【デジタル課税とは】仕組みや日本企業への影響を分かりやすく解説
大規模なグローバル企業への課税強化を盛り込んだ「デジタル課税」のルールが2021年10月、世界136カ国・地域の間で合意に至りました。制度の仕組みや適用対象となる企業の基準、適用対象外の日本企業が間接的に受ける影響について、税理士法人山田&パートナーズの税理士が分かりやすく解説します。
大規模なグローバル企業への課税強化を盛り込んだ「デジタル課税」のルールが2021年10月、世界136カ国・地域の間で合意に至りました。制度の仕組みや適用対象となる企業の基準、適用対象外の日本企業が間接的に受ける影響について、税理士法人山田&パートナーズの税理士が分かりやすく解説します。
目次
2021年10月8日、経済のデジタル化に伴う課税上の問題に対応するため、新たな国際課税のルール、いわゆる「デジタル課税」の導入が136カ国・地域によって合意に至りました。このルールは23年中(一部は24年中)の実施が目標とされています。
デジタル課税は大規模なグローバル企業に対する税制なので、適用企業は少ないと考えられます。しかしながら、デジタル課税導入による間接的な影響は、適用外の企業にも少なからず発生する可能性があります。
本稿では、デジタル課税導入の背景や仕組み、適用外の企業にもたらす間接的な影響について基本から解説します。
デジタル課税は「経済のデジタル化に伴う課税上の問題に対応するための新たな国際課税のルール」で、大きく次の二つになります。
それ以外の細かなルールの導入も検討されていますが、今回は導入が決まっている主要なルールを解説します。
新しい国際課税のルールは「デジタル課税」と呼ばれていますが、これらのルールが適用されるのは、一定以上の売り上げや利益率がある大規模なグローバル企業(以降「多国籍企業」といいます)です。
IT企業だけが対象となるわけではない点に注意が必要になります。
経済のデジタル化によって、様々なものをデータ化しインターネット上でのやり取りができるようになりました。
その結果、物理的な拠点を設置しない海外での展開や、グローバルな事業展開(例えば、A国で製造、B国で販売、C国でそれらを管理)が容易になり、データそのものも重要な収益源となりました。これによって、課税上の問題が二つ生じました。
一つ目は、物理的拠点がない国に進出する企業の事業に、市場国が課税できないという問題です。
現行の国際課税のルールでは、外国企業がある国で事業を行う際、その国に店舗など事業を行うための物理的な拠点を有していないと課税できません。
例えば、日本で事業を行う米国企業に対しては、その企業が日本国内に店舗などの物理的拠点を持っていない限り、その事業には課税できないということです。
物理的拠点を課税の根拠とする国際課税のルールは、1920年代に生まれました。当時はインターネットやデジタル技術もなく、店舗などの物理的拠点なしに事業を行うことは考えられない時代でした。当時は物理的拠点を課税の根拠とする考え方が合理的であったと言えます。
しかし、デジタル技術の進展によって物理的拠点なしに海外に進出できるようになったことで、市場国がその事業に対して課税できないという問題が生じました。
これを解決するため、大規模な多国籍企業の利益を市場国に配分するルールが導入されることになりました。
二つ目は、軽課税国への所得移転によって本店所在地国の税収が損なわれたり、法人税の引き下げ競争が行われたりするという問題です。
グローバルな事業展開が進んだことで、重要な収益源となる顧客データなどの無形資産を、軽課税国に移転することも容易になってきました。
これは経済のデジタル化の影響で、軽課税国への所得移転が容易になったと言い換えることができます。
本店所在地のある国の所得が軽課税国に流出し、また法人税の引き下げ競争が行われることで、各国の税収基盤の弱体化や企業間の公平な競争条件が妨げられるという問題が生じました。
この問題を解決するため、企業の所在地がどこであっても最低税率(15%)以上の税負担が発生するルールが導入されることになりました。
ここからは、デジタル課税の仕組みについて説明します。
前述したように、デジタル課税は大きく二つのルールからなります。順番に詳細を解説します。
多国籍企業の物理的拠点が置かれていない市場国に対して、公平な課税権の配分を行うためのルールです。
このルールが適用されるのは、売上高200億ユーロ(約2.6兆円)超、かつ利益率10%超の多国籍企業です。要件を満たせばIT企業に限らず適用されます。
売り上げの基準値が約2.6兆円と大きいことから、世界の大規模企業上位100社程度が対象になると言われています。日本で適用対象となるのは数社程度と考えられ、ほとんどの企業は適用対象にはなりません。
このルールが適用される多国籍企業は、利益の一部について以下のルールで市場国に配分します。
このルールでは、複数の国をまたいで利益を配分することになるため、多国間の租税条約によって実施されます。この租税条約は22年中に策定・署名され、23年中の制度実施が目標とされています。
