目次

  1. 企業の過去を示す6つの財務指標
  2. 業務フローや商流を再確認
  3. 企業の可能性を示す4つの視点
  4. ロカベンで地域経済の持続を
  5. 低い認知度、高い潜在ニーズ
  6. ロカベンを活用した製造業の事例
  7. ロカベンで見つけた2つの課題
  8. 事業承継のタイミングとマッチ

 「ローカルベンチマークは、地域の企業が自社の経営を現状分析するためのツールです」。経済産業省産業資金課の浅野裕加里さんは、こう話します。

 ローカルベンチマークは3枚のエクセルシートに分かれ、それぞれ、企業と金融機関などの支援者がコミュニケーションを取りながら作成していきます。

ローカルベンチマークには、実際のデータに基づき財務情報を記入します(出典:経済産業省作成2018年5月改訂版・ローカルベンチマークツール)

 最初に取り組む1枚目のシートには、財務情報を記入します。企業の過去の姿を示すもので、具体的には以下の6つの指標になります。

①売上増加率(売上持続性)
②営業利益率(収益性)
③労働生産性(生産性)
④EBITDA有利子負債倍率(健全性)
⑤営業運転資本回転期間(効率性)
⑥自己資本比率(安全性)

 各指標について、3期分の経理データを書き込んでいきます。では、どのように点数化されるのでしょうか。浅野さんは「各指標では全国10万社の経理データをもとに、同業種・同規模企業の中央値を3点として、自社の指標が0〜5点で評価されます。4点以上なら同業種・同規模の他社より良い評価ということになります」と話します。

財務分析結果はレーダーチャートや総合評価で可視化されます(出典:経済産業省作成2018年5月改訂版・ローカルベンチマークツール)

 最終的には、各指標がレーダーチャートで可視化されます。各指標につけられた点数の合計点に基づき、財務情報がA〜Dというランクで自動的に総合評価されます。「良い評価となった指標が多いと、最終的に総合評価でAかBがつきます。当然、ランクが高いと財務上は倒産の可能性は低く、企業経営もしっかりしているということになります」

 2枚目のシートは自由記述となります。まず自社の業務フローと他社との差別化ポイントを分解しながら整理します。例えば、「商品企画→商品開発→製造→デザイン→販売」といったフローに分け、各段階で分析を加えます。

商流・業務フローの記載例(出典:経済産業省作成のローカルベンチマーク「参考ツール」利用マニュアル)

 さらに仕入先や協力先、得意先、エンドユーザーといった自社を取り巻く事業者との商流を改めて確認します。経済産業省のマニュアルでは、確認のポイントを「仕入れ先は強固な調達基盤となっているか、協力先とどのような関係か、販売先は集中しているのか、エンドユーザーは誰かなど、取引関係の強みや課題を確認する」などとしています。

 最後のシートで扱うのは非財務情報です。企業の現在の姿を映して将来の可能性を評価するもので、以下の4つの視点に分けて、自由記述で書き込みます。

①経営者
②事業
③企業を取り巻く環境・関係者
④内部管理体制

企業の可能性を示す4つの視点の記載例(出典:経済産業省作成のローカルベンチマーク「参考ツール」利用マニュアル)

 視点ごとに評価項目があります。例えば、「経営者」では現経営者のビジョンや意欲だけでなく、後継者問題も見据えて、後継者の有無、事業承継のタイミングなどについても整理します。「事業」では強みや弱みに加え、ITに関する投資についても書き込みます。

 「企業を取り巻く環境・関係者」では、市場規模やシェア、競合他社との比較、従業員定着率、取引先金融機関との関係などがあります。「内部管理体制」では、組織体制や研究開発の体制、人材育成などについて振り返ります。

 最後にそれらを総合して、現状認識と将来目標とのギャップを浮き彫りにして、課題と対応策を導き出すのがゴールです。 浅野さんは「経営者は常にこの4つの視点を持つことで、事業の課題を把握でき、対処方針を考えながら経営できるのではないでしょうか」と話しています。

 経済産業省がローカルベンチマークを開発した背景には、「急激な⼈⼝減少が始まっている地域経済を持続させるためには、地域の企業が付加価値を⽣み出し、雇⽤を創り続けていかなければならない」という考え方がありました。

 浅野さんは「2015年にローカル・アベノミクスという言葉が生まれ、地域企業の経営支援をしていくために参考となる評価指標・評価手法を作ろうと、ローカルベンチマークの検討が始まりました。各機関で使われている分析手法等を参考にして、企業の実態を把握するために押さえておくべき基本要素を抽出しつつ、改めてそれぞれの指標や手法の意義や有効性を検証しました」と振り返ります。

 経済学者の村本孜氏を座長に、日本商工会議所、⼀般社団法⼈中⼩企業診断協会、⼀般社団法⼈全国地⽅銀⾏協会などと協力しながら、3枚のシートに必要なエッセンスを凝縮しました。

