長年築き上げた信頼を一度に失くす企業不祥事 防止策と対応策を紹介
企業不祥事とは、たとえば不正会計や経営トップの失言などを指します。ひとたびメディアやSNSで拡散されると、長年築き上げてきた信頼を一瞬で失ってしまいます。中小企業のトップがとるべき防止策とは?日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)副代表理事の岡田直子さんに聞きました。
企業不祥事とは、たとえば不正会計や経営トップの失言などを指します。ひとたびメディアやSNSで拡散されると、長年築き上げてきた信頼を一瞬で失ってしまいます。中小企業のトップがとるべき防止策とは?日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)副代表理事の岡田直子さんに聞きました。
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不祥事が起きると、そのダメージは計り知れません。企業のイメージダウン、売り上げの減少、経営トップの辞任や社員のリストラはもとより、最悪の場合は倒産に至る事もあります。
「盲点となりやすいダメージの一つは、従業員の士気の低下です。不祥事が原因で、社員達が自社で働く事に誇りを持てなくなり、その結果業績が低下する、離職率が上がるなど、負の連鎖が起きるのです。企業不祥事は、世間からの信頼だけでなく、従業員からの信頼も破壊してしまうという事を、経営者は忘れてはいけません」と岡田さんは警鐘を鳴らします。
一口に企業の不祥事と言っても、その種類は様々です。不正会計や法令違反、隠蔽・偽造など、その企業の経営陣が関与しているもののほか、製品やサービスの不具合なども企業不祥事となり得ます。
さらに、岡田さんによると、どの企業でも突然起こりうる、注意すべき企業不祥事のパターンがあると言います。それは経営陣を含む従業員のハラスメント行為や失言、常識を逸脱した言動などが、内部告発やSNS投稿をきっかけにメディアに取り上げられ、世間に露呈してしまうパターンです。時代の流れや世論を理解できていない事が原因で、起こることがほとんどだといいます。
「2000年頃から絵の具や色鉛筆に“肌色”という表現が無くなり、代わりに“うすだいだい色”と称されています。“肌色”は、以前は問題にならなかった言葉ですが、グローバル化が進む現代では肌の色は人種によって様々であるという認識が浸透したため、不適切な表現とされます。
こうした時代の流れを読めずに経営トップが公の場で不適切な発言をしたり、企業公式のソーシャルメディアアカウントで担当者が不適切な表現を投稿したりすることが、炎上へと繋がるのです」(岡田さん)
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不祥事は何故起こってしまうのでしょうか。岡田さんは「多くの企業不祥事の根源には、悪しき企業文化がある」と断言します。例えば、みずほ銀行は、2021年の2月末から4回にわたってシステム障害を起こしました。
朝日新聞などの報道によると、システム障害の事実を社内からの報告でなく、ネットニュースで知ったという藤原弘治頭取。
会見で「一番議論したのは、我々の企業風土、カルチャーの問題は何かということ。縦だけではなく、縦・横のコミュニケーションが重要で、これから対策を打つ」と発言しました。
「上司にミスを報告しても必要以上に非難されない雰囲気や、仲間同士で問題を指摘しあえる企業文化が、リスクの早期発見に繋がります」(岡田さん)
リスクが企業不祥事へと発展するのを食い止めるには、風通しの良い企業文化を醸成し、お互いに問題を指摘し合う必要があります。そのために、経営トップはどの様な対策を講じることができるのでしょうか。
「分厚いマニュアルや難しい制度は必要ありません。誰もが気軽にアクセスできる相談窓口を作ることで、企業の風通しは飛躍的に向上します。例えば中小企業であれば、勤務歴が長くその会社のお父さんやお母さんのような存在の人や、洞察力があり話しやすい雰囲気の人を相談窓口の担当者に任命しましょう。
社員との個人面談を定期的に実施し、直属の上司に問題提起できない様な状況であっても、他に相談できる場を提供します。改善の必要がある問題は経営トップに直接伝わる仕組みとし、上司や人事部へ情報が漏れない事や、問題を告発した事により社内で不利益な取り扱いを受けない事などを事前に明確にしましょう」(岡田さん)
岡田さんによると、シンプルな合言葉を作るのも効果的だと言います。
「経営トップは、日頃から会社のビジョンやミッションを発信し続ける必要があります。その上で、社内でそれに反する事があれば、報告する必要があるというメッセージを、簡単な合言葉にして従業員に伝えるのです」
岡田さんは「カレーハウスCoCo壱番屋」から廃棄委託された冷凍カツが、廃棄処理業者によって横流しされた事件を例に挙げます。不正転売の事実は「カレーハウスCoCo壱番屋」の系列店に勤務するパート従業員がスーパーマーケットで買い物中に発見し、店長を通して本部に通報した事から発覚。
「カレーハウスCoCo壱番屋」は確認と調査をほぼ1日で終え、発覚から2日後にはプレスリリースを発表しています。ネット上で神対応とも称される、この迅速な対応の背景には、日頃から“会社に関わる全ての人々の幸福感の共有”との経営目的が社内に根づいていた上で、“嘘はダメ、不正は報告する”と言う簡単な合言葉がパート社員にまで浸透していた事が挙げられます。
