雇用慣行賠償責任保険とは?業種を問わず加入を検討すると良い理由を解説
雇用慣行賠償責任保険は、従業員から不当解雇やパワハラ、セクハラなどを理由に、損害賠償を請求されたときに生じる損害を補償する保険です。業種にかかわらず、雇用に関するトラブルは、企業経営において避けがたい問題です。この記事で、雇用慣行賠償責任保険の補償内容や選び方などをわかりやすく解説します。
雇用慣行賠償責任保険は、従業員から不当解雇やパワハラ、セクハラなどを理由に、損害賠償を請求されたときに生じる損害を補償する保険です。業種にかかわらず、雇用に関するトラブルは、企業経営において避けがたい問題です。この記事で、雇用慣行賠償責任保険の補償内容や選び方などをわかりやすく解説します。
目次
雇用慣行賠償責任保険とは、ハラスメントや不当解雇などで、労働者から損害賠償責任を負ったときの費用や、紛争の解決に要した費用を補償する保険です。
そもそも雇用慣行とは、法令等で定められているわけではないものの、労働者の働き方や賃金の設定方法など、雇用分野に根付いている慣習のことを指します。
雇用慣行賠償責任保険に加入すると、会社や役職員、従業員などが、以下のような「不当行為」によって損害賠償を負ったきに、所定の保険金が支払われます。
結論からいえば、企業にとって雇用慣行賠償責任保険の必要性は高いといえます。雇用トラブルの被害者が声をあげやすくなったことで、企業は不当行為に対する責任を追及されやすくなったためです。
終身雇用が崩壊したともいわれる現代の日本では、新卒入社会社に定年まで勤める人は減ってきています。非正規雇用者の割合も増加傾向にあるため、企業には、正社員や派遣社員・契約社員、パートなどさまざまな雇用形態で働く人が在籍しています。
ハラスメントや不当解雇などを意図的にする方は少ないでしょう。しかし、発言や行動に対する捉え方は人それぞれ。違った価値観をもつ人々が、さまざまな雇用形態で働く昨今の労働環境では、無意識の行動や発言が損害賠償問題に発展することがあるのです。
こうした背景から、労働関係の民事通常訴訟事件の新受件数は、1989年(平成元年)に640件であったのが、2019年(令和元年)には3,615件まで増加しています。※出典:図3-1 労働関係訴訟、労働審判│独立行政法人 労働政策研究・研修機構
また労働者が会社側の不当行為を追及する手段は、民事裁判だけではありません。例えば、2006年(平成18年)に始まった「労働審判制度」は、平均約2か月半の審理期間で労働紛争の解決が見込めるため、労働者は会社に責任を追及しやすくなりました。
労働審判の新受件数もまた、制度がはじまった2006年(平成18年)の877件から、2019年(令和元年)には3,665件まで増加しています。※出典:図3-1 労働関係訴訟、労働審判│独立行政法人 労働政策研究・研修機構
雇用慣行賠償責任保険は損害保険であるため、契約するときに定めた保険金額を上限に、実際の損害額が支払われます。保険金の支払対象となる費用は、保険会社によって異なりますが、おおむね次のとおりです。
不当行為で訴えられた場合の損害賠償額は、数十万円のケースもあれば数千万円にのぼるケースもあります。もし損害賠償金の支払いを命じられた場合、会社経営に大きな打撃を与えかねません。
また労働紛争の解決には、弁護士をはじめとした専門家の協力が不可欠であるため、相談料や着手金などが発生するでしょう。雇用慣行賠償責任保険に加入していれば、こうした損害賠償金や弁護士へ支払う費用などを保険金でカバーできます。
ただし保険会社によっては、保険金の支払時に一定の自己負担額が差し引かれる場合があります。「一連の相談につき100万円まで」のような限度額が設定されることもあるため、加入する前に契約内容を入念に確認することが大切です。
雇用慣行賠償責任保険の補償対象となるのは、次のようなケースで負った損害賠償金や弁護士費用などです。
雇用慣行賠償責任保険では、基本的に訴えられた人の雇用形態は問われません。正社員、契約社員、派遣社員、パートだけでなく、保険期間(補償が有効である期間)のあいだに退職をした方や、採用応募者からの賠償責任も補償の対象となります。
また訴えられる側は、企業の役員や管理職である必要はありません。肩書がない従業員が、派遣社員やパートに不当行為をしたことで、賠償責任を追及された場合も補償の対象となります。
雇用慣行賠償責任保険の保険料は、業種や会社の規模、保険金の支払限度額、加入する保険会社などで大きく異なります。
保険会社によっては、従業員が100名、保険金の支払限度額が1,000万円である場合、年間数万円ほどの保険料で加入できます。一方で、支払限度額の設定や従業員数、業種次第では、年間の保険料が100万円を超えるケースもあるのです。
なお保険会社によっては、保険料に所定の割引が適用されることがあります。雇用慣行賠償責任保険への加入を検討する際は、複数の保険会社から見積もりを取り寄せて比較すると良いでしょう。
雇用慣行賠償責任保険を選ぶ際のポイントは、以下の3点です。
企業の損害賠償責任のリスクは、業種によって大きく異なります。
例えば、飲食店であれば提供した食品が原因で顧客が食中毒を起こして損害賠償を請求されるリスクがあります。建設業の場合、建設機器が工事現場付近にあるモノや通行人などに損害を与えるかもしれません。
雇用慣行賠償責任保険の多くは、損害保険会社が取り扱う企業向けの損害賠償保険に特約をつける形で加入できます。損害保険会社の担当者、自社が優先して備えるべきリスクを相談したうえで、雇用慣行賠償責任保険に加入するか決めるのも方法でしょう。
また保険会社によって、保険金の支払要件や保険料の算出方法、適用される割引などに違いがあります。雇用慣行賠償責任保険を選ぶ際は、複数社の商品を比較して選ぶと良いでしょう。
2021年11月現在、雇用慣行賠償責任保険(特約)を取り扱う保険会社の例は、以下のとおりです。
雇用慣行賠償責任保険は、単品で加入できるケースもあれば賠償責任保険に特約として付帯できる場合もあります。また損害保険会社が引き受け会社となって、雇用慣行賠償責任保険を取り扱う団体もあります。
懇意にしている保険会社や所属している団体が、雇用慣行賠償責任保険を取り扱っているか確認すると良いでしょう。
雇用慣行賠償責任保険は、基本的に日本国内で行われた不当行為によって、日本国内でなされた損害賠償請求が補償対象です。海外で行われた不当行為や、海外でなされた損害賠償請求は、原則として補償されません。
また、複数の保険会社で損害賠償責任保険に加入している場合は、補償が重複していないか確認しましょう。重複して加入し保険料を余分に支払っていても、必ずしも多くの保険金を受け取れるとは限りません。
人を雇っている企業は、意図せずともハラスメントや不当解雇などで訴えられるリスクを抱えています。訴えられてしまうと、損害賠償金や弁護士への相談料、着手金などの支払いが多額になり、企業経営を圧迫するかもしれません。
雇用慣行賠償責任保険に加入していれば、損害賠償金や弁護士への費用などを保険金でカバーできます。従業員がいるすべての企業は、雇用慣行賠償責任保険を検討してみてはいかがでしょうか。
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