&Aなどを通じて第三者に承継するパターンがあります。それぞれのメリット・デメリットを解説します。

親族や従業員に承継するメリット

 親族や従業員が事業を引き継ぐ場合は、あらかじめ周知しておくことで社内外に協力や理解を得て、企業文化を維持したまま事業を継続しやすくなります。承継時の税負担を軽くするため、事業承継税制や事業承継補助金を活用することもできます。また、経営者の個人保証に頼った融資制度も見直しが始まっています。

親族や従業員に承継するデメリット

 親族や従業員に事業を引き継ぐ場合でも適任者がすぐ見つかるかどうかわからず、育成にも時間がかかることに注意が必要です。そのため、経営体力の残っているうちから準備することが欠かせません。

 会社の株式がほかの親族に分散しているときは、相続争いにならないようきちんと配慮と種類株式を活用するなど対策が必要です。

第三者承継のメリット

 最近、事業承継のなかで割合が増えつつあるのが、第三者承継です。周囲に会社を継ぐ人がいない場合でも、従業員の雇用や取引先との関係を守ることにつながります。

 さらに、M&Aなどを活用すれば、現経営者に売却益がもたらされる可能性もあります。M&Aのマッチングサイトを活用するほか、国が全国に設置し無料相談できる「事業引き継ぎ支援センター」もあります。M&Aサイトに仲介をお願いしつつ、事業引き継ぎ支援センターをセカンドオピニオンとして活用することもできます。

第三者承継のデメリット

 M&Aを活用する場合、相談料を無料とする会社が増えていますが、様々な手数料が課される可能性がありますので、事前に確認することをおすすめします。また、売りに出したからといって、必ず買い手が見つかるわけではありません。きちんと自社の強みを明確にする必要があります。

事業承継に必要な「磨き上げ」

 いずれも事業承継の方法にせよ、大切なことは「継ぎたい」と思えるよう「磨き上げ」が必要です。中小企業庁が作成した事業承継ガイドラインでは、次のように書いています。

 近年の親族内承継の大幅な減少の背景には、事業の将来や経営の安定について、親族内の後継者候補が懐疑的になっていることなどが挙げられている。こうしたことからも承継前に経営改善を行い、後継者候補となる者が後を継ぎたくなるような経営状態まで引き上げておくことや、魅力作りが大切である。

事業承継ガイドライン<PDF形式:4.49MB>

 本業の競争力を強化するためには「強み」を作り「弱み」を改善する取組が必要となる、と紹介しています。たとえば、技術力を活かした製品の高精度化・短納期化、人材育成や新規採用などを通じた人的資源の強化などを挙げています。

 ガイドラインは、競争力の強化に向けて「経営力向上計画」をつくり、実行することを勧めています。申請書をつくるときは、財務状況の分析ツール「ローカルベンチマーク」を使うと便利です。

 「磨き上げ」の対象は、業績改善や経費削減にとどまりません。商品やブランドイメージ、優良な顧客、金融機関や株主との良好な関係、優秀な人材、知的財産権や営業上のノウハウ、法令遵守体制などが強みになります。事業承継後に後継者が円滑に事業運営を行うことができるよう、事業承継前に経営体制の総点検をしましょう。