目次

  1. 健康経営とは
  2. 国が推進する「健康経営」
  3. 健康経営の主なメリット
  4. 健康経営導入の取り組み方
  5. 健康経営の取り組み事例
  6. 健康経営度調査とは
  7. 中小企業での認知度と実施状況
  8. まとめ

 組織力を高め、企業の安定的な成長を狙う経営者にとってかかせない手法に、健康経営があります。

制度の概要

 健康経営とは、従業員の健康管理を個人任せではなく経営上の重要事項、課題として捉え、戦略的に実施する経営手法です。従業員全体の健康が業績や企業イメージに与える影響は、小さなものではないといえます。
 企業の将来を考えた投資として制度化し実践する健康経営への期待は大きなものです

健康経営の目的・意義

 健康経営の主な目的・意義は、仕事の効率改善と組織力の強化、その先にある成長と企業価値の上昇といえます。健康経営によって従業員の健康管理が適切に行われるようになれば、心身の疲労や病気のリスクが軽減されるでしょう。企業による積極的な健康の維持・増進への関与は、従業員のモチベーションアップにつながります。結果として、個々の能力が発揮されやすくなり業績の向上が期待されます。

どんな企業に必要か

 健康経営が必要な企業とは、優秀な従業員を確保し、能力を存分に発揮してもらい組織力を高めて発展したい企業です。大企業にも当てはまる面はありますが、主にこれから大きくなる、大きくなりたい中小企業こそ健康経営が欠かせないでしょう。

 国は経済産業省が中心となって健康経営を推進しています。2本柱として実施されている全国的な取り組みが健康経営優良法人と健康経営銘柄です。

健康経営優良法人とは

 健康経営優良法人の顕彰制度は、大規模法人部門と中小規模法人部門に分かれて実施されています。健康経営優良法人とは、健康経営への取り組みが優良な法人を目に見える形で公表することで社会的評価を高める顕彰制度です。
 従業員の健康に気を配っている企業として知られれば、イメージアップだけでなく従業員の確保がしやすくなる実利もあります。その先に期待できるのは業績アップです。そのため、より高い評価を受けようとする企業の健康経営に対するモチベーションもアップします。

 大規模法人部門の健康経営優良法人の上位500社の呼び名が「ホワイト500」で、中小規模法人部門の上位500社の呼び名は「ブライト500」です。ネームバリューを高めて見える化を図ると同時に、健康経営の牽引役的なイメージも期待しています。

 ブライト500の選定では、健康経営の実践法人として優良なだけでなく、その地域における健康経営の発信者としての役割も重要です。

健康経営銘柄とは

 健康経営銘柄とは、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定・公表している上場企業を指しています。また、経営的な視点から従業員の健康管理をとらえ、戦略的に実践する健康経営を正しく行っている企業の指標となる制度です。

 投資家にとっては優良企業を選定する目安となり、上場企業にとっても健康経営への意識が強くなるメリットがあります。

 健康経営の広報大使的な役割も期待されている健康経営銘柄選定のベースとなるのは、経済産業省が行っている「健康経営度調査」の回答結果です。

「経営理念・方針」
「組織・体制」
「制度・施策実行」
「評価・改善」
「法令遵守・リスクマネジメント」
以上5項目から評価し、さらに財務状況を加味して判断されます。

 健康経営銘柄の選定は基本的に1業種1社です。ただし、健康経営度調査の数値が優良な企業も公表対象となっています。毎年2月前後に公表されており、2020年には40社が選ばれました。

 健康経営には、これからの経営を考えるトップにとって見逃せないメリットがあります。

生産性の向上

 健康投資、つまり企業が投資として健康管理を行うことで、心身のリフレッシュや精神的・肉体的な疾病予防など従業員の健康維持・増進を期待できます。個人が健康的に働くことは、仕事に取り組む活力のアップや生産性の向上につながる大きなメリットです。

企業価値やイメージの向上

 過労死やブラック企業などの言葉がしばしば使われる時代において、社会や投資家から向けられる目、もたれるイメージがより重要になっています。理念として健康経営を推進する企業は、ブラック企業と正反対の存在といえるでしょう。

