債務超過とは【図解】意味や赤字との違いのほかデメリットや解消法も解説
経営者や後継ぎは債務超過を避けなければいけません。債務超過の意味や赤字との違いを基本から説明し、債務超過の主な原因やデメリット、増資による解消法など、図を使いながらわかりやすく解説します。
経営者や後継ぎは債務超過を避けなければいけません。債務超過の意味や赤字との違いを基本から説明し、債務超過の主な原因やデメリット、増資による解消法など、図を使いながらわかりやすく解説します。
目次
債務超過とは、一言で表すと、資産より負債の方が多い状態を意味します(図1参照、債務と負債は同じ意味で使用しています)。
資産とは会社のプラスの財産です。主に、現金・預金、売掛金、貸付金、土地、建物、有価証券等が挙げられ、多くはお金になるものです。一方で、負債とは会社のマイナスの財産です。買掛金、借入金、社債等が含まれ、主にお金が出ていくものを指します。
つまり、債務超過とはプラスの財産をすべて現金化しても、マイナスの財産が残る状態ということです。
なお、決算書上の貸借対照表で資本がプラスだったとしても、資産と負債を時価に換算すると、実質的に債務超過になっている場合があります。
例えば、一般的な中小企業の会計処理上、貸借対照表に記載されている土地の金額は、取得した時の価額で計上されています。しかし、金融機関が会社を評価する際には、その時点の価額いわゆる時価で判断します。
もし、土地等の時価が取得したときの価額と比べ低い場合は、時価に換算して資産と負債のバランスがどうなっているかを確認したほうが良いかもしれません。
債務超過と赤字は似たようなニュアンスを持つ印象ですが、厳密には意味が違います。
赤字とは会社の事業年度や一定期間の損益がマイナスの状態のことで、会社の損益は決算書上の損益計算書に記載されています。一定期間の売上から費用を引いたものがマイナスになっているという状態であり、債務超過かどうかは、赤字や損益計算書を見るだけではわかりません(図2参照)。
それでは、債務超過に陥る原因にはどのようなものが考えられるでしょうか。
大きな原因の一つに、赤字の恒常化が挙げられます。では、損益計算書上の話である赤字が、なぜ貸借対照表上の債務超過につながるのでしょうか。損益計算書と貸借対照表とのつながりから、簡単に確認したいと思います。
会社は事業を営み、売上と費用を計上します。その結果、黒字か赤字が発生します(ここまでが損益計算書)。黒字や赤字は、貸借対照表上の右下にある資本に計上されます。なお資本とは、株主が出資した金額と設立時からの黒字および赤字の累計が合算されたもので、原則返済の義務がない金額です。黒字なら資本はその分増加し、赤字なら減少します。
従って、赤字が恒常化するという事は、「赤字が続く→資本が減少する→資本がマイナスになる→債務超過」というスパイラルに陥るということです(図3参照)。
他に債務超過になる原因として考えられるのは、設立間もない場合です。軌道に乗るまでは、損益が安定せず、設備投資等がかさんで赤字になるケースが少なくないためです。また、近年は会社設立時の資本金を自由に設定できるため、少額の資本金で創業する企業も多く、決して大きくない赤字でも債務超過に陥るケースが増えています。
後述しますが、債務超過の状態だと金融機関からの借入は難しくなります。そのため、経営者の自己資金で資金繰りを行う必要が出てきます。
ここからは、債務超過が続いた場合のデメリットについて解説します。
債務超過の企業は、赤字が恒常化しているという事です。また赤字が続いていれば、一般的にお金が減っていく状態になっています。 そして、債務超過で資産より負債が大きくなっている企業は、すべての資産を現金化しても、その時点で背負っている負債を解消することができない状態という事になります。
会社はお金が無くなり、負債の支払いができなくなった時点で倒産します。従って、債務超過は、倒産のリスクが高い状態ということになります。
上記にも関連しますが、金融機関は貸したお金を返してもらう必要があります。そのため、貸出先がきちんとお金を返せるのか、倒産して返済できなくならないかを慎重に判断します。
債務超過であれば、金融機関に倒産リスクが高い状態と判定され、新規借入ができなかったり、金利が通常よりも高く設定されたり、場合によっては早期の返済を迫られたりする可能性もあります。