注意していても、もし企業が不祥事を起こしてしまった場合はどのように対応したらよいのでしょうか。見事な対応でイメージ回復を果たした2社の事例を、岡田さんが解説します。
2018年4月に米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が、個人情報の不正流出問題等について米上下院の公聴会で証言しました。
「普段はジーンズにTシャツ姿とカジュアルな装いですが、公聴会にはスーツとネクタイを着用して臨み、身だしなみから真摯な姿勢を印象付けました」と岡田さんは説明します。
ザッカーバーグ氏は「この会社を始めたのは私で、私が運営してきた。ここで起きていることの責任は私にある」と述べ、冒頭から一貫して低姿勢で、謝罪を繰り返しました。矢継ぎ早に出る議員からの鋭い問いにも、NGなしで回答。
「原稿を読むのではなく、ほぼ全て自らの言葉で答えていたことから、万全に準備をしていた事が見て取れました。フェイスブックの株価は一時的に落ち込みましたが、その後の回復は早く、この証言が世間から高い評価を得た事を裏付けています。トップの発言力と対応力で、危機は乗り越える事ができるのです」(岡田さん)
2013年には、チロルチョコに芋虫が混入していたという苦情が、Twitterに写真付きで投稿されました。ネット上で瞬く間に拡散される中、チロルチョコの公式Twitterアカウントに投稿された回答が、炎上を阻止。苦情のあった商品は約半年前に出荷されたと説明した上で、写真の芋虫は30日~40日以内の幼虫であると回答。芋虫が商品購入後に混入した事を説明しました。
「取締役レベルまでの確認を終えて、Twitter上での回答を投稿するまで約3時間という迅速さ。加えて、投稿者を批判することなく、事実のみを分かりやすく説明した内容が功を奏しました。この回答は約1万回もリツイートされ、公式アカウントのフォロワーが1000人以上増えたと言います。対応次第では、ピンチをチャンスに変えることもできるのです」(岡田さん)
自社で不祥事が発生した場合、どのような対応策を取れば良いでしょうか。パニックに陥らないために、日頃から備えておく事が重要です。岡田さんは、リスクコミュニケーションの基本を7つのステップで説明します。
対策チームのメンバーをあらかじめ選出し、緊急連絡網を作成しておきます。メンバーには社長、役員全員、工場長など各現場の責任者、広報、人事、総務、顧問弁護士などが含まれます。また、一人でも危機対応の知識を持ったリスクコミュニケーターを養成しておくと安心です。広報部門がない場合でも適任者を任命し、オンライン講座などを活用してトレーニングを実施。その内容は対策チームにも共有してもらいましょう。
事実確認や原因究明に加え、影響が及ぶ人数や人命に関わるか否かなど、リスクレベルを判断します。
たとえば、とある企業の顧客情報が流出してしまったとしましょう。“個人情報が漏れた可能性があり、詳細は調査中”など、簡潔に概要を説明する第一報を発表します。こうした暫定コメントを「ホールディングコメント」といいます。詳細不明の状況であっても、ユーザーがパスワードを再設定するなど初期対策を取ることができ、少しでも被害を抑える効果があります。
1.の対策チームに税理士や社会保険労務士など、必要に応じて不祥事に関連する知見を持った専門家をメンバーに加えます。
毎月、自社で起こりうるリスクは何かを議論しておくことをおすすめします。そうする事で、もしもの時のプレスリリースの内容がイメージしやすくなります。余裕があれば、自社で想定される不祥事のパターン別に、プレスリリースのテンプレートを用意しておきましょう。
不祥事発覚から3時間以内の配信が理想的ですが、即応力が求められるため日ごろからの準備が求められます。また、プレスリリースを発表するまでもないレベルの問題の場合でも、今後の改善のために社内に情報を共有し、必要に応じて管轄の省庁に報告するなどの措置を取りましょう。
人命や個人情報に関わる内容はもちろん、影響する人数や金額の範囲が大きい場合には、記者会見で詳しい内容を語る必要がありますが、その判断は難しいものです。普段から自社で起こりうるリスクをレベル分けしておき、あらかじめ判断基準を決めておくとスムーズです。
会見を実施すると判断した場合、ホールディングコメント発表から48時間以内の開催が目標です。48時間を過ぎてしまうと隠蔽したとみなされることがあるからです。しかし、実際の準備には時間がかかるものです。日頃から自社で起こりうるリスクを想定し、不祥事のパターン別に対応の流れをイメージしておく事が、緊急時の迅速な対応へと繋がります。
経営トップ自らが謝罪。事実に基づいて冷静に経緯を説明した上で、再発防止策を添えます。会見は途中で打ち切らず、最後まで丁寧に回答。事実を隠す、嘘をつく、言い訳をするなどの、不誠実と見られる対応は絶対に避けましょう。
「自社の商品やサービスを広く知ってもらうための積極的なPR活動はとても重要です。それと同時に、情報発信にはリスクがつきもの。普段からミスや不正を指摘し合える企業文化の醸成を心がけると共に、万が一に備えて円滑なリスクコミュニケーションの準備をしておきましょう」(岡田さん)
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