 健康経営にしっかりと取り組むことで企業価値を高めるとともに、イメージの向上にも役立ちます。

医療費負担の適正化

 健康経営の推進は膨れ上がる医療費の負担の面からも重要です。過労の回避や、疾病の早期発見などによって負担をより適正化できます。

 健康経営を導入するための取り組み方を紹介します。

①「健康宣言」の実施

 最初に行う手順は社内外に向けた「健康宣言」です。経営理念として健康投資を行う決意表明の意味もあります。掛け声だけで終わらないように明文化し、ウェブなどで社内外に公表しましょう。健康保険組合の「健康宣言」事業への参加も有効な手段です。

②実施環境の整備

 健康経営を推し進めるには、全社一丸となって取り組める環境作りが必要になります。経営陣の理解や情報共有は当然として、実務を担う要員の配置も検討課題です。

③具体策の実行

 どこに健康投資をすべきかなど、置かれている状況や課題を明確にします。次にすべきは、課題の解決に向けた目標の設定と実行です。

④取り組みの評価

 実際にやってみた効果を評価することで、より効果的な実践に向けた材料とします。   

 健康経営に取り組んでいる事例を紹介します。

株式会社東京堂

 株式会社東京堂(小売業など)は、従業員ががんを患ったことを契機に健康経営の取り組みをはじめました。ライフスタイルが異なる従業員がそれぞれ働きやすい労働環境を整えるため、事業内容にあわせて100以上のシフトを制定。1時間単位で有給休暇を取得できるようにし、休暇を取りやすい仕組みを構築することで私生活の充実につなげています。

 健康経営優良法人に認定されたことで、企業のイメージアップや販売促進などの効果ももたらしました。

出典:「健康経営優良法人取り組み事例集」

株式会社ハンナ

 貨物運送業の株式会社ハンナは、従業員の健康状態と仕事の成果に密接な関係があると考え、健康経営の取り組みを強力に進めています。社内で課題となっている禁煙の推進や健康を気遣う行動などにおいて、他の従業員の模範となる人物には報奨を行うなど、従業員の健康増進に対する意識づけにも積極的です。

 不健康な状態をいち早く見つけて、ミスや事故などの発生リスクを軽減する取り組みもあり、従業員と企業の信頼関係がよくなっています。

出典:「健康経営ハンドブック2018」

及川産業株式会社

 及川産業株式会社(建設業)は体力が必要な現場仕事で事故による怪我も心配なため、早くから健康経営に関心をもち取り組んでいる企業です。朝の軽い体操や定期健診の全員受診を目指した機会の確保をはじめとし、従業員への意識づけにも力を入れています。

 いつまでも働ける職場となるよう、健康管理についての情報提供や教育にも熱心です。その結果、新しい人材の確保にもつながっています。

出典:「健康経営優良法人取り組み事例集」

 健康経営度調査とは経済産業省の委託事業で、目的は企業の健康経営の取組状況と経年変化の分析です。その他に主として次の2つの意味があります。

  • 健康経営銘柄と大規模法人部門の健康経営優良法人の選定・認定に使用する
  • 健康経営について知りたい中小企業にとって有用な資料となる

 東京商工会議所が従業員300人以下の企業を対象に実施した「健康経営に関する実態調査」によると、68.5%が少なくとも健康経営という言葉を知っており、29%が内容まで知っていました。年々中小企業における認知度は上がっているようです。実践している企業は20.8%にとどまっています。

 企業としての組織力を高めて成長を目指すには、優秀な人材の確保と定着が必要です。また、従業員が能力を発揮できる健康状態も欠かせません。健康経営の優良法人となれば、求職者にとって魅力ある企業に映ります。

 また、社会的な責任を果たす企業としてのイメージアップにもつながり、好循環となる点も魅力です。健康経営への理解を深め、第一歩を踏み出してください。

【監修】嶋田毅

グロービス出版局編集長、グロービス知見録編集顧問、グロービス経営大学院教授

グロービス経営大学院や企業研修においてさまざまな科目の講師を務めるほか、各所で講演なども行っている。また、書籍執筆等による情報発信に加え、グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを掲載するとともに、グロービスが提供する定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」へのコンテンツ提供・監修も行っている。