高さ約3メートル、横幅約4メートル。ボルトや管が取り付けられた、分厚い金属製の機械。台に真っ白いトイレのふたが置かれ、機械の口が閉まって1分半ほどで、シャンパンゴールドに輝くふたが出てきた。

 この機械には、布施真空が開発した技術「TOM(トム)工法」が使われている。原理は難しくない。熱で軟らかくしたフィルムを真空状態で部品の上に重ね合わせた後、フィルムの上から空気を送り込む。フィルムには接着層があり、大気と真空の気圧差で隙間なく貼り付く、といった具合だ。

改良したTOM工法の機械。大型の部品でもフィルムで外装を施せるようになった

 めっき調や木目調など、色も質感も様々なフィルムが使え、形状による制約も少ない。「水と空気以外は何でも飾り付けられますよ」。矢葺(やぶき)勉社長(67)は冗談交じりに話す。曲線や凸凹のある部品にも対応できるため、新幹線や自動車の内装のほか、楽器にも利用されている。

 20年ほど前、同社は創業以来の危機に見舞われた。冷蔵庫の部品やバスタブなど、主力のプラスチック製品は、バブル崩壊で発注が激減。1999年に和議(現在の民事再生)を申請した。ピーク時に90人ほどいた従業員も半分に減らさざるを得なくなった。

TOM工法は新幹線やエアコンの部品にも使われている

 TOM工法を開発したのは前年の1998年。苦境の中で生んだ起死回生の一手で、当時の三浦高行社長(故人)は「これはすごい技術やねん、色んなものに応用できるんや」と熱弁を振るっていたという。

 速水敏郎専務(61)は、「車のボディーにフィルムを貼るのが社長の夢だった」と振り返る。その夢は実現に近づきつつあり、約5年前に改良した技術で大型の部品も扱えるようになった。ボンネットやドアもフィルムによる外装が可能になった。

 コストを下げるために量産化できるかが課題だが、色づけと乾燥を繰り返す塗装のやり方と比べると電力使用量は3分の1程度で、CO2の排出量も3分の2ほどに抑えられるという。中国の工場などからも取引の相談があるとし、矢葺社長は「TOM工法は第二の創業。環境施策に取り組む海外市場も開拓していきたい」と意気込んでいる。(2021年2月13日付朝日新聞地域面に掲載)

布施真空

 1956年、当時の大阪府布施市(現東大阪市)で「布施真空成型研究所」として創業。1999年に羽曳野市に移転した。熱を使った成形加工が専門で、機械製造や受託加工も手がける。社員数は80人。2020年1月期の売上高は11億円で、輸出が約50%を占める。