許認可引き継ぎで知っておくべきリスク 個人事業主と法人で異なる備え
事業承継に伴う許認可等の世代交代について考えるシリーズ2回目は、個人事業主と法人で異なる許認可引き継ぎのリスクや、リスクへの備えをどうするべきかについて、手続きに詳しい行政書士ひまわり法務事務所代表の竹原庸起子さんが解説します。
事業承継に伴う許認可等の世代交代について考えるシリーズ2回目は、個人事業主と法人で異なる許認可引き継ぎのリスクや、リスクへの備えをどうするべきかについて、手続きに詳しい行政書士ひまわり法務事務所代表の竹原庸起子さんが解説します。
目次
本シリーズでは、企業の経営者が保有している許認可等を後継ぎに移す際に、どのようなリスクが発生するかや、事業継続のためにどのような備えをするべきかについてお伝えしています。
前回は許認可等の世代交代をスムーズに進めるために、知っておくべき許認可等の基礎知識(許認可の種類、取得や保持の要件や有効期限など)や、確認すべきポイントを解説しました。2回目は許認可等の基礎知識の続きとして「法人と個人事業主との違い」をお伝えします。
許認可の世代交代をめぐっては、事業形態が法人か個人事業主かによって、注意すべきポイントが大きく異なります。今回は以下の順に解説します。
まずは「法人と個人事業主の場合で何が違うのか」について解説します。商売を始めてからの組織形態は、以下の三つのパターンが考えられます。
いずれのパターンでも、知っておきたいのは「個人事業主と法人の構成の違い」になります。個人事業主の許認可等は事業主その人が持つもので、一代限りが原則です(※例外あり)。一方、株式会社などの法人では事情が異なります。
法人は会社というハコが許認可等を持ち、ハコの中身を見直すことでアレンジやカスタマイズができます。個人事業主と法人は構成が違うことから、許認可等の引き継ぎも様々なケースが考えられるので、それぞれのケースを想定して不測の事態に備えておくことが大切です。ここから表などを使いながら、詳しく説明していきます。
↓ここから続き
個人事業主の場合は、大きく分けて次の五つのケースが考えられます。
個人事業主が死亡した場合 | 1.相続人が承継 |
2.相続人以外が承継 | |
個人事業主が存命の場合 | 3.判断能力が低下(認知症など)した段階での承継(※任意後見シリーズ参照) |
4.個人事業主が元気なうちに親族に承継 | |
5.個人事業主が元気なうちに親族以外に承継 |
法人の場合、建設業許可、産廃収集運搬許可等の変更手続きの対象は「5/100以上の議決権を有する株主」という規定があります。役員の変更についても、許可によって監査役を含む、含まないという違いがございますが、取締役は必ず含みます。
つまり、ある程度の少数株主や平取締役の変更でも影響するということです。
従って許認可等の世代交代を考えるには、株主と役員、両方の視点が必要になります。具体的には次の九つのケースが考えられます。
法人の株主が死亡の場合 | 1.株式を相続人が承継 |
2.株式を相続人以外が承継 | |
法人の役員が死亡の場合 | 3.役員変更・組織変更による経営者交代 |
法人の株主が存命のうちの承継 | 4.判断能力が低下(認知症など)した段階での承継 |
5.株主が元気なうちに親族へ承継 | |
6.株主が元気なうちに親族外へ承継 | |
法人の役員が存命のうちの承継 | 7.判断能力が低下(認知症など)した段階での承継 |
8.役員が元気なうちに親族へ承継 | |
9.株主が元気なうちに親族外へ承継 |
事業承継にあたって許認可の世代交代を考える際に、いずれの準備が必要なのかは、個人事業主五つ、法人九つのケースごとにそれぞれ異なります。
上記のうち、個人事業主のケースは五つすべてで、そして法人の九つのケースでは3、4、7、8、9のケースで、許認可等の世代交代に大きな影響が出てきます。経営者や後継ぎは事前の準備が必要です。
なお、大多数の許認可等の承継においては、親族かそれ以外かで法的、制度的な違いはありません。しかし、比較的知名度が高い「建設業許可」については、相続が関連する許可承継の認可手続きが制度化されたので、許認可全般も相続と無関係とは言えなくなっています。
それでは、個人事業主と法人でどう違うのかを具体的に見ていきます。
個人事業で商売を始めて許認可をとると、その事業主に万一のことがあれば、その時点で許認可が失効するかもしれないリスクが大きくなります。
個人事業主が死亡したり、病気や事故で倒れて意思表示ができなくなったりすると、たちまち許認可が失効してしまう可能性が高いのです。
たとえば、不動産業に必須の宅地建物取引業免許(宅建免許)をもつ個人事業主のAさんが「A不動産」という屋号で経営しているとしましょう。
Aさんが実務の何もかもを担っていた場合、Aさんが万が一亡くなったり、意思表示ができなくなったりしたときは、A不動産で受けた仕事のうち、宅建業免許がなければできない業務(不動産売買や仲介全般)は、続けられないことになります。
次に法人の場合はどうでしょうか。先ほどのAさんが個人事業主ではなく、「株式会社A」という法人で宅建免許を保有しているとしましょう。
株式会社とは株主、資本金、役員が詰まったハコとイメージしてください。中身が流動的でもハコ自体はそのままになります。
ハコの中身は変えることができるので、株主や役員が変わっても、免許取得要件さえクリアしていれば大丈夫です。
株式会社Aの株主と役員、そして宅地建物取引士もAさんである場合、Aさんが急死しても、ハコはそのままです。
