建設業の許可を円滑に引き継ぐには 準備や失効回避のポイントを解説
建設業は許認可が事業継続の前提となるケースが多く、代替わりとともに許可の引き継ぎもスムーズに進めなければいけません。失効につながりかねないリスクや準備を円滑に進めるポイントについて、実務に詳しい行政書士ひまわり法務事務所代表の竹原庸起子さんが解説します。
建設業は許認可が事業継続の前提となるケースが多く、代替わりとともに許可の引き継ぎもスムーズに進めなければいけません。失効につながりかねないリスクや準備を円滑に進めるポイントについて、実務に詳しい行政書士ひまわり法務事務所代表の竹原庸起子さんが解説します。
目次
本シリーズは許認可を保有している企業の経営者と後継ぎが抱えるリスク、そして事業継続への備えについて順にお伝えしています。3回目からは業種別に許認可の引き継ぐポイントや注意点を解説します。
今回は建設業を取り上げます。建設業者は47万5293社(2022年3月末時点、国土交通省まとめ)もあり、後継ぎがいるファミリービジネスも少なくありません。許認可の承継準備を怠ると起こりうる事態についてみていきましょう。
建設業許可とは建設業法3条に規定されています。法人でも個人事業主でも、また請け負う工事が公共か民間かを問わず、完成を請け負う業務を行うために必要なものです。
建設業許可は建設工事の種類ごと(業種別)に取得が必要です。建設工事は、土木一式工事と建築一式工事という二つの一式工事のほか、27の専門工事の計29種類に分類されています(参考リンク)。この建設工事の種類ごとに許可を取得することとされています。
なお軽微な工事のみを請け負う場合、建設業許可は不要です。許可が不要な軽微な工事とは、建築一式工事以外の工事のうち1件あたりの請負金額が500万円(消費税込み)に満たない工事を指します(建築一式工事のみ基準が異なります)。
建設業許可業者ということは、行政から経営能力、技術力、金銭的信用性があると認められたようなものです。事業者によっては建設業許可がなければ営業継続は不可能で、要件が欠けてしまったために許可が失効し、廃業に追い込まれることさえあります。そのような事態を避けるにはどうすればいいか、次章から詳しく見ていきます。
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最近では大手企業を中心に、建設工事を発注する際に建設業許可の保有業者でなければ取引をしない傾向にあります。
建設業許可は建設業に携わる事業者に必須であるだけではありません。今より大規模な工事を請け負い、会社の対外的な信用度をアップさせ、金融機関からの融資を受け、公共工事の入札に参加するためにも必須です。
事業承継を控える建設業許可業者が廃業に追い込まれないように、「渡す側(経営者)」と「もらう側(後継ぎ)」が、10年先を見据えて準備しておくべきことをお伝えします。
なお、本稿では建設業許可を保有する業者のことを「建設業者」と呼びます。
まずは建設業許可の核となる「経営業務の管理責任者」と「専任技術者」について、常に「ベンチ入り要員」を確保しておくことが重要になります。それぞれ順番に説明します。
営業取引上、対外的に責任を有する地位にあって、建設業の経営業務について総合的に管理し、執行した経験を有する者のことです。
法人の場合は常勤の役員のうち1人が、個人事業主の場合は本人または支配人が要件を満たすことが求められます。
具体的には、建設業に関して5年以上役員あるいはそれに準じる地位にある者として経営業務の管理経験を有すること、もしくは6年以上役員に準じる地位にある者として経営業務の管理経験を補佐したことなどが要件となります。
また近年の法改正では、本人の役員経験が2年程度と短くても、財務管理、労務管理、業務運営について5年以上の経験のある者が直接補佐する体制があれば良いことになりました(参考リンク)。
常勤の役員もしくは契約期限の定めがなくフルタイムで勤務している従業員のうち、建設業者が取得した許可業種に必要とされる国家資格・民間資格を保有する者、もしくはそれに相当する実務経験を有する者のことを指します。詳細は許可業種によって要件が細かく異なります(参考リンク)。
経営業務の管理責任者や専任技術者が急死、あるいは急な退職などでいなくなると、2週間以内に代わりの者が就任しなければ許可は取り消しになります。
従って事前に「ベンチ入りの交代要員」を決めておき、かつ公にしておくことが必要となります。
経営業務の管理責任者の「ベンチ入り」を確保するためのコツは次の通りです。
専任技術者の「ベンチ入り」を確保するためのコツは次の通りです。
「ベンチ入り要員」になれる人材かどうかは、その人の経歴、卒業した学校、職歴、取得資格によって若干の差があります。事前に行政書士などの専門家に相談してください。
2020(令和2)年10月2日施行の改正建設業法により、経営者と後継ぎが注目するべき「承継認可の制度」ができました。
今までは会社が合併、会社分割、事業譲渡を行う場合、もしくは個人事業主が死亡した場合は許可が消滅して新しい許可を取らなければならず、場合によっては許可がおりるまでの間に建設業許可がない空白期間が生じていました。
許可が取り消されるような不祥事もなく、後継ぎは決まっていて、働ける人員もいるのに許可が失効してしまうという不便さが問題になっていました。
こうした問題に対応するため、制度改正で建設業の事業承継や相続への備えがしやすくなりました。
この承継認可には4種類あります。詳しくは以下の図表をご確認下さい。
対象 | 承継の形態 | 内容 | 認可 |
---|---|---|---|
①個人事業主 and 法人 |
事業譲渡 (個人→個人) (個人→法人) (法人→個人) (法人→法人) |
建設業者が許可に係る建設業の全部の譲渡を行う場合に、事前に認可を受けておくことで、許可を取り直さなくてもよくなる | 事前に認可が必要 |
②法人のみ | 法人の合併 (吸収合併) (新設合併) |
