文具店5代目は「錬金術師」 選択と集中で万年筆ファン殺到のブランド確立
万年筆と250色のインクを求めて訪れる客の平均滞在時間は3~4時間。高級万年筆を次々と仕入れ、家族が心配する「町の文具店」が岐阜県大垣市にありました。しかし、大垣ビジネスサポートセンター(Gaki-Biz、ガキビズ)は店主のこだわりに着目します。「色彩の錬金術師」とネーミングし「全国区の店主」として販路を広げています。
万年筆と250色のインクを求めて訪れる客の平均滞在時間は3~4時間。高級万年筆を次々と仕入れ、家族が心配する「町の文具店」が岐阜県大垣市にありました。しかし、大垣ビジネスサポートセンター(Gaki-Biz、ガキビズ)は店主のこだわりに着目します。「色彩の錬金術師」とネーミングし「全国区の店主」として販路を広げています。
1923年創業の「川崎文具店」は、岐阜県大垣市にお店を構える老舗文具店として、地域の方に愛されながら営業しています。10年ほど前に事業承継した5代目店主である川崎紘嗣代表取締役(44)がガキビズへ相談に訪れました。
いまでも鮮明に覚えていますが、最初の訪問は、事業のことよりもボランティアに近い市民活動についてたくさん話していました。2回目の相談は、川崎さんご夫婦で訪れ、中小企業支援家の小出宗昭氏も同席しました。
事業承継をしたタイミングで、一般文具が並ぶ20坪程度の店内の相当なスペースを、店主の趣味でもある万年筆とインクに割きました。売れるかもわからない高級万年筆を次々と仕入れる店主である川崎さんに対し、不安を少なからず感じられている奥さまが印象的で「方向性が間違っていないのか」という相談内容でした。
相談に訪れた店主の川崎さんは持参した高級万年筆やインクを広げ、一生懸命に商品を説明します。
知識がない私が聞いても「こんな世界があるのか」と感心させられるほどでした。しかし、たとえ高級であっても、どこにでもある「モノ」を売るのでは、首都圏の品揃え豊富な専門店やネット通販との差別化は難しいと感じました。
ただ、川崎さんによれば「万年筆やインクを求めて来られる客の平均滞在時間は3~4時間」だといいます。接客時間から見た販売金額は非常に効率が悪いため、一般的には「見込み客を見極め、接客時間を短くしましょう」とアドバイスされるかもしれません。しかし、私たちは違いました。
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それだけ話せる川崎さんの「知識」の量に目を付けて、ここを「売り」にする、すなわち、彼自身を川崎文具店のセールスポイントとしていくことを提案し、奥さまにも方向性に自信を持って突き抜けることを話しました。
セールスポイントである店主を最大限活かすために、店主自身のブランディングをしながら情報発信することにしました。まずは、店主の知識や技術をより具体的にわかりやすく相手に伝えられるよう、店主自身に「キャッチコピー」と「ネーミング」を付けることを提案しました。
店主の話を聞くなかで、万年筆の知識や取り扱うインクの数が多いのはもちろんですが、オリジナルインクを調合したり、事実として存在しないモノやコトを仮説立て、イメージして表現したりするという「知識だけでない創造力」に着目しました。
そして、互いに色々な案を出し合い、最終的に決まったのは、【色彩の錬金術師「インクバロン(=男爵)」】でした。町の文具屋の店主は新しい称号を手に入れて、カリスマになるべく新たに進み始めました。
次は、「ここに面白い人がいますよ」ということを知ってもらうための情報発信です。どれだけ知識があって素晴らしいことをしても、知ってもらわなければ意味がありません。
そのきっかけを作るために、店主自らがオリジナルインクを作ってきた経験を活かし、まず令和の元号で注目を浴びた「万葉集」を中心に、和歌のイメージをインクで表現するトレンドを活かした商品をつくりました。
次に、それぞれの顧客の好みに合ったインクを調合する「ひとりインクメーカー」をサービス化しました。さらに、インク250色の品揃えに加え、すべての色が試し書きできることを他店との差別化にし、「圧倒的なインクの使い手」として、各メディアへ情報発信するサポートをしました。
すると、テレビ局や新聞各社、文房具の専門誌から取材が殺到し、こぞって「色彩の錬金術師」として紹介されました。
全国の万年筆・インクファンに店主の存在が知られ、わざわざ店主に会うために全国から客が足を運ぶようになりました。その後も、継続的なオリジナルインクの開発に加え、万年筆メーカーのセーラー社と共同開発した小説「海底二万哩」をモチーフにした100本限定のオリジナル万年筆は即完売となり、「町の文具店」から「全国区の店主」として大変盛況となりました。
最近では、店主の母の出身地である関ケ原が、天下分け目の戦いから2020年で420周年を迎えました。しかし、コロナ禍でイベント中止が続いたため、関ケ原観光協会によるPRにもつながるよう、観光協会や歴史民俗学習館とのコラボレーションを提案しました。
関ケ原合戦で活躍した各武将をイメージした色を歴史民俗学習館館長に監修いただき、武将インクとして、毎月2色(武将)届けるサブスクリプション(定額制)サービス「色彩語(しきさいがたり)・古戦場関ケ原」を発売しました。歴史好きの方から発売前から予約が殺到し、新たな顧客開拓にもつながっています。
創業100年に向けて大きな構想を検討している5代目店主ですが、ブランディングされた地位を確立できたいま、自信を持って挑戦を進められるのではないでしょうか。
ブランディングと情報発信の重要性をお伝えする事例紹介でしたが、町の文具店の若き後継者が、万年筆とインクというカテゴリーに「選択」と「集中」した結果、川崎文具店は他店との差別化ができ、全国区となりました。
きっかけとなったのは、「客の平均滞在時間が3-4時間」という一言で確信した店主の知識量でしたが、代々続く老舗店だからこそ、その時々の後継者の「好き」を突き詰めることが、さらなる老舗店の強みになっていくのかもしれません。
コロナ禍において、いままでの事業形態や働き方を見直し、転換期を迎えた事業者は増えたと思います。そのなかで、いかに投資を小さくして、知恵とアイディアを出すか、非常に重要になってきています。事業者自身が気付かない潜在的な可能性を客観的に引き出し、迷いを自信に変えて新たな一歩にしていただけるようなサポートをこれからも続けていきたいと考えています。
大垣ビジネスサポートセンター(Gaki-Biz、岐阜県大垣市)は、2018年7月に大垣地域経済戦略推進協議会が地域での雇用や新しい産業の創出を促進するとともに、中小企業を支援するために全国初となるCSR型(企業の社会貢献)のビズモデル型支援センターとして開設されました。2020年10月に開設以来2年3ヶ月で相談件数4,000件を突破しました。
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