目次

  1. 離職防止の重要性
  2. 離職の3つの原因
    1. 給与・待遇・労働条件への不満 
    2. 職場の人間関係への不満
    3. 能力・個性・資格を活かすことができない仕事への不満
  3. 離職防止対策おすすめのアイデア4選
    1. 人事評価制度の透明化
    2. 働きやすい職場環境の整備
    3. 多様な社内ネットワークの構築
    4. 社内の異動制度を公募制にする
  4. 離職防止の取り組み事例
    1. プロジェクト単位で社内公募。やりがいのある職場で定着率向上
    2. 心理アセスメントを活用してコミュニケーションの質を改善
  5. 企業の価値をあげるために離職防止を対策しよう

 昨今、離職防止対策を図る企業がよく見られるようになってきました。筆者の周りでも、どうすれば社員を離職させずに済むか、考えを巡らせている経営者は少なくありません。

 離職対策をしないことによって企業が被る最大のリスクは、人離れが人離れを呼ぶ負のサイクルができてしまうことです。

 離職が発生すると、その離職した社員の持っていた業務を、残っている社員たちで分配することになります。その結果、長時間労働が進んで社員に健康被害が発生するなどの労災リスクが生まれ、結果的にさらなる離職を呼んでしまう可能性も出てきます。

 また、離職率が高くなればなるほど「働きにくい会社」というイメージにつながります。そのため、何ら手を打たずに離職者を増加させてしまうと、求人票を出しても出しても採用できない状態になってしまいます。

 とくに今、日本は労働人口が減少し、深刻な採用難に陥っています。

 総務省統計によると、2021年平均で日本の労働力人口は前年比8万人減の6860万人でした。年齢別でみると15歳から24歳層は前年比7万人で、新卒で社会人になる人の人数が大きく減少しています(参照:労働力調査令和3年平均結果の概要Ⅰ 基本集計 p.1,2│総務省)。

2021年平均で日本の労働力人口(総務省の労働力調査)

 また、厚生労働省の調査では、45%の企業が「未充足求人があった」と回答しています(参照:労働経済動向調査(令和3年2月)の概況Ⅳ 結果の概要 p.10│厚生労働省)。働く人が少なくなっているがゆえに、求人を出しても思うように採用できない企業が少なくないのが今日の状況です。

 加えて、その影響で、採用にかかるコストも増加傾向(インターンシップの長期化や面接回数の増加など)にあり、長く働いてもらわないとそのコストを回収できないケースがしばしばあります。

 このような状況から、各社とも採用した社員の定着のために手厚い福利厚生制度を用意するなど、離職防止の対策を行っているのです。

 社員が離職する理由はさまざまですが、厚生労働省の「令和3年上期雇用動向調査結果の概況」(PDF方式)によると、定年・契約期間の満了を除く離職の理由として挙げられているもののうち、男女とも割合の大きな理由は次の通りでした。

  1. 給与・待遇・労働条件への不満
  2. 職場の人間関係への不満
  3. 能力・個性・資格を活かせない仕事への不満

 給与の少なさと労働条件、休日の有無、長時間の残業など給与や労働条件面での待遇を不満として離職する人は男性で14.0%、女性では16.9%(令和3年上期雇用動向調査結果の概況 p.17│厚生労働省より算出)に上ります。

 給与については生活に直結するものであり、労働条件も日々の働きやすさの重要な要素です。

 WeWork Japan 合同会社が実施した「コロナ禍長期化における働き方」に関する調査によると、2人に1人はオフィス出社とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークをしたいと考えており、 81%が自分の働き方について裁量を持ちたいと考えています。

 働き方に対する社員の意識はかなり高まっているといえます。給与は働きやすさや労働条件で決まってくる部分も大きいので、社員の労働に対する報酬が制度面で報いられていないと不満がたまる可能性が高まるでしょう(参照:【コロナ禍長期化における働き方意識調査】2人に1人がオフィスとテレワークを組み合わせるハイブリッドワーク希望|PR TIMES)。