建設業者である法人が合併により消滅することとなる場合に当事者が事前に認可を受けておくことで新たな法人は、当該合併の日に、合併消滅法人の建設業法上の建設業者としての地位を承継することができるようになる | 事前に認可が必要 |
③法人のみ | 法人の分割 (吸収分割) (新設分割) |
建設業者である法人が分割により建設業の全部を承継させる場合、当事者が事前に認可を受けておくことで、分割後に経営する法人は、当該分割の日に、分割被承継法人の建設業法上の建設業者としての地位を承継することができるようになる | 事前に認可が必要 |
④個人事業主のみ | 個人事業主死亡の場合(相続発生後) | 建設業者が死亡した場合において、当該建設業者の相続人が建設業者の営んでいた建設業の全部を引き続き営もうとするときは、その相続人は認可を受けなければなりません。 | 個人事業主死亡後30日以内に認可必要 |
①~③についてはM&Aに加え、経営者が一線から退いて後継ぎに任せたい場合、また個人事業から法人成りする際にも活用したい制度です。
これは建設業者が他の企業に事業を譲渡したり、合併や分割を行ったりする場合に許可も引き継がせることができる仕組みです。
これによって後継ぎがいない場合でもスムーズに承継させることができます。また後継ぎがいても、その後継ぎがすでに所有する別の会社に引き継がせて事業承継を完成させることもできます。
注意点としては、事前に認可が必要になることです。この認可を考えたらすぐに行政書士などの専門家に相談しましょう。
④については、経営者が個人事業主であり、相続人に後を継がせたい場合、事前にこのような制度があることを知っておくことが大切です。
なぜなら経営者が死亡後30日以内に認可申請を提出しなければならず、期間が短いからです。あっというまに期限が来て、引き継げたはずの建設業許可が消えてしまう事態になりかねません。詳しい手続きは次章で説明します。
なお、国土交通省によると、2021(令和3)年度に「承継認可の制度」を活用したケースは1127件でした(※下記図表は国土交通省資料「建設業許可業者数調査の結果について(概要)―建設業許可業者の現況」から抜粋)。
譲渡及び譲受け | 合併 | 分割 | 相続 | 事業承継総件数 | |
---|---|---|---|---|---|
件数 | 947 | 58 | 41 | 81 | 1127 |
20(令和2年)度の建設業者の倒産件数は1266件、休廃業・解散件数7037件でしたが、 この中には承継認可制度を使えば廃業しなくても済むケースがあったかもしれません。
建設業の事業承継認可制度に関し、図表に示した④相続のケースを前提に、経営者と相続人である後継ぎが、今からできる対策のポイントをお伝えします。
許認可の事業承継では、官公庁の手引きだけでは素早く対処できないことが少なくありません。実務的なポイントをお伝えしますので、参考にしてください。
被相続人の死亡後30日以内に認可申請しなければならないのですが、相当なハードなスケジュールになります。万が一のときに後継ぎが許可を引き継げる方法があるから大丈夫だと思っていると痛い目にあいます。
単独相続(相続人になる者が1人だけの場合)なら、被相続人(死亡した経営者)と相続人(後継ぎ)の関係性を示す戸籍一式などの必要書類をそろえることは比較的容易かもしれません。
しかし、相続人が複数いる場合は、後継ぎになる予定の相続人が建設業許可を承継することについて他の相続人の同意も必要となり、同意書または遺産分割協議書といった書面で示さなければなりません。
経営者が死亡して30日以内に、葬儀なども行いつつ相続人全員の意見を取りまとめ、全員から書面に印鑑を押してもらうのはかなり厳しいでしょう。実際の相続では、相続人の数が10人以上にのぼるケースも珍しくありません。
相続人の数が多い場合、戸籍などの必要書類の収集に時間がかかり、誰が承継するかで意見が割れるなどの問題が起こりえるのです。
従って相続人の数が多い場合は、後を継ぐ予定の相続人が建設業許可を引き継ぐにあたって、他の相続人から同意書を得るなど十分な対策をしておきましょう。
事業を引き継ぐ相続人は許可の要件を備えていることが必要です。具体的な要件は割愛しますが、事業を引き継ぐ相続人がすべての要件に該当しているかどうかは、事前に予習しておきましょう(参考リンク)。
万一要件を満たしていなかった場合、経営者死亡の際に承継認可の制度が使えず、結果的に許可が失効して仕事を引き継ぐことができない事態になりかねません。
後継ぎである相続人が、すでに被相続人の許可と異なる区分(一般・特定)の建設業許可を持っている場合は注意が必要です。一般・特定の両方の許可を同時に持つことができないため、許可がバッティングする区分について先に廃業しないと、承継できません。
つまり、経営者が個人事業主として建設業を営んでいるのと同時に、後継ぎもすでに建設業許可をもって業務を行っていた場合は、事業承継の認可手続きと自らの部分廃業の手続きを同時に進めなければならない可能性があります。あらかじめ許可の内容を把握し、検討しておくことが大事です。
なお、29種類の業種ごとに一般許可と特定許可が存在するので、バッティングが起こらなかった業種はそのまま承継、バッティングが起こった業種は先に自分の許可を廃業してから承継、といった部分的な廃業手続きが発生する可能性があります。
今回は建設業許可をもつ経営者が、事業承継させる後継ぎに安心して引き継ぎをしてもらいたい場合について取り上げました。
万が一の時には「何とかなる」という考えではなく、「代替要員はいるのか」、「急死した場合はどんな制度があるのか」など、スムーズに事業を引き継ぐための備えについて、広範囲に考えを巡らせましょう。
その際は、自分一人で抱え込まず、事前に頼れる専門家を決めておくことも大切になります。
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