目次

  1. メンタルヘルスとは
  2. メンタルヘルス不調の原因
  3. 急成長する企業でも要注意
  4. 会社としてメンタルヘルスのケアに取り組むべき理由
  5. 心の不調へのケアの方法
  6. 職場でのメンタルヘルス対策
  7. 職場でのメンタルヘルス対策をとるときの留意事項
  8. 無料相談窓口の例
  9. 役立つサイト

 メンタルヘルスとは、心の健康を指す言葉です。厚生労働省によると、精神疾患からの回復だけではなく、社会・職場・家庭に適応できているか、いきいきと仕事ができているかといったポジティブな意味でも使われます。

 しかし、メンタルヘルス不調による労災申請は増え続けています。

厚生労働省発表の「令和元年度 過労死等の労災補償状況」から引用

2-1.過重労働

 野尻さんは、メンタルヘルスの不調の原因の一つである過重労働について次のように説明します。

 長時間労働だけでなく、能力的に難しい仕事を迫られて、責められる状況が続くと「自分はできないんだ……」という落ち込みにつながりますし、健康上でも非常に危ない状況となります。また、上司からの指導をハラスメントとして受け取ってしまい、元の職場に戻れなくなってしまうこともあります。
 このような状態は、誰でも起こりうるものであり、これを「能力不足」として対応すると、自殺などにつながってしまうこともありますので、十分な配慮をもった対応が必要です。

過重労働がもたらす心身へのリスクは次の通りです。

  • 過重な負荷による脳血管疾患や、心臓疾患を原因とした死亡
  • 強い心理的負荷による精神障害を原因とした自殺
  • 死亡に至らない脳血管障害、心臓疾患、精神障害

2-2.従業員それぞれの特性

 メンタルヘルスの不調は、個人の性格や考え方だけに起因するものではありませんが、管理職が同じ対応をとっていたとしても、それぞれの従業員の受け取り方は違うことをあらかじめ意識しておく必要があります。

 元々、落ち込みやすく、仕事での注意が人格を否定されているように感じる方もいます。こういう方には、産業医や保健師がカウンセリングのなかで、あなたが悪いわけではない、と説明をするようにしています。

2-3.ハラスメント

 セクハラ、モラハラなど、ハラスメントがきっかけで心の不調に陥ることもあります。その後の上司と部下の話し合いがうまくいかずに、怒りが会社にむいてしまう場合もあります。

2-4.複合要因

 上記の3つに限らず、仕事に関連したメンタルヘルス不調はいくつもの原因が複雑に関係しています。職場での人間関係や「仕事が向いていない」「こんなはずじゃなかった」「仕事のモチベーションを見つけられない」という悩みのほか、プライベートな問題が影響している場合もあります。
 職場の上司には話しにくいことも多いので、その場合は産業医が意見を聞いて、一緒に考えることもあります。

 メンタルヘルスの不調が起きる事例の一つとして、野尻さんは会社や事業の急成長時の注意点を挙げています。

 今はもうない企業の例で話しますと、従業員が50人を超える規模に成長すると、従業員に会社への向き、不向きが見えてきます。たとえば、急成長しているベンチャーでは、そもそもの企業に対する考え方が、各個人でずれてきてしまい、そこから心の不調に陥ることがあります。
 こうした企業では、とにかく「急がなければならない」という気持ちが先走り、どうしても過重労働になりがちです。私も、会社経営をしていたころは、2~3年で従業員数50人まで会社を大きくしましたが、人事、開発、財務などやることがたくさんあり、病んでしまった経験があります。
 そのため、従業員数が50人になる前に、カウンセリングをお勧めします。

 野尻さんは、下記でうつ病でよく見られる症状を挙げています。周囲が「この人最近大丈夫かな」と気にかかるときは、早めに心療内科などを受診してもらうことを勧めています。

  1. 1日中ずっと気分が落ち込んでいる
  2. 1日中ずっと何にも興味がわかず、喜びを感じない
  3. 食欲が減退または増加し、体重の減少や増加が著しい
  4. 眠れない、または寝すぎている
  5. 話し方や動作が鈍く、イライラし落ち着きがなくなる
  6. 疲れやすかったり、やる気が出なかったりする
  7. 自分に価値がないと感じ、自分を責める気持ちになる
  8. 考えがまとまらず集中力が低下して決断できない
  9. 自傷や死ぬことを考え、その計画を立てる

 仕事が原因で心の不調に陥ったときに、会社としてケアが必要な理由を次のように話しています。

 企業での仕事は、人生で大きな時間を占めています。電通事件などは有名ですが、過重労働で死者が出てしまったり、メンタルケアが必要になったりした場合、会社は責任を取らなければいけません。産業医はそのとき、フォローアップをし、本人の了解をえて、必要であれば会社全体の問題として、メンタルケア、職場のケアを行います。
 悩みというのは、話すことができれば、少しはすっきりするものも多いですし、一方で非常に難しいこともあります。
 会社のブランドイメージはもちろんのことですが、企業にとって従業員は“家族“です。健やかな会社での勤務は従業員にとっても、会社にとっても非常に大きな意味を持ちます。人生の3分の1の時間を仕事に使う従業員にとって、企業は従業員の健康を守り、働きやすい場所である必要があります。そのために、従業員のメンタルヘルス、職場のケアは非常に大事なのです。