なお、このルールを導入する国は、既存のデジタルサービス税(インターネット広告などのデジタル収益に対して課税する各国独自の税制。欧州やアジアの一部で導入されている)を廃止し、将来にわたっても同様の税制を導入しないことが求められます。
軽課税国への所得移転を防止するルールです。このルールは令和4年度税制改正大綱などで「グローバル・ミニマム課税」と呼ばれているので、以降はグローバル・ミニマム課税と表現します。
連結売上高7.5億ユーロ(約1千億円)の多国籍企業グループが適用対象となります。この基準は、移転価格税制の国別報告書やマスターファイルの提出義務と同水準です。こちらも要件を満たせばIT企業に限らず適用されます。
このルールが適用される多国籍企業グループは、その所在地国に関わらず、国際的に合意された最低税率(15%)以上の税率で課税されます。
もう少し具体的にいうと、実効税率が国際的に合意された最低税率(15%)未満の国にある子会社の所得は、親会社の所在地国で最低税率まで上乗せして課税されます。これを所得合算ルールといいます。
そして、親会社が軽課税国に所在するなどして、所得合算ルールが適用できない場合には、例外的に連結グループ内の支払いを税務上の費用として認めないというルールが適用されます。
グローバル・ミニマム課税は、多国間でのやり取りが発生する内容ではないため、各国の国内法で実施されます。
このルールを導入する国は22年中に国内法の整備を行い、所得合算ルールは23年、軽課税国への支払いを否認するルールは24年の実施が目標となっています。
前述したように、二つのルールはいずれも22年中に導入の準備、23年中の実施が目標とされています(グローバル・ミニマム課税の一部は24年実施目標)。このスケジュールはあくまでも目標で、状況によって遅れることもあり得ます。
デジタル課税は各国が足並みをそろえて導入しないと、効果が大きく損なわれます。21年10月に大枠合意されたとはいえ、各国間のコンセンサスを維持しながら短期間で実施まで持っていくのは、険しい道のりになるかもしれません。
22年中には、デジタル課税の詳細な内容が経済協力開発機構(OECD)から公表される予定です。
デジタル課税は大規模な多国籍企業向けの税制で、対象企業は大きな影響を受けることになりますが、多くの企業に適用されるものではありません。
ただし、直接適用されない企業も間接的には影響を受ける可能性があります。最後にデジタル課税の間接的な影響について見ていきましょう。
市場国に課税権を配分するためには、収益がどの国で発生したのかを把握する必要があります。
そのため、市場国に新たな課税権を配分するルールが適用される大規模な多国籍企業と取引している場合、その企業から、製品の最終購入者やコンテンツの最終消費者の所在地に関する情報提供の依頼があるかもしれません。
このルールが適用される大企業は準備のために事前に動き出すことが想定されます。ルール適用開始を待たずして、どのような情報提供が可能かなどの問い合わせが来る可能性もあります。
自社の規模に関わらず、このルールの間接的な影響を受ける可能性がありますから、取引先がルールの適用対象となるかどうかの確認が重要になってくると考えられます。
物理的な拠点なしに進出してくる多国籍企業に課税するため、インターネット広告などに課税する独自の税制、いわゆるデジタルサービス税を導入している国があります。
しかし、市場国に新たな課税権を配分するルールを導入する国は、デジタルサービス税を廃止することになります。
市場国に新たな課税権を配分するルールが適用されない企業は、デジタルサービス税の廃止という、このルール導入の間接的な恩恵を受けることになります。
進出先の国がデジタルサービス税を導入している場合は、その税制がどのようなスケジュールで廃止されるか、確認しておく必要があるでしょう。
グローバル・ミニマム課税が導入されると、低い法人税率を維持する意義が薄れてきます。企業がすでに進出している、または進出を考えている国の税率が最低税率(15%)未満の場合、税率アップの改正があるかもしれません。
実際、法人税率が12.5%だったアイルランドは、大企業に対する法人税率を15%に上げることを検討しているとの報道もありました。
上記と同様の理由で、企業への優遇税制が廃止される可能性があります。進出先国の優遇税制が今後どうなるか、確認が必要になります。
グローバル・ミニマム課税の導入に伴って、既存の税制が改正される可能性があります。
例えば、日本ではグローバル・ミニマム課税導入の際、負担軽減の観点から既存の税制の見直しも検討する旨が、令和4年度税制改正大綱に記載されています。
税理士法人山田&パートナーズ 国際部 部門長
公認会計士・税理士。2009年、税理士法人山田&パートナーズ入所。日本公認会計士協会租税調査会租税政策検討専門委員会(国際租税グループ)及び国際課税専門委員会専門委員。主に国際税務関連の業務に従事。
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