「こんな会社、知らない」身にしみた学歴社会

 中里は、家業を継ごうとは思っていなかった。東京のとある私立大学に通っていたとき、証券マンとして風を切っている姿を思い描いていた。

 兜町がオレを呼んでるぜ!

 だが、証券会社は、入社試験さえ受けさせてくれなかった。あなたの大学は枠外です、と。名もない商社に入った。営業担当として、いろいろな会社に飛び込むのだが、アポがないのでダメ。「こんな会社、知らない」と名刺を破られ、水をかけられ。
 学歴社会、名刺にある社名がものをいう。そんな世の中の現実が身にしみた。

毎晩「飲みに行ってくる」。行き先は真夜中の工場

 父親から会社が危ないと聞き、24歳で家業に入る。こんな言葉がある。

 「ダメでも専務、だれでも常務」

 つまり、同族企業の場合、一族出身の人間は、どんなヤツでも肩書をもらえるということである。
 中里は、そんなエラい肩書はもらわなかった。けれど、工場の人たちの視線は厳しい。認めさせるには、自分が努力をして、工場の人たちを認めさせなくてはならない。
 中里は下戸。つまり、酒が飲めない。でも、毎晩、親に、「飲みに行ってくる」と家を出た。行き先は、工場。真夜中、ひとりでバネづくりを練習した。

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