免許要件を満たすほかの誰かが役員になり、誰か資格者を雇用して宅地建物取引士をハコの中に入れれば事業承継ができるので、免許は失効せず商売には影響が出ません。
ただし、宅地建物取引士としての実態が重要になるので、名義貸し状態にならないよう留意しなければなりません。
許認可のなかには、個人事業主では取得できないものもあります。たとえば介護事業に必要な介護保険法による居宅サービス等事業所指定を受ける場合や、介護タクシーの介護事業所指定、医療法人の認可は法人でなければ受けられません。
個人事業主ではこれらの指定、許可、認可は受けられません。従って、法人で営業を続けていて、節税や事業縮小など何らかの事情で個人事業主になる、いわゆる「個人成り」をした場合、これまでと同一の事業を行えない場合もあるので注意が必要です。
個人事業主で商売を始めて許認可を取得したあと、事業規模拡大のために株式会社にするケースがあります。いわゆる「法人成り」です。
その場合、原則として個人事業主の際に取得していた許認可はいったん失効しますので注意が必要です。
法人成りと許認可のシフトがスムーズにできればいいのですが、できない場合は許認可がない空白期間ができてしまい、事業に支障が生じます。
法人成りの際は、自身の許認可の棚卸しと、法人成りをした後の許認可の要件をどのように後継ぎに引き継がせるのか、事前に検討しておきましょう。
(※注:建設業許可の認可制度や、飲食店営業許可の地位承継の制度のように、事業承継の制度がある場合もあります。許認可等の種類によってあくまで異なることを申し添えます)
法人は取締役などの役員、資本金などの資産、国家資格者等の許認可要件として名簿に掲載する者で構成されています。
その役員などのうち、1人でも許認可等の欠格事由(罰金や禁錮などの刑に処せられてから5年を経過していない、破産宣告から復権していないなど)に該当してしまうと、許認可失効のリスクがあります。
法人はリスク回避のために、事前に資格者を複数人選任しておくことができるのが個人事業主との違いになります。
例えば、取締役のうち1人に欠格事由が生じた場合、すぐに退任してもらい、別の役員で許認可を維持することができます。新たな役員報酬などはかかりますが、先を見据えて複数の選任でリスク管理をしておきましょう。
許認可等は車に例えれば、個人事業主でも法人でもエンジンになります。
資金や資産、資本金、場所、経営ノウハウなどは事業を進めるアクセルになりますが、いくらアクセルを踏みこんでも、許認可というエンジンがかからないと、会社は回らないのです。
要件さえ満たせば、一つの企業で複数の許認可も保有できます。つまり、エンジンをいくつも持てることになります。
どのエンジンも会社にとっては重要で、一つのエンジンが壊れてしまったら、ほかのエンジンを壊すかもしれませんし、たとえ壊れなくても馬力が小さくなり、経営を圧迫しかねません。
例えば、役員の欠格事由などで建設業許可が失効すると、その企業が一緒に保有する宅地建物取引業免許も失効してしまう可能性が高くなります。
(※注:許認可要件は各許認可によって微妙に異なることから、片方の許認可は失効する事象でももう片方は失効しない場合もあります。許認可によっても、地域によっても事情が異なることを申し添えます)
では、一方の許認可が取り消されて事業ができなくなった場合、関連する別の許認可にもとづく事業は継続できるのでしょうか。
解決策としては分社化などの方法があります。分社化などで許認可等のリスク管理ができ、かつ事業承継準備を円滑にできるのです。
法人を複数所有する、あるいは経営主体を法人と個人事業主に分けることで、経営者に万が一のことがあった場合でも、後継ぎが困らない承継ができるのです。
ここで実際にあった例をもとに解説します。以下の図をご参照下さい。
建設業許可(建築一式工事を請け負うことができる許可)を保有するC社が、宅地建物取引業(宅建業)も所有して事業を進めていました。
そんな中、役員1人が建設業許可と宅地建物取引業免許に重複する欠格事由に該当してしまった場合、両方とも失効してしまいます。こうなるとC社は何も事業ができなくなり、許認可の世代交代どころか廃業の危機に直面します。
一方、もしC社が自社で宅建業免許をとらず、別に立ち上げたグループ会社で免許を取得し、その会社の役員はC社と重ならないようにすることで、不測の事態に備えられます。
つまり、C会社の役員が欠格事由に該当しても宅建業免許をもつ別会社は無傷でいられるのです
(※ただし、宅建業免許には親会社に欠格事由がある場合、子会社も欠格事由に該当すると判断される場合があるので、注意が必要です。ペーパーカンパニー対策として、許可申請時に事務所の写真や事業所の賃貸契約を確認することや、許可通知を所在地に郵送する、行政からの現地確認など、許可によっては会社としての実態を確認する仕組みもあります)
このように営業主体を許認可ごとに分けることで、生き残りを図れます。許認可の世代交代においても、たとえば、ある許認可は長男へ、もう一つの許認可は次男に引き継ぐような形で、要件が失効しないよう準備をしておきましょう。
許認可は要件を満たすことがすべてです。一瞬でも失効してしまうと、取り戻せないことになってしまいます。事前に自社の許認可等を知り、要件をしっかりと把握しておきましょう。
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