 日本労働調査組合が実施した「職場の人間関係に関するアンケート」の結果によると、職場の人間関係を理由として退職・転職を検討したことがある人は58.5%に上ります。

 また、離職した人のうち男性で8.8%、女性で13.3%が人間関係を理由として離職しています(参照:令和2年雇用動向調査結果の概況 p.16│厚生労働省)。

 現在はコロナ禍でテレワークが定着して人間関係を気にしない人も増えてきましたが、反面、主体的に関わらないと合意形成の場に参加できず、疎外されたような感覚に陥る人も少なくありません。また、テキストコミュニケ―ションによる感情のすれ違い、伝達の過不足によって生じた軋轢に悩む人もいます。

 一方、出社が減ったことで社内でのネットワークが作りにくくなり、OJTがうまく機能していないことに悩んでいる企業も多いようです。

 リカレント、リスキリングなど自ら学びの場に飛び込んだり、資格取得などの自己投資をしているにも関わらず、その保有している能力を活かすことができないという不満も多く聞かれます。

 そう感じる理由は、希望の部署への配属がかなわなかったり、単純作業・反復業務が多い属人性の低い業務にしか携わっておらず、仕事を通した自己実現が難しいと感じたりする場面があるからです。

 また、そのような学び直しをする社員の多くは、学費などのコストを回収したいと考えているため、仕事に活用できないと余計に不満を感じやすいと推察されます。

 ここでは、上記の理由による離職を食い止めるための施策として、おすすめの方法をご紹介します。

離職防止を防ぐ4つの方法
離職防止を防ぐ4つの方法(デザイン:吉田咲雪)
  1. 人事評価制度の透明化
  2. 働きやすい職場環境の整備
  3. 多様な社内ネットワークの構築
  4. 社内の異動制度を公募制にする

 社員が給与や待遇に不満を感じるのは、自分の働きが「正当に評価されていない」と感じるからです。ですから、給与・待遇の決定方法や、昇進昇格のプロセスが透明化されることが有効です。

 たとえば、どのような資質・スキルが整えば昇給・昇格ができるのかといった必要条件の明示や、職位に応じた権限範囲、給与テーブルの公開などがあげられます。

 また、実際に評価するときも、社員が考えている自己評価と企業が考えている社員評価にずれがあると不満が生じやすくなるので、360度評価や1on1ミーティングなどで適宜本人へ行動のフィードバックをし、評価のすり合わせを行うことが望ましいといえます。

 労働条件への不満対策には、働きやすい職場環境の整備が有効となります。企業のガバナンスやコンプライアンスの観点からも重要な施策です。

 職場環境を整備するときは、まず長時間労働、休日労働の頻度、年次有給休暇の取得実績などの確認を行います。ここでしっかり実態を把握することで、それに適した対策を検討できるようになります。

 続いて、社員が不満と感じる事象について、優先順位の高いものから対策していきます。例えば、月80時間を超える残業など法令違反があれば、最優先で対策しなければいけません。

 また、一部の社員に労働時間の偏りが発生していないかどうかも要注意項目です。このようなケースでは能力の問題なのか、人員配置の問題なのかも含め原因までしっかり調査し、対策を講じることが重要です。

 一般に属人性の高い仕事が多くなればなるほど代替がきかず労働負担が増すため、仮にそのような状況があれば複数担当制を採用するなどして、仕事の量を分け合うような工夫をするとよいでしょう。

 人間関係が硬直すると、その状況がすべてだと思ってしまい、不満を大きくしてしまうことがあります。また、トラブルが発生するとその中で解決しなければならないと思いこんでしまい、より人間関係を拗らせてしまう場合もあります。

 したがって、社内に多数のネットワークを持たせて、視野狭窄に陥らないようにすることがポイントです。部署にある不満を相対化したり、実際に発生している問題の早期解決をする糸口になったりするなど、離職に至る前のトラブルの芽を摘む効果が期待できます。

