目次

  1. 経営力向上計画とは
  2. 計画の認定で多様な優遇措置
  3. 申請に向けた手順
  4. 経営基盤の強化にもなる経営力向上計画

 「経営力向上計画」「経営革新計画」「先端設備等導入計画」…。並べるとよく似た名前の制度がたくさんあります。ですが、どれも内容は違います。今回、紹介する「経営力向上計画」は、人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資など、中小企業などが作った経営力を向上させるために実施する計画です。

 経営力向上計画とは、たとえば製造業であれば、「工程設計の技能と知見が特定の従業員の暗黙知となっている」といった課題に対して、「マニュアル作成による暗黙知の共有」「ITツールの導入」といった改善策を提示していくことが「経営力向上計画」です。

経営力向上計画策定の手引き

 計画の認定を受けると、様々な優遇措置を受けられます。優遇措置を税制、金融、法律という3つの側面からご紹介します。

①税制支援で即時償却のメリット

 税制支援として、認定計画に基づき取得した一定の設備や不動産について、法人税や不動産取得税等の特例措置を受けることができます。

 青色申告書を提出する①中小企業者等が、②指定期間内に、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき③一定の設備を新規取得等して④指定事業の用に供した場合、即時償却又は取得価額の10%(資本金3000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選択適用することができます。

 中小企業投資促進税制よりも有利な要件になっているため、新規設備を取得する場合で、多額の課税所得が発生する状況であれば、メリットは大きくなります。中小企業者の定義や一定の設備の条件については、認定支援機関に相談するか、中小企業庁の「パンフレット」で確認してください。

 そのほか、事業承継で土地・建物を取得する場合、登録免許税・不動産取得税の軽減措置を受けられる可能性があります。

②金融支援で別枠での信用保証

 経営力向上計画が認定された事業者は、日本政策金融機関の低利融資や民間金融機関の融資に対する通常とは別枠での信用保証などを受けることができます。

 日本政策金融公庫による融資のうち、設備資金については、基準利率から0.9%引下げの条件で借入を行えるため、新規設備導入の予定がある場合は、計画の申請を検討してもよいでしょう。

③法的支援で許認可の引き継ぎ

 事業承継等を含む経営力向上計画の認定を受けた場合は、旅館業や建設業など、一定の事業の許認可を引き継ぐことができます。ほかにも、事業譲渡の際の免責的債務引受けの特例などの措置を受けられます。

手順1「申請書と手引きを確認」

 それでは、申請に向けた手順を説明します。申請書様式は原則として、申請書と別紙をあわせて4ページに収まります。計画の作成は難しくありません。企業の概要、現状認識、経営力向上の目標および経営の向上の程度を示す指標、経営力向上の内容などを記載してください。添付書類も多くありません。
 審査料等もかからず、メリットは多いのですが、利用がまだ一般化していません。有利な支援を受けられる場合は、申請を検討するとよいでしょう。手引きや申請書は中小企業庁のサイトにあります。

申請書様式

 公認会計士や税理士などが登録している「認定経営革新等支援機関」(認定支援機関)の関与は必須ではありませんが、支援を受けることもできます。

 「経営力向上計画」は、「経営革新計画」「先端設備等導入計画」と重複して申請することもできます。認定支援機関と相談して、事業計画と受けたい支援に応じて制度を選択してください。

手順2「計画づくりへ業種と指針を確認」

 経営力向上計画は、中小企業者等が作成した経営力を向上させる事業計画を、国(事業分野別の主務大臣)が認定する制度です。事業を所管する大臣は事業分野ごとに指針を策定しています。

 申請には、計画書に事業分野を書く必要があります。まず自社の事業分野を政府のサイトにある「日本標準産業分類」で確認してください。

 事業分野ごとに大臣が策定した指針は、中小企業庁のサイトに掲載されています。認定を受けるには、この指針を踏まえて計画を作る必要があります。労働生産性など、各種指標の数値目標が設定されていることもありますので、内容を確認しましょう。

製造業の場合

たとえば、製造業に係る経営力向上に関する指針では、次のような課題と経営力向上に向けた指針が書かれています。

■現状の課題

  1. 実際原価を把握できず、想定した利益が出ない場合が多い
  2. 工程設計に関する技能と知見が特定の従業員の暗黙知となり、共有されていない
  3. 海外顧客との意思疎通および配送の体制が整備されていない

■課題に対する経営力向上の内容

  1. 従業員の多能工化および機械の多台持ちの推進
  2. 実際原価の把握とこれを踏まえた値付けの実行
  3. 異なる製品間の部品や原材料等の共通化
  4. マニュアル作成などによる暗黙知の共有
  5. ロボットおよびITツールの導入

手順3「経営力向上計画づくりと認定」

 申請書をつくる場合は、経営力向上計画策定の手引きの申請様式の記載方法が参考になります。

手引きに記された記入例

手順4「提出書類と申請先」

 申請に必要な書類は次の通りです。 

  • 申請書(原本)
  • 申請書(写し) ※ 都道府県に提出する場合に限ります。
  • チェックシート
  • 返信用封筒(A4の認定書を折らずに返送可能なもの。返送用の宛先を記載し、切手
    (申請書類と同程度の重量のものが送付可能な金額)を貼付して下さい。)

 申請先は、中小企業庁のサイトにある「3-4.事業分野と提出先」から自分に合うところを見つけてください。

 申請方法は次の通りです。紙での申請か、電子申請は2通りあります。

 電子申請は、いつでも申請できるなど手続きコストの削減が見込まれます。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、今後は電子申請の利用はより加速するでしょう。「経営力向上計画」の申請を機に、アカウントを作成するなど、今から準備を進めておきましょう。 

申請から認定までの期間

 中小企業庁は、標準的な手続きの期間は30日かかると公表しています。計画に書かれた事業分野が複数の省庁の所管にまたがる場合は45日かかります。申請書に不備がある場合は、申請の差戻しが出て、手続時間が長期化するかもしれません。余裕を持った申請をおすすめします。

 少子高齢化による消費低迷や人手不足、国際競争の激化など、ただでさえ厳しい状況に新型コロナウイルス感染症の影響が加わり、中小企業を取り巻く事業環境は激変しました。

 日本企業の大半である中小企業を支えることは、日本経済の持続的発展と従業員の安定的雇用に密接に関係します。そのような状況において、「中小企業等経営強化法」は、中小企業の共通課題である生産性向上を果たす目的で施行されました。

 この法律に基づいて、事業を所管する大臣は事業分野ごとに成長するための指針を策定しています。中小企業は指針に沿って人材育成、コスト管理の体制強化、設備投資など、経営力を向上させる取り組みをまとめた事業計画を作成し認定を受けることが、「経営力向上計画」の制度です。

 似たような名称の制度は多いものの、要件と支援内容は異なります。自社の状況と今後の事業環境をもとに成長戦略を立案し、賢く制度を利用してはいかがでしょうか。