目次

  1. 健康経営とは
  2. 中小企業にとって健康経営のメリット
    1. 生産性の向上
    2. 企業イメージの向上
    3. 離職率の改善
    4. 医療費負担の適正化
    5. 人材の確保
  3. 健康経営のデメリット
  4. 健康経営優良法人の認定メリット
    1. 金利優遇
    2. 助成金
    3. 公共調達の加点
    4. 保険料割引
  5. 健康経営の取り組み方とポイント
    1. 「健康宣言」の実施
    2. 実施環境の整備
    3. 具体策の実行
    4. 取り組みの評価
  6. 「健康経営」のメリットに注目を

 健康経営とは、企業が経営戦略の一環として、従業員の健康管理に配慮することです。健康管理を積極的に行い、従業員の活力や生産性の向上につなげていきます。その結果、企業の業績の向上や株価上昇などの効果が期待できます。経済産業省も健康経営の普及を推進しています。さらに、健康経営優良法人認定制度が2016年度から始まりました

 健康経営は大規模なプロジェクトのイメージがありますが、大企業だけの戦略ではありません。経営や人材不足などに悩む中小企業にこそ採り入れたい取り組みです。まずは健康経営のメリットを知っておきましょう。

 従業員の健康は、企業の生産性向上に直結します。従業員が心身ともに健康であれば労働意欲が湧き、業務に対して積極的に取り組めます。対して体調不良やストレスを感じている従業員がいれば、周りにも影響を及ぼしかねません。業務が円滑に進まないために、職場全体のストレスレベルが高くなりモチベーションが低下する恐れがあります。

 その点、従業員全員が健康であれば、おのずと会社の空気も良くなり、仕事に取り組みやすくなります。結果的に長時間労働や人間関係のストレスなどが減り、労働環境が改善します。

 健康経営を実践している企業は、いわゆるホワイト企業というイメージが定着します。前述した「健康経営優良法人認定制度」において、健康経営優良法人(中小規模法人部門)として認定されることで、健康経営に取り組んでいるクリーンな企業というイメージの定着につながるでしょう。

 特に健康経営優良法人(中小規模法人部門)の「ブライト500」に選定されると投資家や株主、取引先などに注目され、将来的に株価の上昇が期待できます。

 従業員の健康状態が良好であれば、健康不安を抱えての退職や休職が減り、離職率の改善につながります。体調に限らず、メンタルヘルスによる従業員の離職は深刻な問題です。健康経営の実践によって離職率が低くなれば、人手不足に悩む中小企業にとって大きなメリットといえます。

 社会保険など企業で加入している保険料は、従業員と企業が折半して支払っています。従業員が健康を害して通院や入院となると、企業が負担する医療費も高くなります。従業員が健康であれば、「見えない人件費」ともいわれる社会保障のコストが軽減できるのです。

 健康経営は有能な人材を獲得できる可能性が高くなります。先に述べたように従業員の健康管理に力を入れている企業はブランドイメージが高く、就職活動中の人材にも好印象を与えます。

 経済産業省の資料によると、就活生とその親に「どのような企業に就職したいか、またはさせたいか」と聞いた調査で、「従業員の健康や働き方に配慮している企業」という回答が最も多くありました。就職活動をする上で、従業員の健康管理がされているかが重要なポイントになっていることが分かります。健康経営を意識した企業には就職希望者が増加して、有能な人材を獲得できる可能性があります。

 時代に即した健康経営ですが、注意したいデメリットもあります。従業員の健康度合いを測るためには、長期的なデータ収集やチェックが必要です。そのための設備投資や人材を配置するコストがかかる企業もあります。

 また、健康経営は成果が明確になりにくい面もネックです。営業成績のように数値で結果がすぐに見えてくるものでもありません。長期的に取り組むことを念頭において実践していくといいでしょう。

 健康経営優良法人認定制度は、健康経営の取り組みに優れた企業を認定する制度です。「定期健診受診率実質100%」や「50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施」「適切な働き方実現に向けた取り組み」などの評価基準が細かく定められています。

 健康経営優良法人に認定されると、地方自治体によっては表彰されたり、金利優遇を受けたりなどのメリットがあります。

出典:経済産業省「健康経営の推進について」令和2年9月

 都道府県や金融機関ごとに異なりますが、次のような金利優遇措置があります。

  • 運転資金の貸付利率を引き下げ
  • 特別利率・保証料率により融資
  • 銀行所定金利より引き下げての融資

 先にも述べたように、健康経営には一定の費用が必要です。関連する助成金制度も増加しています。中小企業が活用しやすいものに以下があります。

  • ストレスチェック助成金
  • 時間外労働等改善助成金
  • 職場環境改善計画助成金
  • 受動喫煙防止対策助成金
  • 小規模事業場産業医活動助成金

 公共調達とは、政府が物やサービスを民間企業などから購入することを指します。公共調達で欠かせない入札の参加資格で、加点要素がある企業が有利になります。健康経営優良法人に認定されると、公共調達加点のインセンティブがあり、企業にとって非常に大きなメリットです。

 保険会社から各種保険料を優遇される場合があります。例えば、次のような割引が実施されています。

 健康経営を実践するためには、中長期的なプランや制度の導入などが必要です。実際の取り組み方とポイントを解説していきます。

参考:経済産業省「健康経営優良法人取り組み事例集」

 「健康宣言」とは健康経営優良法人の認定に不可欠な要件です。健康経営を目指すための経営理念(経営者の自覚)として、健康宣言を社内外へ発信していきます。また経営者自身の健診受診も求められます。全国健康保険協会(協会けんぽ)などが実施している「健康宣言」事業に参加しましょう。

 健康経営のプロジェクトを成功させるためには、実施環境の整備は重要です。健康づくりのための部署を設け、担当者を置きましょう。経験スキルに応じた研修なども必要です。

 実施環境が整えば、具体的な健康管理のための施策を実行していきます。経済産業省が定める健康経営優良法人の認定要件を参考にすると良いでしょう。施策には大きく分けて三つあります。

  • 従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討
  • 健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント
  • 従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策

 実際に具体策を実行してみると、改善すべき点や気づきなどが出てきます。これらを経営陣も含めた担当者たちで評価し、フィードバックを行います。

 「健康経営」は企業と従業員双方にとって有益な取り組みです。従業員の健康づくりに役立ち、企業のイメージアップになります。取り組むことで得られるメリットに目を向けて健康経営優良法人を目指しましょう。

【監修】嶋田毅

グロービス出版局編集長、グロービス知見録編集顧問、グロービス経営大学院教授

グロービス経営大学院や企業研修においてさまざまな科目の講師を務めるほか、各所で講演なども行っている。また、書籍執筆等による情報発信に加え、グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを掲載するとともに、グロービスが提供する定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」へのコンテンツ提供・監修も行っている。