また、金融機関に借入の返済猶予等を依頼する際には、3年を目標に債務超過を解消するよう経営改善計画を求められることもあります。赤字が続き、資金が減っていく中で借入もできないとなると、一層資金繰りが厳しくなり、最終的に倒産の可能性が高まります。
債務超過は、企業の信用力を失うことにもつながります。新規の取引を始める際に、相手先が債務超過だったために、取引を見送るケースが実際に起きています。
これについては、債務超過であった取引先の倒産による売上代金の回収不能や、役務の提供を受けられない等により損失を被ると、経営者は株主から訴訟を起こされる可能性もあり、企業のコンプライアンス面からも厳格化されてきています。
また、日本の株式市場では、債務超過になってから1年以内に解消できない場合には上場廃止になるというルールがあります。実際に東芝は2017年3月期決算で債務超過に陥り、上場廃止の危機に瀕しました。その後、大型増資や債権の売却益の計上等により、2018年3月末時点の資本をプラスに転換させて2期連続の債務超過を免れ、上場を維持しました。
債務超過を解消するには資本を増やす必要があり、毎期利益(当期純利益)を計上することが必須条件になります。しかし、赤字が恒常化している会社がすぐに黒字になるとは限らず、債務超過の金額が大きければ、短期的には解消できないケースもあります。その上で、少しでも早く債務超過を解消する必要がある場合、主に以下の方法が考えられます。
文字通り、資本を増やす方法です(図4参照)。経営者本人が株主で、まだ自己資金がある場合には取りやすい方法の一つになります。
既存の株主もしくは新たな株主から資金を出してもらい、資本を大きくして債務超過を解消します。 しかしこの場合、状況によっては税負担の増加や株主構成の変更が生じることがあります。
DES(Debt Equity Swap デットエクイティスワップ)という方法で、負債を資本に振り替えることもできます(図5参照)。 金融機関等の債権者からの借入を、資本に振り替える(株式を発行する)ことで、負債を減らし資本を増やす手法です。
少し古い事例ですが、シャープは2015年3月決算において自己資本比率(資本/資産)1.5%まで低下し、債務超過の可能性が高まりました。そこで、シャープは2015年5月に取引金融機関2行と2,000億円のDESを実施するなどして債務超過の回避に動きました。
なお、以下は税務上の取扱いになりますが、株式を引き受ける債権者が法人の場合には、税務上の処理が適格・非適格の2種類に分かれます。完全支配関係がある親子法人間で行われるDESは適格に該当し、借入金額そのままが資本になり、損益に影響がありません。
しかし、それ以外の場合は非適格に該当し、資本に振り替える際に借入金額そのままではなく時価(資本に振り替える借入の合理的な回収可能額)で評価されるため、場合によっては、負債の消滅による利益が発生することになります。また、増資と同じように税負担の増加や、株主構成の変更が生じる可能性があります。
土地や有価証券等の資産で、取得時の価額より時価のほうが高い場合、売却益で資本を増やす効果が見込まれます(図6参照)。業歴が長い法人ほど貸借対照表に様々な資産があるため、思わぬ売却益が発生する場合もあるかもしれません。
実際に本社の移転に伴い土地の売却益が発生して、債務超過を解消したというケースもあります。
債務超過の定義・デメリット・解消法についてまとめました。特に解消法については、どれも実行できれば即効性はあります。しかし、株主や債権者の協力が必要になる場合や、税務の取り扱いが複雑になる部分もあるため、早い段階から専門家に相談することをお勧めいたします。
また、債務超過に陥る原因で示した通り、毎年の損益がマイナスである限りは根本的な解決にはなりません。債務超過の解消、そして資本を積み上げるには、毎期利益を計上することが必須です。そして債務超過にならない、損失を繰り返さない為の経営体制の抜本的な改善が必要です。
これは今日明日に突然できることではありません。日々の積み重ねが重要で、経営者あるいは後継者の強い意志が大切になります。
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