 ローカルベンチマークは2016年から活用が始まりました。経産省が2018年度に1万社を対象に行ったアンケートでは、ローカルベンチマークの認知度は13.5%にとどまりました。それでも、初めて知ったという企業に利用の意向を確認すると、「自社の経営分析に使うことを検討してみたい」という回答が51.2%になりました。潜在ニーズの高さがうかがえます。

 浅野さんは「中小企業の方は、経営の振り返りをする時間もなくやり方もわからないという場合もあるかと思います。しかし、そのような企業にこそ、一度立ち止まってローカルベンチマークに取り組んでいただきたいです」と強調します。

 「経営者に気づきを与えるのがローカルベンチマークの最大の特徴です。中小企業は、資金繰りを繋いで1週間後、1カ月後までなんとかがんばる、という状態に陥ってしまう場合もあります。でも、自社の事業を見つめ直して中長期的な展望を抱けば、企業として強くなれます。また非財務情報も含めて、自社をしっかり把握・分析できていれば、コロナ禍のような危機時にも、どのように対応すれば良いかのヒントになるはずです」

 ローカルベンチマークを使う場合は、何から手をつければいいのでしょうか。

 「おつきあいのある金融機関や税理士、中小企業診断士といった専門家の方は、作成の相談に乗ってくれるでしょう。支援してくださる方々と一緒に事業を振り返ることは、お互いを理解し、より良い経営を目指すきっかけになるはずです」

 実際に、ローカルベンチマークを活用した企業にはどんなメリットがあったのでしょうか。半導体製造装置及び周辺機器・部品の売買、改造、修理、再生、保守を行う株式会社コーテック(東京都千代田区)の事例を取材しました。

 同社は1992年に設立。従業員数は20人、売上高は9億5000万円の中小企業です。半導体製造装置のメンテナンスから始まり、再生や部品の売買へと幅を広げてきました。ただし、業績は悪化傾向。2017年に、ローカルベンチマーク作成に取り組みました。

 当時常務だった関口政賀津社長には「今後の経営のために何かをやらなくては」という気持ちがあったといいます。ローカルベンチマークに出会ったきっかけは、税理士法人の担当者からの提案でした。

コーテックは半導体製造装置の 修理や再生、保守などを手がけています(同社提供)

 同社を支援する税理士法人報徳事務所の倉澤芳弥さんは「今後、中小企業にはこういった考え方が必要だ、との視点から活用を提案しました」と言います。

 ローカルベンチマークの作成から終了まで3カ月をかけました。まずは、営業技術、購買業務、装置技術の3部門それぞれで独自に作成。次に全社会議で各部門が発表する機会を設け、最終的に1つにまとめました。

 2019年12月に事業承継した関口社長は「我々のような零細企業は、こういう取り組みに慣れていないので、事業の振り返りと言ってもどうやっていいかわかりませんでした。税理士事務所の皆様にご指導をいただきながら、少しずつ進めていくことができました」と話します。

 現状認識を行う中で、取引先との人脈や顧客との密接な関係、半導体製造装置に関する改善提案・アイテムの提供、または自社製品のリピート率の高さという、強みが見えてきました。一方で「新分野、新アイテムの開発」「若手社員の育成」という2つの課題も浮き彫りになりました。

コーテックが開設したつくばテクノロジーセンター(コーテック提供)

 まず、新分野の開拓に関しては即戦力人材を採用するという解決策で、受注獲得を目指すことになりました。社内で装置の設計・制作を行えるようになり、2020年4月にはつくばテクノロジーセンターの開設にもこぎ着け、新規受注ができるようになりました。

 若手社員の育成は難問でした。募集はしたもののいい人材に巡り会わず、伝手を頼ってベトナム人3名、韓国人1名を採用しています。ただし、主力となる社員の年齢は50代半ば。人脈や技術を若い世代に引き継ぐことに関しては、模索が続きます。

 関口社長はローカルベンチマーク作成のメリットをこう話します。「一度立ち止まって経営を見直すことができました。日々の業務を優先したために放置してきた問題点が明らかになり、次に何に取り組むべきかを決められました。経営層や従業員の意識を、一つにまとめることができたのも収穫でした」

 関口社長はちょうど先代の創業社長・田母神純一さん(現取締役会長)との事業承継を控えて、新たな体制を作るべき時期でした。ローカルベンチマーク作成のタイミングも良かったと感じています。

 同社を支援した倉澤さんも「ローカルベンチマークを作成したことで互いに進むべき方向が見え、一緒に歩んでいるという感覚がより強く持てるようになりました。今では、数字を見ていても、社員のみなさんの顔が浮かぶほどです」と言います。

 現在は両者で話し合いながら、ローカルベンチマークを2020年バージョンにブラッシュアップしている最中です。この3年間で状況がずいぶん変わりました。会社の強みと弱みを見直して、さらなる今後の目標と課題を見いだそうとしています。