 それでは、従業員のメンタルヘルスのケアは実際にどのようにするのでしょうか。

 休職に入る前に、産業医や人事担当ができることというのは、実は限られています。突然に会社に来られなくなった場合は、事前に面談ができませんが、もし会社で面談ができる場合は、まずは、きちんと病院で受診してもらってください。
 そして、病気であるなら、きちんと診断書をもらってきて、どれくらいの休養が必要なのかを確認しましょう。改善してきたならば、毎日の生活リズムをきちんとつけられ、不眠などの睡眠の乱れの改善が見られ、外に出られるようになっているかを確認しましょう。この間にも、できれば主治医の先生と相談しておくことをお勧めします。
 復職にあたっては、慎重さが必要です。企業によって、復職のルールは様々ですが、そのルールに従い、たとえば、時短勤務ができる会社であれば、人事担当とどのように、またどこに配置転換などが必要かを調整しましょう。個人差はありますが、最初はゆっくり働き始めた方が良いと思います。
 最初の1カ月、2カ月ぐらいまでは、産業医と面談しましょう。会社が悪いのか、休んだ方が悪いのかということではなく、今後何をしていくべきか、今までの働き方を変える必要があるのであれば、そこを相談しましょう。少しずつ自信ができるような形になるのが、一番幸せではないかと思います。

 これまで、メンタルヘルスケアというと職場全体としてのストレス対策が後回しにされる傾向がありました。そこで、厚生労働省は企業に対し、中長期的視点に立った対策を求めています。
 企業としてのメンタルヘルス対策は3つの目的があります。

  • メンタルヘルスの不調を未然に防止する「一次予防」
  • メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」
  • メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援する「三次予防」

 そのうえで、厚生労働省は、3つの目的にそってケアを推進する体制を企業に求めています。

メンタルヘルスケアの具体的進め方のイメージ(労働者健康安全機構の冊子「Relax 職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」から引用)
  1. セルフケア
  2. ラインケア
  3. 事業所内産業保健スタッフによるケア
  4. 事業所外の専門家、機関を活用したケア

6-1.セルフケア

 従業員自ら取り組む活動です。企業は労働者に対し、「ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解」や「ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き」などセルフケアができるよう教育研修、情報提供をする支援が重要です。このとき、セルフケアの対象として管理監督者も含めましょう。

6-2.ラインケア

 ラインケアとは、管理監督者が部下の心の健康を守るために取り組む活動です。部下に急に仕事のミスが目立ったり、服装が急に乱れたりと「いつもと違う」様子に早めに気づけるように普段からコミュニケーションを図り、産業医に相談できるようにしましょう。
 また、管理監督者は日常的に相談しやすい環境をつくり、部下からの自発的な相談に対応できるようにしましょう。仕事に復帰しようとする人の気持ちに寄り添い、不安を和らげることも求められています。

6-3. 事業所内産業保健スタッフによるケア

 産業医や安全衛生担当の取り組みです。具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案など効果的なケアができるよう支援をします。

6-4. 事業所外の専門家、機関を活用したケア

 医療機関などを利用した取り組みです。情報提供や助言を受けるなど、サービスを活用しましょう。

 職場でのメンタルヘルス対策をする上では、次のことに注意しましょう。

7-1.労働者の個人情報の保護への配慮

 労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できるために、健康情報を含む労働者の個人情報の保護、労働者の意思の尊重に留意することをきちんと明らかにしましょう。

7-2.人事労務管理との関係

 労働者の心の健康は、職場配置、人事異動などと密接に関わっているため、メンタルヘルスケアは、人事労務管理ときちんと連携しましょう。

 メンタルヘルスに関する無料相談窓口には、人事担当者向けや当事者向けなどがあります。目的に応じて使い分けてみてください。

産業保健総合支援センター

 47都道府県の産業保健総合支援センターで、メンタルヘルス不調の予防から職場復帰支援までの対策全般について相談を受け付けています。全国の精神保健福祉センター一覧はこちら

こころの耳電話相談

 「こころの耳電話相談」では、働く人やその家族、企業の人事労務担当者からの相談を電話で受け付けています。心の悩みや過重労働、ストレスチェック制度などについて相談できます。
 0120-565-455(フリーダイヤル)月曜日・火曜日 17:00~22:00 / 土曜日・日曜日 10:00~16:00(祝日、年末年始はのぞく)

ハラスメント関連の相談

 「ハラスメント悩み相談室」では、職場におけるパワハラ、セクハラ、マタハラなどに関する悩みを専門に、無料でメール・電話相談を受け付けています。
 0120-714-864(フリーダイヤル)月曜~金曜 12:00~21:00/土曜・日曜 10:00~17:00(祝日、年末年始をのぞく)

いのちの電話

 いのちの電話では、メンタルヘルスで悩む人向けに、毎月10日にフリーダイヤル(0120-783-556)の電話相談を受け付けています。午前8時~翌日午前8時まで。

 厚生労働省が開設している働く人のメンタルヘルスをサポートする「こころの耳」には、事業者向けのページがあり、国の指針や事例、支援制度などがまとめられています。

野尻紀代美さん

ウエストフィールド・コンサルティング代表

医師免許証1997年習得、認定内科医2000年習得、労働衛生コンサルタント2012年取得。 産業医としては、労働衛生コンサルタントとして、10社のクライアントを定期訪問。労働安全衛生上のリスクマネジメントや講演、ストレス・マネジメント講座なども行っている。京都大学と共同でのベンチャー起業者に対するメンタルヘルスチェック、講義を年に4回行っている。