CESで日本のスタートアップに熱視線 デジタルヘルス領域が成長
世界最大級のエレクトロニクスショー「CES」が1月11~14日、米国・ラスベガスで開かれました。新型コロナウイルスの影響でオンライン開催でしたが、各国から約2000社が参加し、日本のスタートアップでもヘルスケアなどの最先端技術が話題を呼びました。日本のスタートアップのCES出展を支援する海外メディア・ストラテジストが、中小企業の学びにもつながるイノベーションをリポートします。
世界最大級のエレクトロニクスショー「CES」が1月11~14日、米国・ラスベガスで開かれました。新型コロナウイルスの影響でオンライン開催でしたが、各国から約2000社が参加し、日本のスタートアップでもヘルスケアなどの最先端技術が話題を呼びました。日本のスタートアップのCES出展を支援する海外メディア・ストラテジストが、中小企業の学びにもつながるイノベーションをリポートします。
テクノロジー業界では、毎年1月のCESに出展するため、年始年末を返上して新製品紹介の準備に取り組むベンチャー起業家が少なくありません。今年は約2000社が、デジタル・プラットフォーム上に集合し、日本からも過去最多の53社にのぼるスタートアップが出展しました。
CESを足がかりに世界に挑む日本のベンチャー企業は、増加の一途をたどっています。リアル開催なら、東京ドーム5つ半に相当する広さの会場を埋め尽くしたはずの出展ブースがバーチャル空間にひしめく中、脚光を浴びた日本のイノベーターも少なからずありました。
中でも、世界中のメディアから注目を集めたのが、ヘルスケアIoTスタートアップのクォンタムオペレーションです。同社は糖尿病患者が血糖を計る際の負担を軽減する非侵襲血糖センサーの開発に取り組んでおり、CES開幕と同時に取材が殺到。米大手テック誌・Engadgetの「ベスト・オブ・CESアワード」のファイナリストにもなりました。同誌の記事によると、針を使わない血糖モニタリングは医療デバイス業界にとっての「究極のゴール」です。他の非侵襲デバイスと異なり、センサーの皮下の埋め込みを必要としないことも、関心を呼ぶ要因となったようです。
同社への熱いまなざしは、デジタルヘルス・デバイスの市場がヒートアップしていることも背景にあります。ウェアラブル大手のフィットビットが2013年に、リストバンド型のトラッキングデバイスを初めて売り出して以来、デジタルヘルス・デバイスの需要は拡張し、コロナ禍とともに飛躍的に成長しました。
CESを主催する全米民生技術協会(CTA)のデータによると、2020年度のコネクテッドヘルス・デバイスの世界市場における総出荷額は6.32億ドルで、前年度比で73%増を記録しました。2022年度には8.45億ドルに達する見込みです。CTAのリサーチディレクターのレスリー・ローバーさんは、1月11日にCESプラットフォーム上でCTAが主催したセッションで、新型コロナウイルスの蔓延に伴い消費者の健康管理意識が高まったことから、需要に拍車がかかったと分析していました。
CESで注目を集めたスタートアップの技術には、他にどのようなものがあったのでしょうか。
↓ここから続き
今回のCESでは日本のスタートアップ21社を含む431社が、「デジタルヘルス」をテーマに展示しました。スマートウォッチやリストバンド、リハビリや遠隔医療のツールなどが目立つ中、アクシオンリサーチのビッグデータ解析エンジン「AXiR Engine」が、AIを使ったデジタルヘルス技術として大きな反響を呼びました。
従来の健康予測アプリは、ユーザーの現時点での疾病リスクを一つずつ測るのに対し、AXiR Engineは様々な疾病リスクや検査の数値などを総合的に分析し、その推移をビッグデータと照らし合わせて将来の健康を予測します。がんなどの早期発見を可能にするだけでなく、健康維持のためのカスタマイズ・プログラムも提供されるとのことです。同社はウェアラブルを利用したビッグデータの収集も予定しています。
今回展示されたTripleW(トリプル・ダブリュー・ジャパン)の排泄予知ウェアラブル「DFree Professional」は、6月に販売予定の新機種で、従来品より介護施設向けに大幅に小型化され、ケーブルレスになっているそうです。
また、筋肉を刺激するセンサーを組み込みながら普通の洋服と同じように心地よく着られるというXenomaのスマートEMSスーツなども、前年のCESに続いて話題を集めました。
ファーストアセントが、赤ちゃんの起床就寝のリズム形成を助ける目的で開発したベッドライト型のデバイス「ainenne」(あいねんね)が、CES Innovation Award で名誉賞を受賞しました。
新型コロナ対策のテクノロジーでは、スマートマスクやウイルスを検知するデバイスなど、感染防止を目的とした製品やサービスが展示の大半を占めました。
日本からは触れずに操作できるディスプレー技術や、小売店の陳列作業での活用などが想定されるTelexistenceの遠隔操作ロボットなど、ウイルス対策以外でも使える最先端技術が出展されました。中でも、WOTAが開発した手洗い装置「WOSH」は、水道のない場所でも手洗いに使う水を浄化し続ける技術で関心を集めました。