 自分の所属する部署以外の社内ネットワークを社員に作らせる方法としては、例えば社内メンター制度やワールド・カフェといった他部署とのワークショップの導入などがあげられます。

 また、必ずしもオフラインで行われる必要はなく、チャットワークのようなコミュニケーションツールを活用したり、サンクスカードなどでメッセージを送りあったりするのも有効です。いずれにしても、企業の実態に合った形で行うことが実効性・継続性の観点から望ましいと考えます。

 能力・個性・資格を活かせないという不満に対しては、社内の異動制度を公募制にして対策するとよいでしょう。

 これは、社内の部署異動・担当替えについて、従来の異動制度である自己申告制度から社内公募制度・社内FA(フリーエージェント制度)へ制度変更することにより、社員の自発性や能力、保有資格を活かしていこうという方法です。

自己申告制度 社内公募制度 FA制度
実施主体 人事部・人事担当者 各部署・部門・プロジェクト 社員
特徴 本人が希望部署を人事に申告し、希望部署が受け入れできる場合に異動となる
基本的には希望部署に欠員が出るまでは異動できない
部門等に欠員が出たときに公募をかけ、異動を希望する社員が手挙げする制度
異動希望者のなかで選考されることが多い
一定の要件を満たせば社員自身が異動したい部署等に働きかけできる制度
自分の保有能力、資格などを社内にアピールできる

 公募制・FA制にすることで、社員は自分の処遇に不満があれば、より自分の力を活かせそうな部署などに手を挙げて異動することができます。

 企業が本人の能力や意欲のすべてを把握することが難しい以上、社員自身に能力を発揮しやすい環境へ異動してもらえれば、より効率的な人材活用につながるでしょう。

 社員も自身のモチベーションの向上や興味関心、キャリアパスに応じた社内キャリアの蓄積ができ、よりやりがいを感じながら働けるようになります。

 筆者が支援した企業の中で、これから離職防止に取り組むときの参考となるような事例を2つ、ご紹介します。

 製造業・A社は新規事業やそれに伴う広報、営業などのプロジェクトをすべて社内公募の手上げ制にしています。社員がやりがいを感じやすい制度に変更したことで、3年間、自己都合による離職者を0人におさえることに成功しました。

 また、製造の現場を知る社員がプロジェクトに入ることにより商品企画の精度があがったり、説得力の高い営業プレゼンができるようになったりするなど、仕事の生産性も向上。

 さらに、社員同士のネットワークも広がり、部署どうしの派閥があった過去が信じられないほど、各部が事あるごとに連携するようにもなっています。

 介護施設を営むB社では、定期的にMBTI®(ユング心理学をベースにした自己申告型の診断アセスメント。個人がどう世界を認識し、物事への決定を下すかについて16の類型で表すもの)を活用した社内のワークショップを開催。自分と他人のコミュニケーションの癖を理解することで情報伝達の齟齬を防ぎ、心理的トラブルの芽を摘んでいます。

 客観的なアセスメント結果を得ることで、「自分ならこう思うが、この人はこのように思う」「自分はこのような作業は得意だが、この人は不得意なので助けてあげよう」といった情報が整理され、共有されることでチームとして部署が動けるようになりました。

 これにより社内で助け合う空気や助けてもらうことへの感謝の念が醸成され、残業時間も削減。離職の多い介護の業界にあって、平均勤務年数5年以上と素晴らしい結果を出しています。

 社員の離職の本当の原因を、企業はなかなか知ることができません。しかし、その原因こそ企業の成長を阻害する要因ではないでしょうか。

 社員が離職する要因に対してきちんと対策を施すことができれば、社員は経済的・精神的な安定を持てるようになります。定着率が自ずと向上し、採用・定着にかけたコストを償却させることもできるでしょう。

 また、社員の定着率が上がれば、さらに人材の獲得が容易になり、優秀な人材も確保しやすくなります。それは企業の生産性向上と社会への価値提供の範囲が広がることも意味します。

 ぜひ自社の価値向上のために、社員の離職防止のため積極的に対策を始めましょう。