ベンチャー型事業承継とは

 ベンチャー型事業承継とは、若手後継者が家業の経営資源を活用し、新規事業、業態転換、新市場参入など、新たな領域に挑戦することで社会に新たな価値を生み出すことを指します。国の政策にも「ベンチャー型事業承継」が盛り込まれています。

 「ベンチャー」という言葉を使っていますが、山野千枝代表理事は「新規株式公開(IPO)やM&Aではなく、地域に根を張り、企業永続のために、小さな挑戦を重ねること」が活動方針だと話します。そんな思いを、サイトで以下のようにつづっています。

アトツギには、先代から受け継ぐベースがある。
これは確かにアドバンテイジだ。
でも「ゼロから立ち上げたほうがよっぽど楽!」
と思う方が多いのが現実。
それでもアトツギには会社を存続させていく使命がある。
美学がある。
あんなこともこんなことも
いっさいがっさい受け入れて
世の中に必要とされる会社であり続けるために
そして自分自身の人生にワクワクするために
家業でイノベーションを起こすんだ。
アトツギよ、Go beyond borders!

一般社団法人ベンチャー型事業承継

活動は全国展開、ターゲットは野心系

 活動の一つが、オンラインサロンです。すでに家業に入っている人、家業にはまだ戻ってないけれど何か新しい挑戦をしたい人、家業の経営資源を活用してビジネスを起こしたいと思っている人が入会できます。実際に集まって、新規事業アイデアに対し意見ももらう「壁打ち」というミートアップも開催してきました。

壁打ちミートアップ
新型コロナウイルスの流行前に開催されたベンチャー型事業承継による「壁打ちミートアップ」

 ただし、入会に求められるのは、34歳未満で、新しい挑戦で家業や地域経済を変えたいと考えている「野心系」であること。2020年1月現在で約290人が参加。新型コロナウイルスの影響で地域経済に深刻な影響が出ているなかでも、自分たちでできる挑戦について活発に議論しています。

 もう一つの活動の軸が、さまざまな企業・団体からの依頼を受けて、全国で展開している教育プログラムです。アイデアをマラソンのようにどんどん出し合う「アイデアソン」や事業計画を発表する「ピッチイベント」だけでなく、事業化に向けたメンターの紹介など、各地域で後継ぎのコミュニティが根付くような支援も進めています。

 2019年12月には東京・渋谷で、近畿経済産業局などとともに、家業を継ごうか迷っている人などに向けて、後継ぎのリアルな姿を知ってもらうためのイベントを企画し、全国各地から参加者が集まりました。

2019年12月に開かれたイベント
2019年12月に開かれたイベント

 この日登壇した一人が、大阪府柏原市のブドウ園「葡萄のかねおく」の後継ぎ、奥野成樹さん(33)です。

 奥野さんは大学卒業後、海外事業の多い車載機器メーカーに就職。「ぜったい継がない」と決めていたはずのブドウ園に戻ってきたのは2011年に起きた東日本大震災がきっかけだったそうです。

 当時、福島県いわき市の事務所に勤めていました。県内では、たくさんの人が被災し、故郷を追われました。一方で「故郷のために働きたい」と、地元出身の若者が東京から戻ってきて起業し始めました。

 そんな同世代の背中に刺激を受けました。

 家業に戻ることを父に相談すると「ぜったいやめろ」と大反対されました。儲からない、将来がないというのが理由でした。無理やり戻ってきた後も対立は続きます。父に提案しても、論理ではなくこれまでの経験をもとに一蹴されることもあり、仕事以外では事務的なことしか話さないようにしていたそうです。

 しかし、仕事を続けているうちに、口には出しませんが少しずつ認められるようになってきました。1年前に仕事用の軽トラを新車に買い替えてみたり、育てる体験を提供するオーナー制度のアイデアが新規事業コンテストで表彰されると「……おめでとう」とぼそっとつぶやいてみたり。

 現在は、収入源の多様化を目指し、このオーナー制度に力を入れています。オーナーは今や100人を超え、畑には130本が育っています。新型コロナウイルスの影響でイベントは自粛していますが、オーナー向けにYoutubeを使っての農作業のやり方や、ブドウの木の成長を伝える取り組みを続けています。

ブドウのオーナーたち
ブドウのオーナーたち

 一般社団法人ベンチャー型事業承継では、こうした新たな挑戦する後継ぎを応援しています。サイトはこちら