CESの常連たちが最も楽しみにしている日本発のテクノロジーと言えば、ロボテックでしょう。かつては、日本と聞いて東芝の「地平アイこ」に代表されるヒト型ロボットを思い浮かべる人が多かったはずですが、ここ数年で「ジャパン=クールでかわいい癒しロボット」というイメージが定着したようです。
この変化に大きく寄与してきたのは、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」(クーボ)で知られるユカイ工学です。家族を繋ぐコミュニケーションロボット「BOCCO」(ボッコ)を6年前にCESで展示して以来、その進化を追い続けてきた海外メディアも多く、今回は感情豊かに人に共感する「BOCCO emo」(ボッコエモ)と、声や音にも反応して尻尾を振る「Petit Qoobo」が大きな反響を呼びました。
また、Vanguard IndustriesのAIペット型ロボット「Moflin」が、今回のCESで、「ベスト・オブ・イノベーション」を受賞し、話題となりました。
1999年に発売されたソニーのAIBO(アイボ)がこの手のペットロボットの元祖と言えますが、おもちゃのようにつるつるした外観のAIBOに対し、QooboとMoflinはどちらも動物のようなモフモフとした毛皮で包まれているのが特徴です。一方、GROOVE Xの家族ロボット「LOVOT」は、ユーザーの心を溶かすような愛らしい眼差しが印象的です。
これらの製品は人間の代替えとして「作業」をするのではなく、人の心に働きかけることで、ユーザーがより人間らしい生活を送れるようにする目的で開発されています。
例えば、撫で方で尻尾の動きが変わる「Qoobo」は、ユーザがそうしたロボットとのやりとりに自身の気持ちを投影することで癒しが得られるのだそうです。お年寄りへの声掛けに使われること多い「BOCCO」シリーズは、高齢者の孤独感を和らげて生きる楽しみを増やす効果がある、という声がユーザーからたくさん寄せられているとのことです。
また、表情豊かにユーザーに反応する「LOVOT」は、「愛されるためだけ」に開発されました。ロボットを抱いたり眺めたりする人が幸福感に満たされることを目的としています。「愛するちからを引き出し、明日に向かうエネルギーをくれる」ロボットなのだそうです。
Moflinも含め、これらのロボットはすべて「癒し」をテーマにしています。こうした従来とは異なるロボット作りのコンセプトに、海外のテック業界やメディアが新鮮さを感じているようです。
CESではコロナ対策や5Gなど、時代の先端を行くテーマに興味が集中しがちですが、ずば抜けた技術力と発想で注目される企業もあります。アルケリスもそんなスタートアップのひとつでしょう。
同社は、工場での立ち仕事の負担を軽減するアシストスーツ「archelisFX」を展示し、話題をさらいました。装着者の体重を、すねとももで分散して支えられるように設計されており、立った姿勢のまま「腰掛ける」ことができます。脚にまとうだけで、電力は一切不要であることも特徴です。
CESがオンライン開催になったことで、スタートアップと大企業が同等に展示され、小規模企業にとっては露出度が民主化された感もあります。一方で、参加者は企業名を一つひとつクリックしなければならないため、偶然面白いものに当たる可能性が激減しました。
今回、秀でたイノベーションを持ちながらも話題にならなかった日本のスタートアップがあったのも、このためと推測されます。この先もデジタル・プラットフォームは何らかの形で使われていくと予測されることから、参加企業はたくさんの展示者の中で目立てるように、積極的に情報を発信する必要があるでしょう。
CESで注目されるスタートアップにはひとつの共通点があります。それは、経営陣に社会がどう変わるべきかというしっかりとしたビジョンがあり、その未来像に向けての岐路となるテクノロジーを開発しているということです。
海外ではひと昔前に、業界の在り方を一変させるアイデアを持ったイノベーターを指す「ディスラプター」という言葉が大流行しました。投資家や業界ウォッチャーが、社会に革新をもたらすテクノロジーを求める傾向は、ますます強まっています。言い換えれば、便宜性のみを追求した製品や既存の技術の改良に焦点を絞っている企業は、CESで苦戦することになります。
海外進出で成功するには、日本の市場のギャップを埋めることに集中せず、独自の発想と世界観に基づいて技術を開発することが重要です。また、自社のイノベーションやビジョンを、分かりやすい言葉で巧みにアピールする努力も欠かせません。良い技術を持ちながらも、それを上手く伝えられず、CESで見過ごされてしまうケースが後を絶ちません。
いくつもの日本のスタートアップが世界で名を広めたCES2021。後継ぎ経営者が率いる小規模企業が、創造性と努力によって世界市場で勝負することも夢ではないと、改めて感じさせる見本市だったと言えるでしょう。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。